レベル148-2 当事者達にとっては笑い事ではありません
丁度良いというべきなのか。
周囲が勝手に動いてるととるべきか。
そんな事をつらつら語り合ってる所に、メイド長から呼び出しを受ける。
「わざわざすいませんね」
と切り出すメイド長は、ため息混じりに用件を伝えてくる。
「実はね、最近私の所に色々と話しが来ていて」
「何がでしょうか?」
「お世話をしようかっていうのが。
ほら、最近色々と盛り上がってるでしょう?」
それだけで二人も何事かと理解は出来た。
「ああ……」
「なるほど……」
頷きながら驚き呆れる。
「お見合いですか?」
「平たく言うとね。
なんなら私がお世話しようかっていう申し出をしてくる者が何人かいるのよ」
この世界、結婚は基本的に仲介人が間を取り持つ事が多い。
狭い村の中の事なので、普通はそれほど活躍するというわけではない。
大体が顔なじみで、本人同士や家同士が直接話しをして決まる。
ただ、話しがもつれたり、なかなか決まらない場合など、解決や仲裁として間に入る者が求められる事もある。
大体が村長やその親類が取り持つのが普通となっている。
また、血が濃くなりすぎないように他の村とのやりとりがある場合にも、仲介人が活躍する。
そういった者達が噂を聞いて、本当なら自分達が間を取り持とうか、と言ってきてるという。
両者を結びつけるという役目なので、仲介人というのも結構大変なものだ。
なので、上手くいった時には達成感と周囲からの評価を得ることもある。
嫁や婿との取り合いになってる場合の仲裁もあるので、それなりの機転が求められるのも理由の一つだろう。
今回、領内の平穏に貢献してる者達の事とあって、乗り気になってる者達がいるようだった。
「本当なら、とは言っていたけど」
とりあえずは様子見という事である。
実際に結婚するかどうかは分からないし、噂はただの噂でしかないかもしれない。
真相を確かめるためとりあえず打診してきた、というのがメイド長が受けた感触である。
「だから、二人にも一応話しを聞いておこうと思ってね。
何もないならお引き取り願うから」
そうは言われてもどう答えてよいか悩んでしまう。
「嫌いではないですけど」
「いきなり言われても」
「そうよねえ……」
ある程度予想通りの答えだったので、メイド長もそれ以上追求はしない。
「でも、少しはその気があるなら考えてもらいたいの。
目出度い事だからね。
お世話の方も、もっと確りした方に頼んでも良いし」
「はあ……」
「考えておきます……」
そういってとりあえず二人は退室した。
「ま、そういう話しもあると言うことだ」
「なんでまた……」
トオルも頭を抱えた。
いつものようにトモノリ…………ではなく執事の方に呼び出された後で。
世話でもしようかという話は女子だけに向けられたものではない。
もう一方の当事者でもあるトオルにもいく。
意志や気持ちの確認のために話しを聞かれるのは当然の流れだ。
そして、ここまで多くの者達がこの話しをし始めてる事にトオルは頭を抱えたくなった。
「まあ、嫌なら断ればいいだけだ。
難しい事ではあるまい」
「そりゃそうですけど」
「けど、あの器量よしを放っておくというのは感心せんがな」
「それも分かりますが」
「だったら話しをまとめてみるか?
その方がいいとは思うが」
「結構です!」
思わず声が大きくなった。
「自分にそんな余裕はありませんから」
だが、相手もそれなりに年齢を重ね、主君を支えてきた者である。
そう簡単に「はい、そうですか」とは言わない。
「まあ、少し考えておいてみてくれ。
余裕はそのうち出来るだろうし、君だって満更でもあるまい」
そんな調子で次への繋ぎを残して話しを終えた。
簡単に引き下がるような事はしない。
部屋を出た所で別室から出て来たサツキとレンに鉢合わせする。
双方、昨今の状況のせいで少しばかり気まずい。
避けてるわけではないが、声をかけるのも何となく躊躇われる。
「…………そっちも呼び出されたの?」
「…………うん、そういう感じです」
「…………トオルさんも?」
「…………まあね。大した事じゃなかったけど」
「…………そうですか」
「…………大変だよね」
「…………そうだな」
「…………ええ」
「…………ああ」
「…………」
「…………」
「…………」
会話が続かず、話しが途切れる。
それが余計に気まずさを醸しだし、向かい合ったままその場に居着いてしまう。
「まあ、お互いそれなりに考えてるなら見込みはあるな」
執事とメイド長から話しを受けたトモノリは少しだけ満足をする事ができた。
全く見込みがないのと、多少なりとも素振りを見せるのでは大きな違いがある。
「これなら、うちで取り仕切る事も出来るかな」
「それは何とも」
執事は慎重さを見せていく。
その隣でメイド長は、
「ですが、動くなら早急の方がよろしいかと。
他の者達が動き出す前に」
と行動を促す。
館の裏口や勝手口などで、やってくる村の者達をあしらってるだけに、流れや動きを肌で感じてるためであろうか。
領主の所に直接やってくるのは、罪にはならなくてもお行儀が悪い行為といわれている。
特に用事もないのに訪れるのは特に。
だが、その一方でこの規模の領主であるなら、裏口での井戸端会議は当たり前のようになってもいる。
表だって話すほどでもない事や、表にしないでおきたい話しなどはたいていそこで取り次がれる。
また、日用品などを持ち込んだり、日常の細々とした雑事を外部の者と片付ける場所故に、気安く内部に接触出来る場所でもある。
いわゆるゴシップ好きあたりがこういった所で館の内部に接しようとするにも便利であった。
今回、結婚仲介の世話をしようとやってきた者達も、こういう所から出入りしている。
取り次いだメイド長はそういった者達の勢いや熱意に実際に接してる。
体感として、彼らの本気さが分かる。
だからこそ、主に進言をしていた。
「なら、こちらも急ぐか」
トモノリもそれは素直に受け取った。
「上手く間を取り持ってやりたいところだ」
そこに多少の打算はある。
一族から嫁を迎える事がないなら、それは仕方ないと思っている。
だが、一団との関係性を今よりもっと高めたいという思いは変わらない。
仲介人というのは、そういう手段としては都合が良い。
一族が内部に入るほどの強さはないが、こういう所で関係をもっておく事で話しをしやすくはなる。
祝い事を利用するのは気が引けるが、上手く便乗したいと思っていた。
そうでなくても、目出度い話しをまとめたいところである。
「まあ、彼らの世話をやくのもいいのですが」
執事はぼやくように声を発する。
「旦那様も早く相手を決めていただきたいものです」
「そうですね。
いつまでも独身というわけにはいかないでしょう」
「この前の方なんてどうでしょうか。
なかなかの好人物と思いますが」
「打診してみるのもよいかもしれません」
思わぬ話しが出て来る。
「考えておく」
苦笑するしかなかった。
続きを明日の17:00に投稿予定




