第十話 『これを乗り越えなければ』
エルフィが捕らえられている砦に辿り着く、僅か十数分前。
前方からルシフィナの斬撃と大風鳥。
後方からはもう一匹の大風鳥が、猛スピードで接近してきていた。
ベルディアの飛行速度では、同時に迫りくる三つの攻撃に対処しきれない。
このままでは、エルフィの下へ辿り着くことすらできない。
「――――そうは、させない」
三つの攻撃が俺達に激突するまで四秒。
右手と左手の両方から、前後に向けて魔術を放つ。
「"大旋風”」
上級の風属性魔術だ。
掌に大きな旋風が発生し、眼前にまで迫った二匹の大風鳥に激突する。
大したダメージはない。だが、それでいい。
大きな風に遮られ、大風鳥の動きが僅かに止まった。
ルシフィナの斬撃だけが、俺達を飲まんと接近してきている。
ベルディアの上を走りながら、翡翠の太刀を抜く。
返してやるよ、ルシフィナ。
「"魔撃反射”――ッ!!」
相手の攻撃を倍にして返す、英雄時代に編み出した魔術。
取り込んだ三つの迷宮核と、これまでの経験によって、心象魔術を使わずとも発動が可能になった。
刃が斬撃に触れた瞬間、バチバチと魔力が火花を散らす。
「……っ」
両腕に走る衝撃に、呼吸が止まる。
発動は可能になった。
だが、当然今の俺では万全の威力は発揮できない。
それでも強引に、斬撃を反射した。
斬撃がぐるりと反転する。
威力は倍になるどころか、半分以下にまで下がった。
しかし、それで十分だ。
『クェエエエエエ!?』
俺達の目の前には、大旋風を突破した大風鳥がいた。
反射された斬撃が、驚愕に叫ぶ大風鳥の片翼を鋭く切断する。
『……邪魔ッ!!』
動きの止まった大風鳥に、ベルディアが爪を振り下ろす。
龍の一撃に、大風鳥は反応できない。
『ガ、カアァァァ……』
血を撒き散らしながら、大風鳥は落下していった。
あと一匹。
勢いを取り戻した後方の大風鳥が、すぐ背後にまで迫ってきている。
『……この、この!』
ベルディアが尻尾を使って攻撃するが、大風鳥は軽々と回避する。
瞬間的な移動速度は、ベルディアより上らしいな。
だが、問題ない。
「ベルディア、俺が跳んだ後、できる限り尻尾を伸ばしてくれ」
『……え?』
返答を聞くよりも早く、俺は後方に向けて跳躍した。
俺の行動に、すぐ背後の大風鳥が目を見開く。
「は……ッ!!」
そこへ斬り掛かる。
が、躱された。
バッと翼をはためかせ、後ろへ下がったのだ。
そして、俺は空中で無防備になる。
『クァアアアアアアア!!』
大風鳥が勝ち誇るように雄叫びをあげた。
ただ落ちるだけの俺に、大風鳥が鋭い嘴を突き出してきた。
まともに喰らえば、致命傷は免れない。
だから、俺も避けた。
『クェ!?』
風属性の魔術を使ったのだ。
両足に魔力を集中させ、勢い良く噴出させる。
大風鳥には、俺が何もない空間を蹴ったように見えただろう。
いつか、オルガとかいうホムンクルスが使っていた移動方法と同じだ。
「じゃあな」
首を突き出した状態の大風鳥へ、翡翠の太刀を振り下ろした。
首裏の肉は、それほど硬くなかった。
刃が肉を裂き、骨を断つ。
あっさりと、大風鳥の首は落ちた。
巨体がぐらりと傾き、首を追って地面に落下していった。
『伊織……!』
「ああ!」
遠くなっていくベルディアの声。
即座に、風属性魔術で跳躍する。
ギリギリのところで、ベルディアの尻尾を掴み、その体によじ登った。
「ふう。何とかなったな」
「わぁ、お疲れ。大したものだね、伊織君。目利きのボクも少し驚いたよ」
感心するように、アイドラーが呟く。
大したことじゃない。
これを乗り越えなければ、エルフィが助けられないのだから。
『……伊織、次が来る!』
斬撃と大風鳥を突破しても、ルシフィナは休ませてくれないらしい。
「……次はルシフィナも本気らしいね」
山頂で、ルシフィナの発した魔力が天を突くのが見える。
かなり距離が近づいたが、接触するまでに数分は掛かるだろう。
ルシフィナが、天理剣を連続して振る。
無数の斬撃が、津波のようにこちらへ押し寄せてきた。
想定したよりも遥かに、ルシフィナの実力が高くなっている。
三十年前とは比べ物にならない。
旅をしていた時は、力を隠していたのか?
それとも――――。
まあ、どちらにせよ。
「……ここまでだな」
大風鳥を突破できれば、あいつの下へ辿り着けると思っていたが、見通しが甘かった。
力は温存して起きたかったが、これ以上はこちらに被害が出る。
迫る斬撃に向けて、視線を向ける。
同時に、ザッと視界にノイズが走った。
気付けば、以前の俺が少し先に立っている。
前よりは距離が縮まり、それでも遥か先に立つ英雄。
その姿に手を伸ばそうとして――、
「大丈夫そうだ、伊織君。こんなこともあるんだね」
アイドラーに止められた。
何だ、と抗議するよりも早く、その意図に気付く。
『……!? これは……』
殺到してきた斬撃のすべてが、俺達に当たらなかった。
何故なら、斬撃が俺達を避けて行くからだ。
まるで、目の前の空間が歪曲しているかのように。
斬撃を通り抜け、ルシフィナのいる山へ近付く。
顔を顰めたルシフィナが、天理剣を構えるのが見える。
対応しようと身構えるが、
「――とっとと行きな。こいつの相手は俺がする」
聞き覚えのある男の声が、耳元で聞こえた。
「……ああ、分かった」
小さく言葉を返し、ベルディアに先へ行くよう指示を出す。
山頂へ、近付く。
突き刺さるルシフィナの視線。
湧き上がる憎悪を押さえ込み、俺は前だけを見る。
「――お前の相手は後だ」
今俺がすべきことは、捕まった相棒を救出することなのだから。
山頂を越え、俺達は砦へ向かった。
◆
「――――」
伊織達を乗せた黒炎龍が、瞬く間に通り過ぎていく。
その後ろ姿を、ルシフィナは呆然と見つめていた。
その頭上に、影が差す。
「よっと」
空を飛ぶ小型の龍の背から、一人の男が山頂へ降り立った。
「……借りは返したぜ、勇者」
そう呟いたのは、青髪の男だった。
不機嫌そうな三白眼に、口から覗く狼のように鋭い牙。
着崩した軍服は、魔王軍に所属していることを示している。
――男の名は、魔王軍四天王“歪曲”ヴォルク・グランベリア。
「よぉ。数日ぶりだな、ルシフィナ・エミリオール」
薙刀の切っ先を向けならが、ヴォルクが低い声で呼びかけた。
「――――」
だが、ルシフィナに反応はない。
目を見開き、伊織が去っていった方向をジッと見つめている。
まるで、胸の痛みを堪えるかのように、自らの胸に手を当てながら。
「おいおい、何て顔してやがる。まるで想い人に振られたみてぇな顔じゃねえかよ」
その揶揄で、始めてルシフィナが反応した。
細めた銀色の瞳で、射殺すようにヴォルクを睨み付ける。
ヴォルクが初めて見る、ルシフィナの余裕のない表情だった。
「……何のつもりですか? 私の邪魔をして、勇者に与するなんて。魔王軍に反逆するおつもりですか?」
「それは俺の台詞だな、ルシフィナ。先に俺を裏切ったのは、てめぇの方だろうが」
「さぁ、何のことですか?」
平然と惚けるルシフィナだが、ヴォルクはそれを許さない。
「村を襲ったのは“古代種”だ。同じ古代種の大風鳥を引き連れておいて、言い逃れができると思うなよ」
「…………」
「てめぇが俺を裏切らなければ、ここで俺が勇者を助けることもなかっただろうぜ」
勇者という言葉に、ルシフィナの目付きが一段鋭くなる。
普段の彼女からは想像もつかないほど、鋭利な目付きだ。
「どいてください」
ルシフィナが天理剣を構え、圧を放つ。
多くの者が震え上がるであろう威圧に対して、ヴォルクは全く臆さない。
「通さねえ。てめぇがケジメを付けるのが先だ」
「…………」
「知っているはずだ。俺が何のために四天王をやってるのかを。俺はどんなことをしても――立場を曲げてでも、あの村を守る。何故、あの村を襲った。理由を言え」
「後で教えてあげますよ、嫌というほどね」
そう言って、ルシフィナは先へ進もうとするが、
「――もう一度だけ言うぜ。村を襲った、理由を言え」
グニャリと空間が歪曲し、その行く手を阻んだ。
大きくため息を吐き、ルシフィナがヴォルクを睨む。
その視線に、ヴォルクは決裂したことを理解した。
空間が大きく歪み、そして巨大な魔力が天を突く。
四天王。
魔王軍が誇る、最大戦力。
「同じ四天王だからといって、私に勝てるとでもお思いですか? “歪曲”」
「はッ!! 抜かせ、“天穿”――ッ!!」
――世界すら揺るがす二つの巨大戦力が、激突した。
◆
背後で魔力が激突するのを感じる。
連続して聞こえる爆発音から、どうやら二人は本気でやり合っているようだった。
『……後、少し』
豆粒ほどの大きさだが、視界の先に大きな砦が見えてきた。
砦の周辺には、気配を感知する結界の類が無数に張り巡らされている。
また、空には鳥型の魔物が飛び回り、地上には獣型の魔物が闊歩していた。
戦闘音を聞きつけたのか、魔物を引き連れた魔族が砦から飛び出てくるのが見えた。
だが、魔物も魔族も、俺達に気付かない。
「……大した気配遮断だな」
「でしょ?」
アイドラーが使用した気配遮断のお陰だ。
ルシフィナの斬撃の余波によって、アイドラーの結界は粉々に砕け散った。
山頂を越えてすぐにアイドラーがもう一度張り直したのだ。
ルシフィナや大風鳥には見抜かれたが、他の魔物や魔族は気付く素振りすらない。
俺でも、周囲を警戒している状態でなければ、気付けないかもしれない。
「……だけど、そろそろ気配遮断も限界だね」
「?」
アイドラーが後ろを振り返る。
その視線の先にあったのは、忿怒の形相でこちらへ飛んできている大風鳥の姿だった。
「魔撃反射で撃ち落とした奴か」
片翼がもげており、風の魔術を使って強引に空を飛んでいるようだ。
しぶといな。
『クェエエエエエエエエエエエ!!』
大風鳥が背後から風のブレスを吐いた。
ベルディアが翼をはためかせて回避するが、俺達を包んでいたアイドラーの魔術が再び砕け散る。
「ボクの魔術は繊細だからさ。ちゃんと準備してからじゃないと、強い魔力の余波で解けちゃうんだよね」
大風鳥を恨めしげに睨みながら、アイドラーが拗ねたような口調でそう呟く。
瞬間、地上と空にいる魔物達が、一斉に俺達を見た。
地上にいた魔族達も、バッと弾けるように俺達へ視線を向けてくる。
砦の周囲にある結界に触れるまで、あと数分。
下の魔族達に気付かれている現状、結界に触れようがそこまで大きな影響はない。
この距離ならば、強行突破しても何とか間に合うか?
「――大丈夫、間に合わせるさ」
余裕ありげに微笑み、アイドラーがそう言った。
「伊織君、ベルディア。君達はエルフィスザークの救出に集中すると良い。砦までの露払いは、ボクがするとしよう」
ジャラジャラと音を立て、アイドラーが懐から大量の魔石を取り出す。
それらすべてを握りながら、空中に文字を刻んでいく。
「お前に任せても良いのか?」
「やる時はやるボクを信用してよね。魔力使い過ぎて、この後とんでもなくしんどい目にあいそうだけど……」
俺達に気付いた魔族達が、地上から魔術を撃ってくる。
鳥型の魔物や、背後の大風鳥が迫ってきている。
そんな中で、アイドラーは余裕の表情を浮かべていた。
「ボクは伊織君の選択を尊重しよう。君の歩む先に地獄が待っていようとも――それでも。その『証』を持つ君が、望んだ人とともに歩んでいけることを、祈ろう。――ボクは、優しいからね」
「――――」
「どうやら、ギリギリでエルフィスザークの救出は間に合いそうだ。エルフィスザークは、多分あの辺りにいるよ」
そう言って、アイドラーが砦の一部を指差した。
「頑張ってね、伊織君」
囁くようなアイドラーの声音。
俺が口を開くよりも早く、アイドラーの刻んだ文字が淡く輝き始めた。
「死を詠う。暗き死に溺れる私は空に啼く。
死を嘆く。愛する星の死に涙を流そう。
死を告げよう。愛すべき星の死を気にも留めぬ愚者共に」
それは、聞いたこともない詠唱だった。
詠うように、アイドラーが詠唱を終えた瞬間。
「――“遍く全てに安寧を”」
眩い光が、周囲を照らす。
下から飛来した魔術が光に触れた瞬間、消滅した。
あちこちから押し寄せてきていた魔物達も、光に呑まれて跡形もなく消え去っていく。
『ク、カ――ッ』
大風鳥も例外ではなく、光に触れた頭部がまるごと消滅した。
『――――』
「…………これほどの魔術が使えるなんてな」
ベルディアが息を呑む音が聞こえた。
俺も、少し驚いた。
知らない魔術だというのもあるが、全方位からの攻撃を一瞬で無効にするとは。
「ふふ、驚いたかい? ルシフィナの斬撃みたいに、強力な魔力には対処しきれないけど、死ぬほど無理をすればこの通り。偉大なボクなら、こんなことも出来るのさ」
「……お前、本当に何者なんだ?」
くるりとこちらに振り返り、アイドラーが笑う。
「――だから、言ったでしょ?」
その時、後ろから迫ってきているソレが目に入った。
「ボクはしに――ぬぼぁ!?」
首を失った、大風鳥が死の間際に放った最後の魔術。
激しい暴風が、俺達にぶつかる。
指を立て、得意げな表情をしていたアイドラーはそれをもろに喰らい、変な声をあげて吹き飛んだ。
「ぬわあああああああぁぁぁぁ!?」
ベルディアの背から落下し、真っ逆さまに下へと落ちていく。
下にあるのは底が見えない深い谷だ。
クソ、調子に乗りすぎだあの馬鹿。
『……アイドラーッ!?』
「チッ」
ベルディアが旋回し、アイドラーを救おうと方向転換する。
だが、それをアイドラーが手で制した。
「ボクのことは助けなくても良い早く先に進むんだでもたまにはボクのことも思い出してくださああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
そう叫びながら、アイドラーは谷の底へ落下していった。
『……伊織! 助けなくていいの!?』
「……多分、大丈夫だ。落ちながら、何かの魔術を使っているのが見えた」
助けを拒んだのは、助かる算段があってのことだろう。
だが、それにしても、あいつは一体何だったんだ……?
「…………よし。ベルディア、このまま砦に突っ込め」
『……う、うん』
今は考えていても仕方ない。
――地獄。
その言葉を頭の隅に追いやり、俺は意識を前に向けた。
◆
進む。
邪魔な魔物を蹴散らし、砦へと。
ベルディアはそれまで以上の速度を出し、魔族を振り切った。
俺達が結界に触れたことで、砦中に侵入者を知らせる警報が鳴り響く。
止まらずに、ベルディアが翼をはためかせる。
そして、ようやく砦へと辿り着いた。
大きな砦だ。
帝国軍を監視し、魔王城への侵攻を食い止めていただけはある。
中には、かなりの手練がいるだろう。
だが、止まるわけにはいかない。
「――――」
アイドラーが指差した場所。
その手前で、神経を極限にまで研ぎ澄ませ、そして。
『私は……どこで間違えたのだろうな』
その声を、聞いた。
聞き間違えるはずもない、その声を。
「ベルディア」
『――――』
ベルディアが、息を吸い込む。
『……伊織』
「――呼んだか、エルフィ」
直後、ベルディアのブレスが、砦の天蓋をぶち破った。
爆炎が雪崩れ込む部屋の中へ、一足先に飛び降りる。
室内には、八人の影があった。
幽鬼のように佇む、虚ろな目をした四人の魔族。
軍服をまとった、二人の魔族。
四天王“消失”グレイシア・レーヴァテイン。
――そして、エルフィ。
呆然とこちらを見つめる、その顔が目に入る。
深い隈、泣き腫れて赤くなった目元。
殴られたのか、頬が腫れ、口元は切れている。
鎖に縛られており、その体を橙色の結界が覆っていた。
涙を浮かべて、エルフィが俺を見ている。
「―――――――――」
形容し難い、感情だった。
胸の中で、何かが沸々と湧き上がる。
ああ、そうか。
俺は。
「…………」
それでも、エルフィがまだそこにいることに少しだけ安堵の笑みを浮かべ。
その体を覆う結界を、魔技簒奪で消し飛ばす。
「そいつは俺の共犯者だ。返して貰うぞ、“消失”」
俺の宣言に、グレイシアが表情を歪める。
憤怒に肩を揺らしながらも、
「侵入者だ! 来い!!」
室外にいた部下に、大声で呼びかけた。
直後、部屋の中に複数の魔族が雪崩込んでくる。
皆一様に軍服を身に纏っており、手練だということが分かる。
「……返して貰う、だと? たった一人と一匹でか?」
俺達を見て、グレイシアが嘲笑を浮かべる。
「……貴様がどのようにして蘇ったかは知らんが、エルフィスザーク様に近付くのであれば何度でも殺してやるさ。ベルディア!! 逃げ回ってばかりいた貴様も、ここで引導を渡してやる」
「…………」
「エルフィスザーク様! どうかご照覧ください! この者達を鏖殺し、人形の一つに加えてみせましょう!!」
グレイシアが、上擦った声で何かを叫んでいる。
だが、すべてがどうでも良かった。
エルフィの表情を見れば、この女が何をしたのか、大体は見当がつく。
グツグツと湧き上がる衝動。
ああ、そうか。
俺は――。
俺は、怒っているのか。
「敵はたったの一人と一匹だ!! エルフィスザーク様に近付く無礼者を殲滅しろ!!」
グレイシアの号令とともに、雄叫びをあげ、押し寄せてくる魔族達。
「――【英雄再現】」
ノイズが走り、己の背中が浮かぶ灰色の世界。
押し寄せる魔族達に向かって、翡翠の太刀を振り下ろした。
「――!?」
翡翠の光が、魔族達を吹き飛ばした。
衝撃が室内を奔り、中にあった調度品が粉々に砕ける。
敵はたったの一人と一匹、か。
「……っ」
消し飛んだ部下を見て、目を見開くグレイシアに、俺は言う。
「――ああ。それだけいれば、十分だろ?」




