第77話【鍾乳洞の迷路】
洞穴の中は薄暗いが鎌鼬になったおかげがハッキリと良く見える。黒猫族のフィーナとダークエルフのイザベルも、暗い場所でもハッキリと見えるため、イザベルに殿をお願いして前衛に俺とフィーナが立ち、奥に進んでいく。どうやら大型の魔物がこの洞穴を作ったようだ。地面は何度も往来しているのか踏み固まっているが、天井や壁は脆く派手な戦闘をすれば崩れてしまいそうだ。
「メタルリザード以外に何か魔物が出入りしてる形跡あるな。全員油断するなよ?」
「さっき倒したトロールじゃねぇのか?アイツらこの前にいたし…」
後ろからバレッタが俺の問い掛けに答えてきた。だが、トロールは基本的に徘徊する魔物で半身を地面に埋めて眠る魔物である為、洞穴を塒にする必要はない。あるとすればゴブリンやコボルト、オークであるが、エルサレム森林では底辺の魔物でありキングやリーダーが産まれる可能性は低い。
エルサレム森林はグリフォンの狩り場でもある為、隠れ家が必要で外に獲物を狩りに出る魔物がここを共有しているのだろう。すると、広い場所に出てきたがフィーナが口と鼻を手で抑えた。
「これだけ広いとジャイアント・バットいるよね。上にも注意して…臭い…」
「バレッタ、獣人族って鼻良いよな?結構臭うよな?」
「犬獣人のあーしがいうのもあれだけどさ。滅茶苦茶クセぇわ。ここ…」
どうやらここはジャイアント・バット達の塒のようで、地面には糞が散乱しており悪臭を漂わせている。臭いがキツいために進むのを躊躇してると、九条が前に出て浄化魔法を放って悪臭の原因を取り除いてくれた。
試しに臭いを嗅いでみると悪臭はしなくなっていた。九条にお礼をいうと夜の方を多めに頑張るように微笑む。ジャイアント・バット達は浄化魔法の光に驚いて奥に逃げるように、人が通るのが難しい上の穴に逃げ込んでしまった。
どうやらこの場所は石灰岩の大地にできる洞窟『鍾乳洞』のようだと九条はいう。
鍾乳洞はたしか、石灰岩が酸性の水よう液にとける性質と関係がある。石灰岩は海底に生き物の死がいなどが降り積もってできている。
海に近いダイアラック王国ならばその可能性は高い。そして、地層は長い年月の間に持ち上がって陸になることがある。陸になった石灰岩をとかすのは雨水で、酸性の雨水は大地の割れ目から地下に染み込み、石灰岩を徐々にとかしていく。
弱い酸性でとかす量は目に見えないほどのごくわずかなものでも何百年、何千万年という長い年月が経つと、巨大な洞窟になり、鍾乳洞になっていく。だが、ここは異世界であり雨にも魔力の源である魔素が含まれている為、長い年月をかけて溜まった魔鉱石やミスリル鉱石が取れる鍾乳洞になったのだろう。
幻想的な7色に耀く鉱石があちらこちらに大小無数の物が壁や地面に埋まっている。この辺りの鉱石はまだメタルリザードに食べられて無いようだ。
「フィーナと少し辺りを見てくる。九条はヘレナとイザベルと辺りの警戒を頼む。アーマード・ベアが出たら首切り落としてくれ」
「はいはい。いってらっしゃい。早めに帰ってきてやー」
九条は手を振って見送ると、フィーナと分かれて上級悪魔とメタルリザードを手分けして探し始める。予想していたよりも内部が複雑な構造になっている為、グランド達でも全員が通れる通路を探すのが難しい。砂塵魔法で穴を開けて進むことも考えたが、脆い上に何が原因で崩れるか分からない。
下手に穴を開けるのは危険だろう。すると、グランドが戻ってきて首に巻き付いてくる。上級悪魔を見つけたようで酷く怯えていた。
グランドを宥めていると、フィリーとウイングも戻ってきたが上級悪魔はメタルリザードを殺して自分の眷属であるリビング・アーマーを呼び出す生け贄に利用したようだ。場所を訊ねると、この真下にいるらしい。
何より、そこから出ることができないのか魔法を放って破壊して出ようとしている様子だったという。どう言うことだ?魔王に命令されてダイアラック王国の侵略に来た上級悪魔じゃないのか。
この場合は九条やイザベル達を頼った方が良いと判断し、フィーナを探すと慌てた様子で駆け寄ってきて飛び付いて来た。どうやらメタルリザードを見つけたが、変異個体のミスリルリザードが2匹いたようだ。フィーナの頭を撫でて褒めると、上機嫌に尻尾を振っていた。1度全員と合流する旨を伝えるとフィーナは頷いた。
◇◆◇
全員と合流してフィーナがミスリルリザードを2匹見つけた事とグランドらがこの下に上級悪魔がいるが出ようと暴れており、そこにメタルリザードを殺して上級悪魔の眷属であるリビング・アーマーが数百匹はいる事を伝える。
「何で上級悪魔がその場所から出れないのか理由がわからない。どう思う?」
「考えられる理由としては2つやな。その場所に何らかの力があって上級悪魔を閉じ込めている可能性や。んで、もう1つは誰かがそこに閉じ込めたからやろうね…」
「上級悪魔を閉じ込めたとすれば、それなりに高位な魔法使いや賢者じゃないと無理な筈…」
「ダイアラック王国にはそう言った賢者様の類いは聞いたことない。他の者は何か思い当たる事はないか?」
ヘレナが訊ねるが、全員が思い当たる事はない。すると、高城が「あっ…」と言い始めたのだ。勇者の可能性は無いかと訊ねると、イザベルはそれはないと言い切った。
そもそも、異世界からの勇者もこちらの世界で極たまに女神から選ばれる勇者もこぞって極悪人であった為、勇者が魔王を倒せる存在だとダークエルフやエルフ族は思ってないというのだ。
良かったらいいね・ブックマーク宜しくお願いいたします。
誤字脱字等の報告も承ってます。何卒宜しくお願いいたします。




