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第28話【旅立ち前のトラブル(前編)】



 モーグルは仕事が早く今週中にはダイアラック王国へと拠点を移せるように馬車などを手配してくれる事になった。、

半年も世話になった宿屋の女将さんも「寂しくなるけど向こうでも頑張りなよ。嫁さんが三人も居るんだからね!」と背中を強めに叩かれた。

 

 冒険者ギルドでも俺達の旅立ちは広まっていた為に仲良くしてくれた冒険者や情報通のおっちゃん達が声をかけてくれた。

 

 ドルダムに至っては稼ぎ頭であった俺達がいなくなるが持ってくる物が多く、更には新しいアイデアを提供してくれた事により少し資金難に陥りそうだといってきた。

 

 だが、それも補填できるだけの冒険者も育ってきている為に何とかなるだろうと豪快に笑っていた。

 

 コレットも寂しそうにしていたが、文通はこの世界でもできるために冒険者ギルドを通りして三人とするそうだ。

 

 ダイアラック王国への旅立ち準備を進めていると、レイドリス王国から一度来るようにと兵士達が迎えに来た。

 

 ◇◆◇

 

 通されたのはレイドリス城の謁見の間ではなく、豪華な装飾された執務室だった。そこにはマルシェ女王とダリウス騎士団長。もう一人は国の重鎮でマルシェ女王を幼い時から見ていたメイスンという四十代くらいの男性の三人が居た。

 

女王就任の儀式などでレイドリス王国も色々と忙しかった為に今回の件を聞きつけて呼び出したそうだ。

 

 マルシェは椅子から立ち上がると、どういうつもりなのかと詰め寄ってきた。

 

 すると、見かねたメイスンがため息をついた。ゆっくりと立ち上がるとツカツカと近づき、マルシェ女王に拳骨を落とした。


いや、相手はまだ幼いとはいえ、仮にも一国の女王だ。にもかかわらず拳骨を落とすとは余程立場が上の人間なのだろう。

 

ダリウスもオロオロするばかりでどうしたらよいか分からないという状況だった。


「ったく、ウチのじゃじゃ馬が迷惑掛けたな?俺はメイスンだ。一応このレイドリス王国の宰相になった男だ。前は一家臣だったのによぉ…」

 

「め、メイスン様!いきなり殴ることないじゃないですか!?痛いですわ!」

 

「だーかーらー!お前のが立場上だっつってんだろ!?俺を様付けで呼ぶな!つーか、俺を宰相に任命しやがって、他の老害(ジジィ)どもからのやっかみがクソ面倒くせぇんだぞ!?バカタレ!!」

 

「大魔導士マリアス様のお言葉に従っただけですぅ~!信用できる大人を頼れといわれましたもの!文句があるならマリアス様にどうぞ!!」

 

 ぎゃあきゃあと喧嘩をしている所を見るとよほど信頼できる人なのだろう。メイスンはマルシェの首根っこを無理矢理掴むと高そうなソファーに座らせて自身も横に座り、頭を押さえ付けた。

 

 宰相って確か国政の長じゃなかったか?

 

 メイスンは俺達にも座るようにいった為に顔を見合わせてそれに従い対面にあるソファーに座った。

 

 マルシェが怒っていたのは、何故中央都市エルドラに向かわないのかということであった。マリアスの迷宮や他のダンジョンを踏破した俺達の実力を買ってくれていたようだ。

 

 そこはメイスンも思うことはあるが、正直に言えばこれでよかったと口に出した。


 メイスンはダンジョンを三つも踏破した俺達の事を高評価しているのは間違いないが、勇者候補として召喚された者が冒険者として先に活躍するのはレイドリス王国に取ってはデメリットが大きいと話した。

 

【レベル50の壁】

 

 レベルアップの速度は30後半から遅くなり、幾ら魔物を倒してもレベルアップしない事がある。世界でも三人しかその壁を越えた者はいない。

 

 例えいったとしても同じレベルの熟練の冒険者とでは雲泥の差がある。下手をすればレイドリス王国の育成を疑われてしまう事にもなりかねない。

 

 その為、友好国ではないが魔王領土から離れており、人手不足に悩んでいるダイヤラック王国で冒険者として活躍してくれる事は今後のマルシェ女王の評判にも繋がるからだ。

 

 このメイスンは国の事を良く考えている宰相のようだ。


「俺としてはありがてがよ?お前は良かったのか?ハッキリ言えば金とかかなり苦労しただろ?」

 

「そりゃ、色々と出費もかさみますし冒険者とウチの旦那様の製品の収入で何とか四人でやりくりしてきましたから…」

 

「梨沙、その旦那様って呼ぶの辞めてくれ…」

 

「イヤや、旦那様なんは間違いないやろ?ウチらの」

 

 九条ら身体の関係を持ってから名前呼びから旦那様呼びになってしまい何度も辞めてくれと頼んだが、決して辞めようとはしない為にため息をついて頭を下げた。

 

 メイスンはマルシェ女王の顔を立てる名目もあるのだろうと訊ねたが、多少はあるのだ。

 

 幼い女の子が一国の女王になったとしても王としての実績が必要だからだ。勇者召喚を引き受けたのも国として成り立っていく為に必要なことだったのだろう。

 

 元々、魔王討伐には興味はないが別の形でレイドリス王国を立てれば、レイドリス王国の面子は保たれるし、俺達も温泉や米などを楽しみがある為にWin-Winだろう。

 

 すると、メイスンは懐から僅かではあるがと金貨が入った袋をテーブル差し出したのだ。

 

「いや、申し訳ないっすよ?俺達もモーグルさんと契約して金は入ってきますし…」 

 

「んなもんわかってる。だが、お前らのおかげでマルシェが正式に女王に成れんだ。たいした事をしてやれねぇ代わりに受け取ってくれ。レイドリス宰相として礼をいう。ありがとう。若き勇者達よ…」

 

メイスンは両手を膝に着けて深々とお礼をいってきた。マルシェ女王にこれだけ頼れる大人がいればレイドリス王国も大丈夫だろうと微笑んでしまった。


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