そして四人は――――空良・真宙・秀未編
カードキーを翳すと、ドアが右にスライドした。
病室のベッドで上体を起こして外を見ていた少女が、真宙を見て挨拶をする。
「真宙か。毎日すまんな」
「大丈夫・・・・・・だよ」
秀未が気絶状態から回復したのは、昨日の事。
起き上がってすぐに、彼女は真宙に言った。
「空良に気絶させられた。奴は秘密を明かす気は無いと言っていた」と。
これで空良が出て行った上、寿奈まで出て行ったと口にすれば流石の秀実も辛くなってしまうだろうと真宙は思い、言うまいと決めていたが。
「奴は秘密を明かす気は無いと言っていた」と。
これで空良が出て行った上、寿奈まで出て行ったと口にすれば、流石の秀未も辛くなってしまうだろう、と真宙は思い、言うまいと決めていたが。
「真宙、何かあったのだろう。正直に答えろ」
どうやら、それは出来ないらしい。
「実は――――
「寿奈先輩が・・・・・・そうか。
真宙、どうするつもりだ?」
「分からないよ・・・・・・。折角寿奈先輩にブラジルから戻ってきてもらって、ここまで来たのに・・・・・・。
どうして――――ッ! どうしてッ!!」
「落ち着け」
真宙の左肩に乗る手。
それは秀未のものだった。
「寿奈先輩は絶対に戻ってくる。私を信じろ」
「うん・・・・・・。退院したら、頑張ろう! 秀未ちゃん!」
◇◇◇
それから、がむしゃらに――闇雲に。
ただ只管、自分に出来る事をやっていた。
秀未の言ったことを、疑ったことは一度も無い。
だが、今回は少しだけ疑わざるを得なかった。
寿奈は、やると決めたら中々やめない性格だと聞いた。
あの時、部を出ていくことを決意した時の顔は本気だった。
もう絶対に戻らない、と決めた顔。
どうせ戻らないのなら、自分で全てを決めるしかない。
先輩達や秀実、そして自分の夢だった冬季大会優勝の為に。
◇◇◇
あれから、退部した以外自分に変わったことは無い。
変わらず生活出来ているし、援助交際で変わらず金は稼げている。
一人でチェスをする日課も、そのまま継続している。
きっと、これで良かったのだろう。
寿奈とはやっぱり、今まで自分と関わってきた人間と変わらなかった。
寿奈でも、見放す時は見放す。
それが良く分かった。
元々空良は、大会優勝に興味は無い。
杉谷寿奈という人間を観察する為に、彼女は寿奈の誘いを受けた。
あとは寿奈や真宙が退部しようが負けようが知ったことではない。
そう、思っていたが。
「本当に、これで良かったのか・・・・・・?」
あの練習に耐え、それなりに活躍し、票を稼いで。
何故、そこまで協力する必要があったのだろう。
寿奈を観察し、見極めるだけなら、空良の力ならここまででは無いとは言え、十分寿奈という人間の性格を読み取れる。
読み取れる――――筈。
と、そんな時だ。
インターフォンが鳴り響く。
久しぶりだ、そんなことは。
銀行に口座を作っている故、家賃も電気代も水道代も全てそちらで処理される。
だから、ここに客が来るなど稀なのだが・・・・・・。
空良はドアの所まで歩み、内側にドアを開く。
そこにいちのは、空良と同い年くらいの少女だ。
紅い髪に緑の瞳、白いブレザーを身に纏っている。
確か――――滋賀では一番の名門女子高『フュルスティン女学院』の制服だ。
「何の用だ?」
「初めまして、黒野空良さん。
私は『white lillys』リーダーの星夜真友と申します」
真友と名乗る人物を、その自己紹介と彼女の顔、雰囲気で察した。
「・・・・・・。私に『Rhododendron』を潰せ、とでも言いたいのか?」
「察しが良いですね。その通りです。
彼女達が、大会に出られなくなるように何とかお願いします」
「へっ、良いよ」
空良は、黒く笑った。
この後どうなるのか。それに対して、だ。




