過去編 服部一年生編
九月がそろそろ終わりに近づいてきた。
四月にスクールアイドル部に入り、間もなく半年になる。
最初は不安が沢山だったが、今の私にとってはこの部での活動がすっかり当たり前になってしまった。
さて。そのスクールアイドル部は、どのようにして生まれたのか、気になる所である。
練習中の事。服部先輩に、何となく聞いてみた。
「そう言えば先輩。このスクールアイドル部って、どんな感じで出来たんですか?」
「え、急にどしたの?
まあでも、それなら教えてあげるよ。あれは、私が一年生の頃だったかなぁ――
そう言いながら、服部先輩は空を見て語りだした。
◇◇◇
私の名前は、服部正子。滋賀県立〇×女子高等学校に通う一年生。
特徴といえる特徴もない――普通の女子高生だ。
と言ってもそれは、周りが濃すぎるだけかも知れないが。
私には、どんな時でも一緒にいてくれた親友が二人いる。
緑の短髪と、クールな容貌を持つスポーツ万能少女の百道優。
青の長髪と、眼鏡を掛けた大人しい容姿を持つ学業優秀の伊賀崎道女。
そんな二人と今まで一緒に生きてきたが故に、自分は普通であることにコンプレックスを抱いていたんだ。
だけど、そんなある時。
私は出会った。アイドルという存在に。
学生がやるらしい、スクールアイドルがフィクションの世界だけでなく、現実世界でも流行りだしていた。
やってみたい、私はこのステージに立ちたい。そんな気持ちで一杯になり、今私は。
いつも通り三人で、部を認めてもらう為に、生徒会に足を踏み入れていた。
◇◇◇
だが結果は・・・・・・。
「認められない・・・・・・かぁ・・・・・・。」
とぼとぼ、と私達は生徒会室から出た。
「ったく、生徒会長の奴ケチだよなぁ」
「だ、だねぇ」
二人も、愚痴を零しながら歩いている。
この高校に、スクールアイドルなど必要ない。そんな言葉を生徒会長に、掛けられた。
「正子ちゃん・・・・・・。やっぱり諦めた方が良いんじゃ・・・・・・?」
道女の弱気な発言に、涙を流しながら、私は言う。
「何言ってるのよ道女! ここで諦めちゃダメだよッ!
認めてもらうまで、何度でも当たり続ける! そう決めたんだよ私はッ!」
ローファを履き、そのまま二人を置いて私は駆け出した。
いつの間にか私は、自分の家ではなく、海が見える崖にいた。
こんな場所は知らない。自棄になって走っていたら、偶然ここにまで来てしまったのだろう。
正直言って、無理かも知れないと心から思っているのは私だった。
そう。私は昔からネガティブな性格だった。
無理矢理自分に言い聞かせるように、ポジティブ発言を心掛けるようにしていたが、昔はとことんネガティブだった。
受験勉強も、最初は二人と同じ学校に入れるか不安で仕方なかったが、二人が手伝ってくれた。
そして、高校に入れて。自信も少しついて。ようやくスクールアイドルがやれると思ったら、こんな結果だ。
もう、悲しくて仕方ない。
そして私は――――
◇◇◇
「そこで私は――
「え? 先輩一年前まで別人のようにネガティブだったんですか!?」
「そだよ? 驚いた?」
うん。想像も出来ない。
合宿の時鉄骨渡ったり、テストで赤点を取ってもあんなに平気で、それでも皆のリーダー、って感じの先輩のイメージからはあまりにもかけ離れている。
いっそ作り話と言ってくれた方が、辻褄は合いそうだ。
「それで、崖でどうしたんですか?」
私がそう呟くと、服部先輩が微笑みながら琴美先輩を見て口を開く――。
◇◇◇
一思いに、飛び降りてしまおうと思った。
私が生きていても、あの二人のように輝けない。
それなら、好きなことさえやることを許して貰えないなら。
このまま落ちてしまおう――。
私は目を閉じてから脱力し、倒れこむように崖から落ちた。
「危ないッ!」
右手が掴まれる感覚。それと同時に、落下しようとしていた私の体が止まった。
そのまま私は、崖に叩きつけられるように救出される。
「痛たた・・・・・・、何なのいきなり?」
私を助けたと思われる人物が、両手を腰に添えながら言う。
「全く、それは私の台詞ですよ?」
そう言った人物を、詳しく見る。
女性だ。黒のポニーテールに、可愛いというより、美しいという印象の、紫の瞳の整った顔。
制服は私が通う〇×女子高のもの。自由に選択可能なリボンの色も紫色。
雰囲気的に、上級生だろうか?
「あの・・・・・・?」
「あ、自己紹介していませんでしたね。私は風魔琴美と言います。
二年生です。貴女、多分後輩ですよね?」
風魔・・・・・・。聞いたことがある。美術室の近くで、彼女が描いたという作品を見たことがある。コンクール的な奴で最優秀賞を取ったらしい。
「貴女のお名前は?」
そう聞く風魔に、海を見ながら、静かに呟いた。
「服部正子・・・・・・一年生」
「元気無さそうな声ですね・・・・・・? まさか自殺でもしようとしていたんじゃありませんよね?」
「ば、バレた?」
頭を搔きながらそう言うと、琴美さんが私に近づいて頬に手を添えた。
「二度と、こんなことしないでくださいね。
自殺なんて、するものではありません。何があったのか、私に全て話してみなさい。解決するかどうかは分かりませんが、全力でお相手致します」
そう言われてから、しょんぼりしながら立ち上がり、夕陽の空を見て言う。
「私は、何も持たずに生まれたんだよ。しかも、それを言い訳にして、何もしようとしないダメな人間だったんだ・・・・・・」
私の友人達が嫌いなわけじゃない。何の才能もなく、ただ助けられて生きてきて、自分から何かをしようとも言えない自分と友達になってくれた。
中学生になって、やっと友達の前では自分に嘘がつけるくらいに成長し、友人の前では明るい自分を演じていたが。密かに自分の弱さに耐えられず、時に自傷する時さえあった。
そんな自分は、ある時アイドルに憧れた。
だけどその夢は、生徒会長によって打ち砕かれてしまった。
それを全て、風魔さんに打ち明けた。
「そうですか・・・・・・」
「私はどうすればいいの? 初めてやりたいことが見つかったのに、こうして叶うことなく潰されて・・・・・・。もう死ぬしかないじゃないッ!」
歯を食いしばり、夕陽に向かって泣く私の右肩に触れながら、風魔さんは言う。
「死んだら、次あるチャンスさえ逃してしまいますよ。
負けても次がある。負けてもその次勝つ為に、今を全力で戦うんです。
幸い副生徒会長と私は友人です。もう一度私と一緒に、部の申請をしに行きましょう」
その言葉を聞いて、私は少しだが笑顔になった。
◇◇◇
次の日。
風魔さんの協力もあり、部の申請が承認された。
「まさかあんたが来たおかげで承認されるなんて驚きだぜ・・・・・・」
眼を丸くしながら、優が呟いた。
「正子ちゃん、風魔さんとはどうやって会ったの?」
私は照れながら、無理矢理明るく言った。
「いやぁ、ちょっと色々あってねぇ!
さぁ、ラーメンでも食べに行こう!」
「スクールアイドル部結成を祝して~!」
「「「かんぱーいッ!」」」
四人で乾杯をしてから、水を口に含む。
奥の席で風魔さんと道女が会話し始める。
「本当にありがとうございます、風魔さん。わざわざ部にまで入っていただいて」
「あ、いえいえ。スクールアイドル、少し前から興味あったんですよ。
だから、ちょっとやってみたかったんです」
私はその光景を、大のマシマシを食べながら眺める。
「相変わらずよく食べるなぁ、お前」
隣に座っていた優が、呆れたような声で言う。
「食欲旺盛なの、私の唯一の取柄なの知ってるでしょ?」
「大食い選手目指せばどうだ?」
「いやぁ、流石にあそこまで食べられないなぁ。大のマシマシ三杯食べるのが限界だよ」
「それ十分凄くね!?」
◇◇◇
その日から、一年が過ぎた。
私達は、スクールアイドルとして活動を続け、冬季大会まで漕ぎつけた。
だが結果は・・・・・・。
「まだ、十位以上にいけてない、か・・・・・・」
今度の冬季大会は、重要だ。
来年度、このスクールアイドル部に部員を入れる為にも。
今私は、風魔さん・・・・・・琴ちゃんと一緒にいた。
「今度の大会、勝てるかどうか不安だよ・・・・・・」
琴ちゃんが苦笑しながら答える。
「私と一緒にいるときは、今でもネガティブですねぇ。
今までだって、何とかしてきたじゃないですか。だったら、次も同じ。勝つ為に最大限の努力をするのみです!」
「琴ちゃん・・・・・・」
◇◇◇
こうして大会の日。
私達は、四人でステージに立っていた。
「行くよ、皆」
ステージが暗転し。演目が始まった。
◇◇◇
『出会いに感謝』作詞 松野心夜 作曲 無し 歌 歌 スクールアイドル部(服部正子、風魔琴実、百地優、伊賀崎道女)
君と出会えたことに 心から感謝して生きたい
この出会いは 永遠の宝さ
君がいたから ここまで来られた
その出会い 今この瞬間活きる時さ
卑屈だった僕がここまで 来られたのは
他ならぬ 太陽のような
君のような 存在がいたからさ
出会いに感謝
この出会いは 二度目の誕生さ
君がいなきゃ 既に死んでたさ
その出会い 今この瞬間を作ってるのさ
ひ弱だった僕がここまで 生きれたのは
他ならぬ 太陽のような
君のような 存在がいたからさ
出会いに感謝
◇◇◇
こうして、大会が終わった。
だが、私達を待ち受けていたのは。
「〇×女子高校スクールアイドル部、〇票」
たった一票すらも入らないという、惨憺たる結果だ。
◇◇◇
「――というのが、私が一年の時の思い出だよ」
「え? それで、どうやって先輩は今みたいなポジティブな性格になったんですか!?」
「そりゃあ、琴ちゃんがいたからだよ。帰る途中、私もすごく泣きそうになった。でも、琴ちゃんが優や道女のいない所で、また言ってくれたの。『負けても次がある。負けてもその次勝つ為に、今を全力で戦うんです』ってね。私達は、今は全力で戦って負けた。だから、賭けたの。次に」
そして、先輩は、私を見た。
◇◇◇
服部正子、二年生。
今日は、新一年生が入学してくる日。
前回の大会では、負けてしまった。
だから私達には、新たな力が必要と感じた。その為には、踊りの才能がある一年生が必要。
副部長たる私が頼まれた仕事。それは優が調べた、アクロバットな動きを得意とする中学女子サッカー界での天才ストライカーがいたら引き入れること。
尤も、入学していなければスカウトは不可能だが・・・・・・。
一年生の教室から聞こえた声。
「それでは、ホームルームはこれで終わりです」
一年の担任教師の声が聞こえた瞬間、一人の少女がドアから飛び出した。
茶色の短髪に、黄色の瞳の美少女。黄色いリボン。
彼女が、優の言っていたストライカー。
私は、彼女に声を掛けた。
「あの!」




