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第十五話 『炎熱領域を越えて』

 炎龍との戦闘後、周囲に魔物がいないことを確認し、討伐隊は再び休憩時間に入った。

 幸いなことに、あれだけの襲撃を受けても討伐隊には殆ど被害が出ていない。

 傷を負った者もいるが、ポーションや魔術でどうにかなるレベルだ。

 

 炎龍との戦いで魔力の大半を使ってしまったが、翡翠の太刀のお陰でほぼ回復しつつある。

 太刀が凄いのか、俺の魔力が少ないのか、と思わなくもないが。


 数分後、今後の方針を決める会議が行われた。


「今まで討伐隊はどれだけ上手く進めても、中腹の辺りで進行を止めていた。犠牲者も多く、また中腹以降は"炎熱領域バーニングプレイス"が続いているからだ」


 上級の炎属性魔術だ。

 俺達がここに来た時はそんな魔術は掛けられていなかったから、新しい炎魔将の力なのだろう。


 熱さと魔物との戦いで消費する体力と水の量を考えると、中腹で撤退するかどうかを決めなければならない。

 ここから先へ進むのであれば、炎魔将を倒す覚悟で挑まなければ待っているのは死だ。


「今回はまだ犠牲者が出てねぇし、体力や水も残ってる。進むべきじゃねえか?」


 多くの冒険者達は、先へ進むという意見を出していた。

 俺達にとっては都合がいい。


「二人はどう思う?」


 そこで、俺とエルフィに意見が求められた。

 さっきまで相手にされていなかったのに、炎龍を倒してからこの調子だ。

 

「異論ない」

「俺もだ」


 俺達二人の言葉が後押しになった、というわけでもないが、結局、討伐隊は先に進むことになった。

 


 

 中腹から出発して三十分ほどが経過した。

 迷宮の奥に来ているだけあって、魔素も濃く、また魔物の数も多い。


 中腹を越えた当たりから、下級の魔物であるファイアローパーの姿は見なくなり、代わりに炎岩虎や炎蜥蜴ファイアリザードが多く出てくるようになった。

 それも一匹一匹の力が強い。

 冒険者達から次第に余裕が失われていくのを感じた。


 いくら精鋭とはいえ、これだけ魔物が出れば相手しきれない。

 仲間の数が多いため、魔物を避けて突破することも出来ないしな。

 迷宮を攻略するなら、一国最高レベルの実力者数人で挑んだ方が効率がいい。


 それから数分して、また魔物の一群と遭遇した。

 前後、左右から挟み撃ちにされ、俺達はその対応に負われる。


「うわあああ!?」


 前衛を突破し、炎岩虎が魔術師の部隊の方へ突っ込んでいった。

他の冒険者は前から来た魔物と交戦しており、反応することが出来ない。


「――――」


 エルフィが魔眼を発動した。

 炎岩虎の目の前に小規模の爆発が起こり、その動きが止まる。

 その間に他の冒険者が体勢を立て直し、攻撃を仕掛けた。

 

 それから数分後、なんとか襲撃してきた魔物は全滅させることが出来た。


「すまねぇ、"爆裂"!」

「ありがとよ!」


 すっかり定着した呼び名で、冒険者達はエルフィに礼を言う。

 さっきから、もう何度も見てきた光景だ。

 陣形が崩れかねない攻撃を受けた時、エルフィの魔眼で立て直している。

 そのため、未だに誰一人として死人は出ていなかった。


「……エルフィ。ちゃんと魔力は温存できているのか?」


 冒険者達では、炎魔将は倒せない。

 土魔将の時同様、エルフィの魔眼で炎魔将に攻撃する手はずになっている。

 肝心のエルフィが魔力を消耗しては元も子もない。


「問題ない。消費魔力は最小限に抑えている」


 そういいながらも、その後、エルフィは冒険者達を律儀に助けていく。


「どうしてそこまでしてあいつらを守るんだ?」

「……気に食わん連中ではあるが、今、私達は一応、同じ討伐隊にいる仲間だ」


 仲間……冒険者達が、か。

 確かに、同じ討伐隊だから、仲間だという風に捉えられなくもないが……。


 ふっと微笑んで、エルフィは言った。


「出来るなら……私はもう、仲間を死なせたくないんだよ」

「……、甘い考えだ」

「ああ。オルテギアにも、貴様は甘いと言われたよ」


 その時、敵襲を知らせる叫びが響いた。

 今度は炎蜥蜴ファイアリザードが、地面にあるヒビから這い出してきている。

 その内の一体が、反応し遅れた冒険者へと飛びかかる。


「――フッ!」


 そこへ、俺は予備の剣を投擲した。

 炎蜥蜴の目を貫き、そのまま絶命させる。


「助かったぜ、ありがとな!」


 礼を言ってくる冒険者に頷き返して、俺はエルフィに言った。


「だったら、翡翠の太刀で魔力が回復する俺が動く。お前はあまり魔眼を使うな」


 エルフィの考えを認めた訳ではないが、少くとも俺とエルフィは仲間だ。

 同じ目標を志している以上、歩み寄りは必要だろう。

 エルフィは少し驚いた顔をしてから、口元をほころばせた。


 そこから、俺が積極的に冒険者の支援に回った。

 魔石は出来る限り使わず、翡翠の太刀で回復出来る範囲で、だが。


 それから更に三十分後。

 俺達は迷宮の最深部へと辿り着いた。



 広い足場と、奥の方に流れるマグマの川。

 上を見上げれば、大きく開いた噴火口から空が覗いている。

 迷宮の構造からして、ここが最深部だ。

 漂ってくる魔素の量からも、ここに迷宮核があることは間違いない。


「…………」


 炎魔将、そしてベルトガの姿はない。

 だが、魔物の気配は感じられる。

 この空間のどこかに潜んでいるのだろう。


「……!」


 その時、ミーシャが弾かれたようにマグマの方へ向いた。

 エルフィも、魔眼でその方向へ視線を向けている。


 ミーシャが警戒を呼びかけると同時。

 咆哮を響かせて溶岩の中から複数の影が飛び出してきた。


 姿を現したのは、炎魔将ではなかった。

 先ほど、エルフィが魔眼で倒してみせた炎龍。

 その炎龍が三匹、同時に現れたのだ。


「まさか、こいつらが炎魔将か!?」


 冒険者達が狼狽えるなか、


『オオオオオオォォォォッ』


 三つの咆哮が、迷宮を揺らす。  

 三匹が同時に口を開き、勢い良くブレスを放出した。

 

「"流水壁アクアウォール"!」


 魔術師達が防壁を張って、どうにかブレスを凌ぐ。

 だが安堵する間もなく、炎龍達が追撃してきた。


「うわあああ!?」

「――狼狽えるな馬鹿者!」


 空中でエルフィの魔眼が連発する。

 小規模の爆発に、炎龍は驚いたように動きを止めた。

 その瞬間に合わせ、魔石を投擲した。


「"壊魔ブレイク・マジック"」


 爆発に飲まれた炎龍は、傷を追いながらも生きていた。 

 流石に一撃では倒しきれない。


「二人に続け!」


 そこで、ようやく冒険者が動き出した。

 それぞれが陣形を立て直し、炎龍に攻撃していく。

 

 そこからは死闘が繰り広げられた。

 炎龍がブレスを放ち、魔術師がそれを防ぐ。

 その隙に剣士が炎龍へ攻撃を加えていく。


 最も活躍していたのは、あの全身鎧の男だった。

 何故か籠手を脱ぎ捨てると、大剣を振り回して炎龍の爪をへし折る。

 武器を一つ失った炎龍がブレスを放とうとした所へ、エルフィの魔眼が口内に炸裂し、その炎龍は破裂した。


 ミーシャは人間離れした動きで戦場を走り回り、壁を蹴って跳躍、炎龍の爪に一太刀入れていた。

 落ちてきた炎龍を狙い、俺や他の剣士が斬り掛かる。

 そうした行為を繰り返し、冒険者達は何とか炎龍の撃退に成功した。

 

 こちらも無傷という訳にはいかなかった。

 炎龍の突進に吹き飛ばされたり、ブレスをアシスト出来なかったりして、何人もが戦闘不能に陥った。

 そうでない者も、大量に魔力を消費して弱り切っている。


「"爆裂"達がいなかったら、やばかったな……」

「ああ。あの二人が今回の一番の功労者だな」


 それでも冒険者達は、やってやったぞという表情で満足気にしている。


「エルフィ」

「ああ」


 終わりじゃない。

 あの程度の炎龍三匹が、炎魔将な訳がない。

 

 次の瞬間、マグマの川が爆発し、何本も柱が生まれる。

 迷宮全体が激しく震動している。


「な……なんだ!?」

「おい、嘘だろ!?」


 溶岩の中から、人の数倍の大きさを持つ炎の巨人が姿を現した。

 炎龍とは比べ物にならない魔力を全身から吹き出し、地の底から響くような咆哮を上げる。

 そして、大きく腕を振り下ろした。


 その瞬間、そこから炎が吹き出した。

 部屋を埋め尽くすような炎に冒険者達が悲鳴を上げ、辛うじて防御魔術を発動する。

 予め来ると分かっていた俺は範囲外へ飛び退き、エルフィは魔眼で炎を凌いでいた。

 炎が消滅した頃、冒険者達の大半が苦悶の声を漏らしていた。


「炎龍のブレスの比じゃねえ……! なんだよあれ!」

「あれが炎魔将ってのか!? あんなんに勝てる訳ねえじゃねえか……!」

「逃げろおお!」


 戦意を失った冒険者達が、炎魔将に背を向けて逃げ出そうとする。

 それを逃がすほど、甘い相手ではない。

 唸り声を上げながら、炎魔将が腕を振り上げる。

 その瞬間、その炎で出来た腕が爆ぜた。

 炎魔将が、グルリとこちらを向く。


「ベルトガの姿がない。どこかに潜んでいるかもしれないから、注意してくれ」

「承知した」


 ここまで魔力を温存出来ただけでもありがたい。

 冒険者達の役目はここで終わりだ。


 ――後は、俺達がやる。


 ベルトガは見当たらない。

 だが、ここにいるとすれば、炎魔将が倒される前に姿を現す筈だ。

 早く出てこい。

 その時が、お前の最期だ。


『――――』


 炎魔将が咆哮し、動き出した。

 


 

 


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