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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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13. 策謀

「ご、ごめんなさい、!」


「い、いや、俺よりも水篠(みずしの)さんが危ないんだよ!?」


 迫りくる足音に怯えながら、小声で話す2人。もうそこまでというところまで人影が近づいた、その時。


ーもうダメだ、ここは俺が(おとり)にー


「おっしゃっ!もう少し話聞きたかったけど、ここまでみたいだな」


 (おもむろ)に呟いた(しん)はそう言うと、1人立ち上がった。


「お、お前、一体何しようと、」


「あいつらには"誰も居なかった"って言っとく。後は知らん!」


 碧斗(あいと)の言葉を(さえぎ)る様にすぐに言う進。その言葉に、最初に進が現れた時に少しでも疑ってしまったことに罪悪感を感じる。


「ほ、本当にいいのか、?元は進も水篠さんを狙って、」


「まぁな、でも信じてみたくなっただけだ」


 恥ずかしそうに、静かに呟いたが、碧斗の耳にはよく聞こえた。進はそう言うと1人、足音のする方へゆっくりと歩みを進めた。すると、去り際に進が言う。


「ここからは自分で頑張れよ!」


 その言葉を最後に沈黙が流れた。遠くで「こっちは居なかった」「なんだ進かよ。ビビったわー」などの声が聞こえる。


「な、なんか、いい人だったね。サクマシンクン」


「そ、そうだな」


 歩美(あゆみ)の言葉に短く返した碧斗は、進との関係に改めて感動する。"友達だから。"という理由で助けてくれた進に、憧れと尊敬の感情が生まれる。


ーいつか、俺もー


 そう内心で呟き、沙耶(さや)を助ける事が進への恩返しになると、それが今の碧斗の役目である事を再確認し、新たな策を考えるのだった。


           ☆


 進が身代わりになってから、数分が経った。


「で?その人の情報集めるって言ったって、そう簡単に出来る事じゃないでしょ?ここに居るのは私を含め3人。それに、他の人達は今そんな事聞けるような状態じゃないの知ってるでしょ?」


「う、た、確かにそうだけど」


 強気にものを言った碧斗だったが、図星を突かれ怯む。


 だが、碧斗には他の人にはない知識がある。数週間の末、身に付けたこの世界の言葉。完全ではなかったが、普通の書物であれば読む事は可能だろう。


「俺は、この世界について調べる」


「え?」


 心の中で整理し、結果を述べる。その唐突な言葉に動揺する歩美。


「水篠さん。修也(しゅうや)くんはこの世界に来る前はおかしくなかったんだろ?」


「あ、は、はい」


「よし、なら」と、何か合点がいったのか、自信ありげに呟く。


「とりあえず、話せる人から情報を得て、そこから調べよう」


「へー、まあまあ考えてはいるんだね。でも、ごめん。私はここまでかなー」


「そ、そうか、まあ、あまりこっちに居ても、碓氷(うすい)さんも疑われちゃうかもしれないしね」


 少し残念な気持ちはあったが、ここまで話を聞こうとしたり、食堂で庇ってくれたりと十分色々してもらったので、受け入れる碧斗。


「また落ち着いたら来るから。その時までに進展してなかったらどうなるか、」


「わ、わかった!わかったから!ち、ちゃんとやるよ。水篠さんは守るし」


「あはは!そんなビビんなくていいのに。うん、じゃあよろしくね。じゃっ!」


 そう言い残すと歩美は路地の奥に姿を消した。その時、沙耶と2人だけの状態になっているのに気づいた碧斗は、途端に体温が上昇するのを感じた。


ーま、まずい。2人だけってやばいな。元々女子と話した事なかったのに、、ってよく考えたらさっきまでよく女子2人相手に話してられたな!?ー


 冷静になったと同時に、自分が置かれている状況を理解した。ピンクシナリオが頭にあるわけでは無いが、2人きりとなるとドキドキする感覚があった。


「あ、あの、い、伊賀橋(いがはし)、くん?」


「あ、ああ。と、とりあえず水篠さんが隠れられる場所を」


 顔を赤く染めている沙耶を見て、ここでさっき「守る」なんて強気に宣言したことを思い出す。


「あ、ああ!いや、その、あれは、その」


 碧斗は恥ずかしさを誤魔化しながら、慌てて訂正しようと試みるも、上手く言葉が出ない。すると、意外にも沙耶が小さく呟く。


「あの、なんで、ですか、?」


「え?」


 突然の言葉に驚きつつも冷静を装い返す碧斗。


「なんで、助けてくれるんですか、?みんな、普通はこんな事信じて、くれない、ですし、何も見返りなんて持ってないですし、佐久間(さくま)くんも、碓氷さんも、伊賀橋くんも、なんでそこまでして私のこと、」


 きっと現世でもこんな世界にいたのだろう。人は(みにく)く争い、人は人を信じないような世界。さっきの話を思い出し、沙耶の学校があまり治安の良い場所ではない事を理解する。だから、


「それは、信じたいって思ったからだよ。勝手にそう思っただけ。進だってそう言ってたでしょ?まあ、碓氷さんがどうかは分からないけど、少なくとも俺はそうだよ」


「な、なんで、、そんな、いい人なんですか、」


 泣き出してしまった。この世界に来て、不安と恐怖でいっぱいで、周りの人はみんな怖く感じた。それなのに


ーそれなのに、こんな事言われたら、もうー


「あ、え!?あ、ご、ごめん!いや、その、」


 目の前で静かに涙を流す沙耶に、挙動不審な反応をしながらも、なんとか慰めようと試みる碧斗。


「ありがとう」


 短く、掠れた声で小さく言う。他の事も沢山言いたかったが、それ以上言葉が出てこなかった。


 だが、それに碧斗は理解したように頷く。


「絶対に誤解を解くぞ。そして、このギクシャクした空気を終わらす」


 真っ直ぐと目を見て碧斗は言う。

 その目の奥には燃え上がる意志のようなものを感じた。


「うん!頑張ろっ!」


 碧斗の力強い宣言に思わず笑みが溢れる。そして、沙耶の「心からの笑顔」に碧斗は恥ずかしさから目を背けるように目を泳がす。


 まだ2人とも緊張していたが、最初とは違う暖かさがそこにはあった。この楽しさが、この明るさが、失われない事を全力で祈りながら薄暗い道に歩いて行くのだった。


           ☆


 それからというもの、村に降りて身を隠してくれる家を探し続ける碧斗と沙耶。最初は宿を探そうとしたが、財布を現実世界に置いてきてしまった2人は払える額は持ち合わせていなかった。と言う前に、この世界の通貨すら知らない碧斗は、宿に泊めてもらうという考えは完全に無謀なものとなった。


 しばらく村を歩いていると


「え?あの、勇者様!?こんなお若いとは」


「話は聞いているんですか、?俺たちの事」


「ええ。もちろん!まあ、立ち話もなんですし、入っていってください」


 情報を集めるには持ってこいな居酒屋を訪れた碧斗達は、閉店間際だというのにわざわざ中に入れてくれるという、髪を結んだ、"大人のお姉さん"の雰囲気を醸し出す女性の言葉に甘えるのだった。


「お話があるんですよね?呑みながら話しましょうか」


「あ、いえ。実は俺たち未成年ですので、その」


「あ、すいません。そうですよね、ティーしかございませんが、よろしいでしょうか?」


「あ、はい。わざわざありがとうございます」と一礼をし、隣に座った沙耶も静かにお礼をする。この世界では「ティー」と呼ばれていたが、どう見ても烏龍茶である。


「ところで、何故こんなところに勇者様が、?王城に居るはずでは、」


 健康的で、スポーティーな体型をしたその女性の美しさに、目のやり場に困りながらも、事情を説明する碧斗。だが、


「え!?それは抜け出してきたって事ですか?それは城に戻って国王様と話し合った方がいいと思いますよ?」


 正常な反応だが、碧斗達は帰るわけにはいかないのだ。なにせほとんどの人達に敵意を向けられているのだから。


「でも、そういう訳にもいかないんです。色々あって、」


「そうなんですか、うーん。でも、一度報告だけでもしてきた方が良いと思いますよ?私もあまり国王様絡みだと色々言えないもので」


 苦笑いをしながらも、真剣に考えてくれているようだった。ここで少しの間、住まわして欲しいと言うのも違うと思ったので、ひとまず諦める事にした。


「すみません、わざわざこんな時間に」


「大丈夫ですよ。また今度お客さんとして来ていただけると嬉しいです」


 にこやかな表情に見惚れてしまった碧斗。すると、


「伊賀橋くん!」


「はっ!は、はい!また来ます。まあ、呑めるものはありませんが」


 沙耶の注意を受け、我に返った碧斗は冗談めかしてそう言い、新たな場所に向かった。


「はぁ、そう簡単には見つからないなー」


 それはそうである。時間帯も日付を超えて、家の灯りは次々と消えているのだ。ただでさえ「泊めてくれ」なんて事受け入れてもらえないのに、尚更だ。


「う、うん。どうしよ、もしもの場合は私の事はいいから、伊賀橋君だけでも王城に戻って」


「何言ってんだよ、守るって言っただろ。水篠さん置いて行けるわけないでしょ」


 立ち止まり、沙耶に笑顔を送る碧斗。すると、沙耶はみるみると顔を赤らめ


「あっ、そのっ、ああ、えと、私には、、いるので、その」


 消え入りそうになりながら早口で何かを呟いている。


 自分の言葉がナンパの様だったかは分からなかったが、一途に、純粋に人を想う姿に思わず口が緩む。


「ど、どうしたの?いきなり」


「い、いや、なんでも、、無いです」


 沙耶の言いたい事はなんとなく理解していたが、碧斗は知らないフリを装い、首を傾げるのだった。


           ☆


「ーーって感じかな、殺人鬼の事とか、この世界を調べるって言ってるけど」


「この世界の事を調べる。修也の事を調べる。か、」


 少量の光に照らされた薄暗い部屋から、外を見ながら独り言のように言う。


「はっ、そんな事出来るのかねぇ。どうせ味方は居ないだろうに」


「確かにねー、でも気をつけてね?案外全て丸く収めるかもしれないよ?」


 静かにと、だがどこか悪戯っぽい笑顔で1人の女子が言った。


「大丈夫だ。事が収まる前に俺が修也を消す。ヒーロー気取りもここまでだ、伊賀橋」


 "金色の髪が目立つその男"は、下卑(げび)た笑みを浮かべるのだった。


「楽しみだな、いからし君がこれからどうなるのか」


 部屋を出ると同時に、その女子は静かに笑った。

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