敗者の末路
あれからすぐに、北子は牢獄に連れていかれた。
重美が死んだという現実、そしてその悲しみをバネにしてもう一度立ち向かっても失敗。
北子の心は、もうやつれていた。
もう今度こそ、逃げることも喋ることもしたくない。
だけれど、その心はある出来事で変わった。
赤い髪、そして全てを見通すように神秘的な緑の瞳。
しかし着ている服は、そんな超人にはとても似合わない囚人服。
星夜真友・・・・・・北子に金と技術と知識を与えた者だ。
そうだ、と北子は思う。
――こいつが私に話しかけなければ。そもそも会いさえしなければ。
重美が死ぬことは、無かった筈なのに。
北子が怒りを覚えると同時に、真友が話しかけてきた。
「失敗しましたか」
「・・・・・・」
北子は答えない。
「まあ、そうなるとは思っていましたよ。
貴女は彼女達を舐めすぎですよ・・・・・・」
自分がこういう運命を辿る事をさも当然かのように呟く真友に、北子は更なる怒りを覚える。
「何故よ・・・・・・。
何故私がこういう運命を辿るって予測出来たのよ」
「そんなこと簡単です。
貴女が、貴女自身が自分に自信を持っていなかったからです。
そして、貴女は私を過信した。
自分を信じずに、他人の力だけに縋る貴女は、恐らく私が告げた作戦の内一つでも狂うと混乱して、しばらく考えたことでしょう」
――実験で人が死んだ時、次どうすれば良いかを考えるのに長い時間を費やした。
北子は図星を突かれて更に怒り狂う。
「私の策は、私がいて初めて成功するものなのですよ。
それを貴女自身が統率して進めれば上手くいくなどと・・・・・・思い上がりも甚だしい。
貴女は私が知る限り、一番頭が悪い。
私のダメな教え子なら、こんなミスはしませんよ。
貴女はそれ以下だ」
馬鹿にされることには慣れていた。
今まで、自分の能力の低さを何度嘆いたことか。
だけれど、今回ばかりは許せない。
こいつの作戦は、結果として重美の命を奪った。
彼女は最後まで、私の作戦が成功することを祈っていた。
あの時、死ぬのは私であるべきだった。
重美は、私の知る限り良い子だ。
家族がいなかったからかも知れないが、その分友達を大切に出来る、良い子だ。
だから私の作戦を告げた時も、最初は少し辛そうな顔をしていた。
それでも、彼女は沢山の人を自分の手で始末しなければならないことと引き換えに、友達の作戦が成功することを誰よりも望んでいた。
それなのに。
「よく聞きなさいよ。
お前の作戦のせいで、重美が死んだ。
何故。何故彼女が死ななければいけなかったの・・・・・・?」
「よく言いますね。貴女自身の手では誰一人殺せなかった分際で。
貴女の大切な友が死んで、貴女自身がその友のことを嘆いて一生を過ごす。
それが、貴女が犯した罪に対して与えられた相応の罰なのですよ」
「・・・・・・それが、お前の答えか」
「?」
北子の言葉に、真友は首を傾げていた。
だが真友は、その答えをすぐに理解出来た。
「ま、まさか・・・・・・」
真友の前に現れる警官。その警官が手に持っていたのは、彼女が仕えていた刹那家で起きた殺人事件についての写真や調査資料だ。
「星夜真友。お前をこの事件の容疑者として、再逮捕する。
こんな沢山の人間を殺したのだ。無期懲役・・・・・・いや、最悪死刑もあり得るかもな」
それは、真友にとどめを刺す為に空良が用意したもの。
空良は既に、北子が真友に恨みを抱いていることを知った上で、この事件の証拠写真などを渡したのだ。
あとは事情聴取の際に、その情報を自分自身の口から告げた。
それが、今目の前で起こっていることだ。
「これはどういうことですか?」
「お前は言ったな。
人は自分の犯した罪に対して、相応の罰を受けると。
だからお前も、お前の犯した罪に対して、死という相応の罰を受けてもらうのよ」
冷静さを失った真友。
それでも、彼女は抗う。
「そんなことをしようがしまいが、恐らく貴女は重い罰を受けますよ!
これに何の意味が・・・・・・」
「意味なんて簡単よ。
私の親友を殺すような作戦を伝えたお前に、死んでほしい。
それが、私がお前を死刑に追いやる意味よ」
真友の顔が歪む。
いつもの冷静さが無くなり、息を荒らげて抗う。
「もし私とお前が死刑になったら、一緒にあの世で会おう。
そしたら、この話の続きを永遠にしますよ」
「嫌だ。嫌だ。
死にたくない。
私は死にたくない。
私は天才だ。それを失いたくない。
嫌だ。嫌だ。
嫌だあああああああああああああああああッ!」
そのまま真友は連れていかれた。
冷静な策士という偽りの仮面を自分で脱ぎ捨て、自分と同じ愚か者として。
「どちらが馬鹿で、どちらが天才か。
分からないね」




