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おせっかい令嬢のお見合いデスゲーム  作者: 柊原 ゆず


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第1話 目覚めたら、そこは


 私の大好きな人と大好きな人が結ばれる。これ以上幸せなことって無いと思うわ。中々進展しないウブな二人のキューピッド……なんて、お節介すぎるかしら?

 久遠 紬希(くおん つむぎ)は、父親から譲り受けた別荘を前に、頬を緩ませていた。彼女は一年もの月日をかけて、広大な別荘を密かに改築したのだ。

 完成したばかりの別荘、その内部――無駄に頑丈な鉄の扉、多数設置された最新鋭の監視カメラ、そして『致死率0%の安全設計』が施された様々なギミック――を内見しながら、紬希は満足げに笑みを浮かべていた。

 思い描いた通りだわ!これで、ようやく準備は整ったわね。


「鶴見」

「はい、お嬢様」


 声に呼ばれ、紬希の専属執事である鶴見が音もなく傍に立つ。長年彼女の無茶振りに応え続けてきた、非の打ち所がない有能な男だ。


「例の計画を開始するわ。貴方の優秀な部下を使って頂戴」

「承知いたしました」


 鶴見は恭しく一礼をして紬希から離れると、スマートフォンを取り出し、手短に指示を出し始めた。

 命令を受けた久遠財閥の裏の顔とも言えるエージェントたちは、即座にそれぞれのターゲットの元へと散ってゆく。

 一人は、熱気渦巻くライブ会場に。

 一人は、とある芸能事務所に。

 一人は、新進気鋭の有名な製菓会社に。

 そして一人は、活気あふれる大学のキャンパスに。

 彼らは身分を偽り、ターゲットの生活圏へとあまりにも自然に潜り込んだ。そして、怪しまれることなくゆっくりと、しかし確実に距離を縮めていった。






 ……それから、一ヶ月が経った。


「──おやすみなさいませ、素敵な夢を」


 ターゲットたちが完全に気を許したその瞬間、使用人たちは極めて滑らかな手口で動いた。テレビ局の楽屋、ライブ会場の控え室、社長室、そして大学のカフェテリア。ターゲットがふと目を離した隙に、その飲み物には無味無臭の睡眠薬が静かに溶かし込まれた。

 やがて深い眠りに落ちた四人は、速やかに黒塗りの高級車へと運び込まれた。向かう先は、紬希がこの日のためだけに用意したあの改築済み別荘──通称、『愛の試練ハウス』である。


「う、ん……」


 最初に意識を取り戻したのは、男性アイドルグループ『D.M.T(Dreams Magic Tomorrow)』のメインボーカル、院瀬見 伊織(いせみ いおり)だった。ふかふかすぎる絨毯の感触に顔をしかめながら身を起こした彼の視界に、信じられない光景が飛び込んできた。

 め、めいちゃん……っ?!

 数メートル先、高級なソファに凭れかかるようにして眠っているのは、『桃色チーカーズ』のすみっこアイドル、花村 芽依(はなむら めい)。伊織の心臓が、ライブハウスのスピーカーよりも激しく高鳴る。

 本物だ……!生の芽依ちゃん、しかも無防備に眠っている激レアな姿……!しかも至近距離!髪の毛一本一本まで愛おしい、って……いや、寝顔の破壊力高すぎないか!?

 自分がどこか見知らぬ場所に拉致され、監禁されているという異常事態など、生の芽依を前にした彼にとっては些末な問題に過ぎなかった。伊織は震える手で自身の口元を押さえ、悲鳴のような歓喜の声を噛み殺すのに必死だった。


「ここ……どこ……?」


 次に目を覚ましたのは、香坂 美月(こうさか みつき)だった。彼女はぼんやりとした頭で周囲を見渡す。そこは、雑誌の撮影に出てきそうなほど豪華であったが、窓が一つもない異様なリビングルームだった。


「あれ、どうしてここに……?」


 確か、大学のカフェテラスで課題に取り組んでいたはずだったのに……。

 真っ当な疑問を口にした美月は、すぐ隣で倒れているスーツ姿の青年に気がついた。


「琉生、起きて、琉生ってば!」


 美月が肩を激しく揺さぶると、「ん……?」と、東雲製菓の若手社長である東雲 琉生(しののめ るい)がゆっくりと目を開けた。見慣れぬ天井と、過剰に装飾されたシャンデリア。状況を察知した琉生は、バネ仕掛けのように飛び起きた。


「なんだここは、一体どこだ?!……って、あれ、美月もいるのか?」

「あんたも知らないの? 大学のカフェテリアにいたはずじゃ……」


 混乱する二人の視線が、部屋の隅で硬直している長身の青年に向かう。


「ちょっと待って……!」


 美月が息を呑んだ。


「あそこにいるのって、D.M.Tの伊織くんじゃない?!」


 人気アイドルの登場に驚愕する美月。しかし当の伊織は、彼女たちの声など一切耳に入っていない様子で、未だ眠り続ける芽依を、まるで美術品を鑑賞するかのように、うっとりとした、しかしどこか血走った瞳で見つめ続けていた。


「……関わらない方がいい気がする」


 琉生が美月を庇うように一歩下がった、その時だった。


『あー、あー。マイクテスト、マイクテスト。……皆さーん! お目覚めですかー?』


 突然、リビングに設置された巨大なモニターに電源が入る。しかし、部屋に響き渡ったのは、ボイスチェンジャーを通した奇妙に歪んだ無機質な声だった。さらに画面に映し出されたのは、不気味な『狐の仮面』を被り、豪奢な椅子にふんぞり返る謎の人物の姿。


「な、なんだあの不気味な仮面は……!」


 美月と琉生が警戒心を露わにする中――スピーカーから放たれた大音量によって、ソファで眠っていた最後の参加者がようやく身じろぎした。


「んぅ……うるさ、い……」


 芽依の長い睫毛が震え、その瞳がゆっくりと開かれようとした、まさにその瞬間。

 ――スッ。

 先ほどまで穴が開くほど芽依の寝顔を至近距離で凝視していた伊織は、物理法則を無視したかのような素早さでサッと距離を取った。そして数メートル離れた壁際に移動すると、片足を曲げて壁に寄りかかり、伏し目がちに前髪をかき上げるという『雑誌の表紙を飾る完璧なポーズ』をコンマ一秒で作り上げた。

 危なかった……!めいちゃんには、常に完璧で格好いい僕を見せなければ。僕を『推し』てもらえるように……!

 冷や汗をかき、心臓を早鐘のように打たせながらも、伊織は瞬時に『クールでミステリアスな人気アイドル』の体裁を取り戻す。


「ふぁ……あれ? ここ、どこ……?」


 目をこすりながら身を起こした芽依が、寝ぼけ眼で周囲を見渡す。そして、壁際に立つ長身の青年に気付いた瞬間――彼女の顔から、スッと血の気が引いた。


「やあ。おはよう」


 伊織は、甘く響く非の打ち所がない美声で声をかけた。


「君も巻き込まれたみたいだね。大丈夫? 怪我はないかい?」

「い……院瀬見、さん……っ!?」


 芽依は弾かれたようにソファから立ち上がると、そのまま後ずさり、背中を壁に強く打ち付けた。ガタガタと震える唇、恐怖に見開かれた瞳。彼女の脳裏にフラッシュバックするのは、一年前の光景だ。


『夜遅いから、送るよ。女の子を一人にはできないからね』


 あの飲み会の帰り道。断りきれずに彼の言葉に従った結果、二人の姿は運悪く週刊誌の記者に盗撮され、大々的な熱愛報道へと発展してしまった。

 芽依は必死に交際を否定したが、伊織の事務所側は『コメントを差し控える』という否定とも肯定ともつかない曖昧な態度を貫いた。それが火に油を注ぎ、結果として芽依は一方的なバッシングを浴びて『すみっこアイドル』へと転落したのだ。

 どうして……どうして院瀬見さんがここにいるの……!?またどこかに記者が潜んでいて、変な記事にされたら……私、今度こそアイドルを続けられなくなる……っ!

 パニックに陥り、呼吸が浅くなる芽依。

 めいちゃんの怯えた顔も可愛い……!そうだよね。こんな場所にいたら怖がるのも無理はない。ああ、可哀想に!今すぐ抱きしめて安心させてあげたい!!

 彼女の怯えた様子を見て、伊織は内心で欲望と理性の間で激しく葛藤していたが、表面上は少し困ったような、人の良い微笑みを浮かべるに留めていた。そんな彼らの混沌とした様子を別室のモニタールームから特等席で見つめる狐面の人物――久遠紬希。

 推しカプが同じ画面に収まってる!尊いっ……!!

 と、彼女は内心で咽び泣きそうになるのを必死に堪え、ボイスチェンジャー越しの悪役めいた声で高らかに宣言した。


『ふふふ、全員目覚めたようだな! これより、お前たちには特別な【ゲーム】に参加してもらう!!』


つづく

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