復活
ニーナ・シルヴィアには、既に限界が近付いていた。
空港爆破事件並びに殺人事件の犯人を追って廃墟に向かった後、そこで待ち伏せていた者に気絶させられ、気付けば牢にいたのだ。
それからもう数日が経つ。
未だに出してもらえず、満足な食事すらない。
一緒の牢に入った仲間と話しながら、何とか寂しさだけは紛らわしているという状況だ。
最近は、また新しい者が牢に入った。
緑髪緑目の日本人女性。赤い制服に身を包み、緑のリボンと整った八重歯が特徴的だ。
他にいるのは、金髪青目の白人と――茶髪黄眼の日本人。
ニーナはとっくに諦めたというのに、彼女らは牢内にあるものを使って、必死にここから出ようとしていた。
「そんなことしたって、無駄じゃないの?」
もうこの質問を何回しただろうか、と自問し。
数えるのも馬鹿らしい、とニーナは心の中で吐き捨てる。
そして決まって同じような答えが返ってくる。
初めて茶髪黄眼の少女が囚われてからずっと。
「可能性が一パーセントでもあるなら、それを捨てるなんてとんでもないことですよ。
私達は、アイドルは、それを信じてライブに臨むんです。
皆をこれ以上待たせるわけにはいきませんし」
石を格子に叩きつけ、削る茶髪の少女。
「優先輩、行けそうですか?」
優という名らしい緑髪の少女はそれに答え、拳を叩きつける。
まだびくともしない。
格子がゴン、という音を立てて震えるが、まだ壊れない。
「まだダメだな・・・・・・もう一度擦ってくれ」
「はい」
何度絶望に立たされても、少女は諦めない。
アイドルという世界で、彼女は何度も絶望に立たされ、そして立たされる度に乗り越えたのだろう。
普通なら心が折れそうな状況でも、アイドルを名乗る少女達は懸命に問題を解決しようとしている。
市民の平和を守る警察官である筈の自分が、情けなく感じてくる。
「大丈夫ですよニーナさん。
もう少しです」
茶髪の少女が言う。
ある程度格子を擦った後、優にもう一度お願いした。
「これならいけるか・・・・・・」
優がもう一度拳を叩きつけようとしたその時。
ニーナの身体が、半ば勝手に動き出した。
「あの・・・・・・私にも手伝わせて。
私も、一応警察官だし、格闘技の心得はある。
二人の力を合わせれば、何とかなるかも知れない」
頭では諦めていても、心は諦めていないようだった。
ニーナは優の隣に並び、拳を構える。
「いいか?
これは拳を当てるタイミングを同じにしなきゃ意味がない。
拳の威力を共鳴させることによって、格子を壊すんだ」
「分かった」
優の忠告の後、深呼吸するニーナ。
そのまま一気に。
「はあっ!」「やあっ!」
拳を同時に叩きつけた。
ゴーン、と重い音を響かせた後、格子が音を立てて壊れ始める。
「今だ!」
優とニーナは何度も、拳と足を叩きつける。
格子は順調に壊れていき、人一人分が出られる穴を作ることに成功した。
「よし、これで出られるな」
三日かけて、漸く。
漸く、出ることが出来た。だが、まだ油断は出来ない。
「研究員と遭遇した時は、私に任せてくれ。
大会を控えている寿奈に怪我はさせられないしな」
優はそう言ってから、進みだした。
「はい。
行きましょう!」
こうして、寿奈達は征く。
世界に訪れる危機を防ぎ、皆で笑う為に。




