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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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12. 疑問視

 目の前には、ずっと友達であった(しん)の姿が現れ、前までは嬉しい状況だったでだろう。だが、今は進の能力を知っている碧斗(あいと)には足がすくんで仕方がなかった。


「煙が消えるのが早かったから、そんなに遠くには行ってないと思ったけど、やっぱ探すの近くに絞っといてあたりだったな」


 1番最初に碧斗の能力を知り、ずっと煙の力を見てきた進には、碧斗の思考を理解している様だった。1番近くにいて、友達だった進が、今ではただただ厄介(やっかい)である事に他ならない。


「流石、俺の事よく分かってるな。でも、いくら進だからって、いや。進だからこそ手を汚させるわけにはいかない」


 冷や汗をかきながら、それでも真っ直ぐ進を見ながら力強く言った。


「俺は別に殺してでもっていう考えじゃないからさっ!話してくれるのであれば聞くよ?」


 こんな状況だというのに、相変わらず明るい表情で話す進に、どことなくその言葉が真実か疑う碧斗。


「それで?さっき守ってもらったって言ってたよね?それってどういう、」


 緊迫した状態だった沙耶(さや)に、問いかける歩美(あゆみ)


「あ、は、はい。えと、私、静かで話もちゃんとできない、んですけど、その、頭が弱くてあまり良い学校に行けなかったんです」


「なるほど」


「あの不良と一緒の学校だっていう理由はなんとなくわかった」


「へー、で?守ってくれたって事は絡まれたところをって事?」


 碧斗、進、歩美が、口々に言う。


「あ、えと、は、はい。私ってこんな感じですし、学校でよく絡まれて、、その時」


「へぇー。へぇー」


 耳まで真っ赤に染めて一生懸命に話す沙耶の様子に、ニヤニヤとしながら割り込む歩美。


ーそっかー。この反応は絶対そうだなぁー


「な、なんだ?」


「話が進まねぇぞ」と、それぞれ碧斗と進が放つ。


「ごめんなさーい。で、その絡まれたところをあの人が助けてくれた。と」


「は、はい」


 顔を赤く染めて俯く沙耶。


「そんなズイズイ聞くとびっくりしちゃうんじゃない、かな?」


「はー、分かってないなぁ。で?その人の事どう思ってるの?」


「え!?いや、いやいや!その、どうと言われると、その、」


「ち、ちょっと。その辺にしといて、」


 顔から火が出るのではないかというほどに耳まで真っ赤に染まった沙耶を見て、碧斗は慌てて止めに入る。すると、


「なるほど」


「..っ!?なっ!」


 碧斗がどこからか聞こえた聴き慣れない声に、思わず声を上げた。


「え?」


「どうした?碧斗」


 と歩美と進が、不思議そうな顔をしている。一方の沙耶は何も言わないが、首を傾げている。無理もない、1人で驚き、声を上げたのだから。


 みんなの反応から、自分にしか聞こえていない事を理解した碧斗は、「いや、なんでも」と呟くように言った。


「で、で?その、助けてくれたから恩を感じている、って感じかな?水篠(みずしの)さん」


 空気を変えるべく話を戻す碧斗。それに進は


「こいつ、水篠ちゃんが同い年なの知ってさん付けになったな」と静かに呟いた。


 それをかき消すように咳払いをする。すると、その様子が面白かったのか、沙耶はクスッと笑った。


「な、何!?」


「いや、その、ふふっ。やっぱり普通の男子だなって」


「どういう意味だ!?」と進。


「その、正直怖かったんです。知らない人ばっかで、クラス替えとは違って世界も違くて、能力とかもあって、でも安心しました。なんだか、普通に学校にいるみたいだなって」


「あー、私もわかるかも。ちょっと最初は怖いよね」と歩美。


「絶対思ってねぇだろ」と呟いた進を睨みつける歩美。


「そっか、そう思ってくれたなら良かった。人と関わるって怖いけど、でも」


 そこまで言って、碧斗は転生してからの事を考える。思えば、現世ではありえない程に人と会話をしている。


ー進、相原(あいはら)さん、鶴来(つるぎ)さん、水篠さんに、智也(ともや)くん。そして、碓氷(うすい)さんと、祐之介(ゆうのすけ)くんー


 と、その1人1人の顔を思い浮かべながら、沙耶の顔を真っ正面から見据えて言う。


「話せると凄く嬉しいし、楽しくなるよね」


 この世界が怖かった。魔物は出るし、能力は最弱。だけど現世よりも生き生きしているように感じる。それが、人というものなのだろう。


「おっ、碧斗、お前女子の顔ちゃんと見たの初じゃねーか?」


「う、うるせっ!」


 ずっと俯いていた沙耶が笑ったのだ。自然と自分もほころぶのは当然だった。今の悲惨な状況を忘れるかのように、4人は笑い合った。


           ☆


「それで、その人を助けたんだね?」


「あ、いえ、その、(かば)ったのも事実ですけど、そんな事するような人には思えないんです」


 数分後、話を戻すべく歩美が話を始める。


「なるほど、まあ、確かに水篠さんを助けた人がそんな事するようには思えないが」


 だが、と碧斗。

 人を殺めたのも事実なのだ。碧斗は沙耶の言葉を信じたい気持ちが大きいが、祐之介を殺した修也を許してはいなかった。


「でもなー、そうは言っても目の前で起こった出来事の方が優先したくなるしなぁ」と進。


「そっ、そんな!?」と、沙耶が声を少し荒げようとした時、碧斗が言う。


「なら、調べる必要があるな」


「「「え?」」」


「うん。桐ヶ谷修也の事を、調べる」


           ☆


「で?いがらしくん、調べるってどうするの?」


伊賀橋(いがはし)です」


 碧斗の短い返事に「ごめーん」と笑って返す歩美。


修也(しゅうや)君がどういう事をしたかを調べる。転生してからの様子をだ。現世でいい奴だったとしても、転生してから何かしらあったかもしれない。あるいは現世で、」


「なるほど、じゃあ水篠ちゃん、転生してから修也はどんな感じだった?」


「え、えーと、その、最初はなんか、いやいややってたというか、」


「確かに最初は文句ばっか言ってた気がしたな、王様の話がどーのこーの」


 碧斗は最初の国王への文句、森に入る時に理穂(りほ)という人物に話していた事を思い出して言う。

すると進もなにか心当たりがあったのか、


「そういえばこの国の法則が気に食わないような事は呟いてたな」


と言う。


「まさか、そこが不満で殺しをしたのか?」


「い、いや、あの人がそんな理由で、ひ、人を(あや)めるとは思えない、です」


 進の言葉に慌てて反論する沙耶。


「じゃあ一体なんで人殺しに、」


 歩美がそう呟くと同時に、何かに気がつく碧斗。


「そういえば、修也くんが1人で笑ってた時、あったよな?」


「あ、そういえば、!」


「様子がおかしかった時か」


 沙耶と進が口を揃えて言ったことにより、鮮明に思い出す碧斗。そうだ、あの時3人で話していた食事の時、修也は1人で異様な様子だった。


「あれ、からなのか?」と進。


「いや、あれは"そうなった"事による症状としか思えない」


 つまり、と付け足し核心をつくように言う。


「国王への反発とその食事の時の間に何かあったって事だ」


 碧斗を含め3人はその結論に同意した。だが、1人釈然(しゃくぜん)としない様子で話に入る。


「ねぇ、そんな事があったの?その時一体、」


「そうか、その時いなかったな。あの時、修也は1人で不気味に笑ってたんだよ」


 進の言葉に、碧斗は「それだけじゃない」と付け加え言う。


「汗をかいてて、あれは普通とは思えなかった」


「あの時、、話を聞いてれば、」


 沙耶が、過去の自分を恨むように神妙(しんみょう)な顔で呟く。


「いや、あの状態で話を聞いても、最初の被害者が水篠ちゃんになってただけだよ」


「へー、私が知らない時にも色々あったのね」と静かにそう呟いたのち、「あ、名前!あなたの名前聞いてなかった」と元気に言った。


 その声に圧倒されながらも、進は名乗る。


「俺は佐久間進(さくましん)!能力は空気圧だ」


「へー!サクマシンクンね、能力まで言うなんて、律儀だね」


「サブマシンガンみたいに言うなよっ!まあ、アイドルが名前と一緒に年齢言うのと似たような感じだな!」


「どういう事なの、?」


 イマイチ進の言っている事が理解できずに、首を傾げる歩美。


「はー、にしてもほんと人多くて覚えるの大変、あらすじのページにでもみんなの名前書いておいてくれればいいのに」


「おい!それはメタ発言じゃないか!?」


「そ、それは言っちゃダメなやつだ」


と、進と碧斗は慌てて言う。


「でも、本当にその通りだよ。なんで、最初に自己紹介の場を設けなかったのか、ずっと謎でしかたなかった」


「だよねー」と歩美が言っている中、碧斗はずっと考えていたその謎について思いを巡らせていた。その時、


「くそっ!本当にどこ行ったんだよ」


 大通りの方から聞こえた声に慌てて口をつぐむ碧斗達。


ー嫌な予感がする。まさか、この声の感じはー


 ゆっくりと家の影から声のする方を覗く。そこに居たのは、沙耶を探しに来ている人達だった。


「ま、不味いな、これ」


 止まない声に、高鳴る鼓動を抑えることが出来なかった。すると、


 沙耶が体の向きを変えるとジリッという音が鳴り響いた。


「ん?そこから音が聞こえなかったか?」


「あ?そうか?」


 聞こえてしまった様で数人の足音が碧斗達の方に近づく。


ーま、まずい、!ー


 ここまで来たのに、捕まってしまうのか。数メートルの距離にまで迫っている人影に、身体を震わせる碧斗達だった。

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