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今日からアイドルを始めたい!  作者: 心夜@カクヨムに移行
ファイナルライブ編 杉谷寿奈よ、永遠なれ!
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もう一つの結末

ほぼ死刑が確定な罪で再逮捕されてから数時間。

 真友は今、面会室にいた。

 死刑を回避するのはほぼ絶望的である、と告げられて、それを口にした看守と共に狭い部屋で面会をする。

 人生で初めてだ。

 こんな酷いことになるのは。

「・・・・・・」

「面会者が参りました」

「入れろ」

 ガラスの奥、面会者の部屋に一人の女性が入る。

 黒髪茶目の少女。

 何度も見た、忌々しい少女。

「すみません看守さん。

少しだけ席を外してもらえますか。

多分、私は今後真友と会うことはないでしょうし」

 空良がそう言った後、看守二人が部屋から出た。

 そして空良は、笑みを浮かべた。

「何のつもりで来たのですか?」

 真友が質問すると、空良は笑みを浮かべるどころか普通にクスクスと笑い始めた。

 天才である自分が、一番向けられたくない顔。

 暫く笑い続けた後、空良は顔を元の笑みに戻して答えた。

「失礼。

もう事件は終わったし、本当ならお前に用はないんだけどさ。

笑いたくなってきてやったよ。

私が本当に勝ったのかどうか。それも確かめたかったし」

 何も言い返せない。

 そもそも、あの時点で詰んでいた。

 空良はあの時、真友に機密情報を話させる為の脅迫として、真友が行った殺人事件の全容をバラすと告げた。

 だが、彼女は秘密を話せば生かしてやるとも言っていない。

 つまり、真友がどんな行動を取ろうとも死ぬのは確定していたのだ。

「気付いたみたいだな。

だが少し外れだ。

答えなかった時の為に、答えさせる為の方法を他にいくつも考えていた。

全て私の思い通りになるように、仕向けられていたんだよ。

分かるかな? 自称天才さん」

「くっ・・・・・・うぐっ」

 そこで真友は、物心ついて初めて、泣きそうなほどに屈辱を感じていた。

 それもただ煽られただけで。

 相手の心理を操るだけが取り柄の凡人に。

「もう何したって、お前は負けなんだ。

私が何をしたところで、お前を潰すことは出来ても、助けることなんざ出来ない」

 空良は真顔で言い放つ。

 だがその顔に、侮蔑の意味が含まれているのはもう分かり切っていた。

「それに、お前はお前でよくやったじゃん。

これ見ろよ・・・・・・」

「・・・・・・ッ!!」

 空良が見せた端末の画面。

 そこには『フュルスティン女学院』の廃校について書かれていた。

 理由は、数名以上の問題生徒を入学させた事。

 そして次のタブは、大学の廃校についてもだ。

 この大学は北子が通っていた大学だ。

 勿論生徒に関連する施設にも、悪評がつくことになった。

「お前凄いな。

お前のミス一つで、日本がここまで変わったんだからな」

 真友は青ざめる。

 自分が予想だにしなかった出来事が続いて、脳が受け入れを拒否し――。

「うわァァァッ! ああッああッ!」

 発狂した。

「あああッ! ああッ!

ああああああああああああッ!」

 言葉にならない声を散らし、現実から目を背け続ける。

 ――私はやっていない。知らない。嫌だ。

「それも、お前が言う因果応報って奴さ。

不幸だよな、天才って。

何でも思い通りに出来る代わりに、失敗したら立ち直れないんだからさ」

 空良は失敗から学ぶタイプの人間。

 だからこそ、虐めと戦う為に相手の心理を読む方法を考えた。

 対して真友は、徹底した完璧主義の人間。

 一つの失敗は全ての失敗に繋がるというのが、真友の思考回路だ。

 ――いやだ。いやだいやだいやだいやだ!

「ほわあッ!!」

 気付けば、両腕が頸動脈にまで伸びていた。

 死にたくないという意思に反して、身体がこの状況から解脱しようと自殺を図っている。

「ふっ・・・・・・死ぬ気か。

まさかここまで効果があるなんてな」

 苦しい。苦しい。

 息が出来ない。

「かはっ・・・・・・かはっ・・・・・・」

 空良は、再び笑った。

 目の前で自分が死ぬことに対して、止めようとも、誰かを呼ぼうともしない。

 ――何で・・・・・・。

 

 ――真友。まーゆ。

 ――どうしたの?

「・・・・・・

誰だ?

貴女は誰ですか?」

 ――顔を記憶の中から呼び出せても、天才の貴女は私の事なんてすぐ忘れちゃうよね。

 その人は真友に似ていた。

 赤い髪が、顔の輪郭が。

 だけど、瞳は澄んでいて優しい。

「母さん・・・・・・?」

 ――そうよ。母さんよ。

「ははは・・・・・・。

これは完全に負けた」

 少し嗤えてきた。

 そこで自分が、悲しい人間である事に気付いた。

 天才。

 そう言われ続けてきた私が、自分の目的の為に親の顔さえも忘れていたのだ。

 あの芽衣だって、友や両親の顔と名前が分かっていたのに。

 ――ははは、ははは・・・・・・。

「先に逝くよ。母さん。

・・・・・・」

 そう言って、真友は背を向けた。

 川に向かって、真友は歩く。

 

 ――――次は、勝ちたい。完璧を目指して。

 

「・・・・・・」

 顔色一つ変えずに、空良は終始それを見ていた。

 急に自殺を図った真友は、自分の首を絞める途中――。

 嬉しそうに涙を流して、その場で果てたのだ。

「馬鹿だな」

 と言いながら、空良は笑った。

 本心を隠して。

 

『――ちょっとは、人間らしい感情があるじゃないか』

 


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