そして四人は――――寿奈編 その二
映画を見終えた後、私は行きつけのゲームセンターに足を踏み入れた。
お気に入りの2D格闘ゲームの筐体を素通りし、一年の六月以来遊び始めた太鼓の音ゲーの正面に立つ。
一年の六月に、服部先輩が私のリズム感を鍛える為にやらせたゲームだ。
あれからも、リズム感を鍛える自主練習の為に何度も足を運んでいた。
そんな思い出一杯のゲーム機の筐体に百円を入れる。
難易度は勿論、HARD。
今回も好きな曲をやろうかな、と曲を選択していたその時だ。
『スクールアイドル』というジャンルの項目。
私はそれを見てドキリ、とした。
まさか私達の歌った曲など入ってはいないだろう、と思いながらもその項目をタップする。
一覧表のようなものを開き、全曲を確認する。
聞いたことの無いスクールアイドルの歌や、『フュルスティンズ』の曲、『Rabbitear Iris』の曲まである。
「やっぱり、あるわけ――え?」
あるわけない、と言い切ろうとしたが、その必要は無かったらしい。
最後の方ではあるが、こう書いてあったのだ。
『Revenge Rhododendron』と。
私が一年の夏季大会で歌い、そして優勝した曲の名前だ。
「・・・・・・」
私は黙したまま、その曲を選択した。
真っ黒な画面の後曲が再生され、譜面に従って、私は太鼓をばちで叩き始めた。
「ッ!」
曲が始まって数秒。
まだミスはしておらず、コンボ数を稼いでいる。
ゲームで自分の曲を叩くのは初めての筈なのに。
「リズム感も、これで鍛えたんだよね」
一年の頃とは比べ物にならないくらい、リズム感は鍛えられたな、と自分のプレイを見て実感する。
結果はフルコンボ。
ミス一つ無く、全てパーフェクトだった。
「あれ、あれは杉谷寿奈!?」
唐突に聞こえたその声。
気付けば、私は沢山の人に囲まれていた。
多分、ファンの人達――なのだろう。
だけど私は・・・・・・。
「皆、ごめんね。
私はもう、『Rhododendron』のメンバーじゃないの。
だから、ごめんなさい」
言い終え、そのまま立ち去ろうとしたが。
「何言ってるの。私は寿奈さんが好きだから、『Rhododendron』のファンでいたの。
他のメンバーも確かに好きだけど、寿奈さんがいない『Rhododendron』はあり得ないわ」
「そうそう。あんな動きが出来るのは、寿奈さんしかいないッ!」
「最後の大会の前に、リーダーが抜けるなんて真似は許しませんよ!」
称賛、励まし、慰め、願い。
彼らは様々な言葉で、私への想いを吐露している。
「え・・・・・・。ですが私は、私はチームメートの事さえ分かってあげられない・・・・・・。最低なリーダーなんですよ」
「そんなことは、ありません」
私の言葉を否定したのは、聞き覚えのある声だ。
雪空真宙。
彼女は秀未と共に、私に近付いて続ける。
「先輩がいたからこそ、私達はここまで来られたんです。
私にはやっぱり、先輩が必要なんです!」
真宙の真剣な眼差しを見ながら、私は返すべき言葉を探した。
私はやっぱり、こういうしつこさでは他の皆に勝てないなと実感する。
少し笑って、こう返した。
「私は――――夢中になると周りが見えなくなっちゃうことが多いけど・・・・・・。
でもやっぱり、いやだからこそ好きなものを諦めたくない。
私はもう迷わない」
だから、皆に言う。
「ただいま、皆」
「おかえりなさい、先輩」
 




