レベル148-1 当事者達にとっては笑い事ではありません
大多数というのはそれだけで少数を圧倒する。
他の誰もが同じ事を口にし、一つの方向を見てる時に反対を唱える事は躊躇われる。
本音は違っていても、流れにそった事を口にしてしまう。
例えそれがなくても、自分の考えを表に出すことは控える。
時間はかかるが、村全体にそんな雰囲気が出来上がっていく。
執事やメイド長、トモノリも例外ではない。
「そういう話しが流れてるようだが、どうなんだね?」
唐突な話しにトオルは面食らった。
「何ですかそれは」
「いや、そこかしこで使用人が話してるようだったんでな。
気になって聞いてみた」
「ちょっと待ってくださいよ」
仮にも領主なのに、それは軽すぎるのではないかと思った。
「まあ、悪い話しではなかったからな。
君が身を固めるならめでたいし」
「なんでそんな話しに」
「持ちきりのようだぞ、あちこちで」
ならば村全体に広まってるだろうとすぐに予想が出来た。
「我が一族からでないのは残念だが、それなら応援したい」
「いや、そういう事にはなってないですから」
「じゃあ、うちの一族から嫁をとってくれるのかね?」
「そういう話でもありませんから」
なんでこうなったと思ってしまう。
そう思ってる間にも着々と工作は進んでいく。
「どうなってんのよ」とチトセは呆れてるが、表だって声をあげにくい。
兄の幸せを願わないわけではないが、サツキとレンはもったいないと思ってる。
二人ならよりよい相手がいるはずで、自分の兄では釣り合わないと。
だからこそサトシが事あるごとにトオルと二人をくっつけようとする発言に文句を言ってきた。
なのだが、最近はそれを言うのもはばかられる。
何か言えば、「まあまあ」とか「おいおい」とか言ってやんわりとたしなめられる。
一度や二度なら反発も出来るが、これが毎度となると段々言いづらくなる。
気がつけば周囲は、トオルは二人をどうするのだろう、という話になっていた。
また、二人もトオルをどう思ってるのだろうとも。
「大変な事になってるね」
「どうしてこうなってんだか」
当事者の片割れであるサツキとレンも、周囲の雰囲気くらいは理解している。
なんだかんだで話はそれとなく伝わってくる。
自分達とトオルがどうなるのかについて、周囲がそれとなく目を向け耳をそばだててる事も。
そういう事も考えないではない。
二人ともまだ若いが、世間一般でいえば結婚しててもおかしくない年齢になっている。
というより既に嫁き遅れと言われてもおかしくない年齢になってきてる。
まだ二十歳そこそこであるが、この世界では婚期を逃したと言われかねない。
部屋住で終わる者達も多いので、未婚もそれ程珍しくもない。
それでも少しばかり残念な思いを抱きはする。
出来る事なら……という思いは二人にもある。
無理なものは無理、出来ないものは仕方ないと思いつつも。
「でも、これは無いよね」
周囲の状況を見てそう思う。
いくら何でもはしゃぎすぎである。
「まあ、誰かが噂流してるんだろうけど」
盛り上がり方の不自然さに違和感は感じる。
意図的に誰かがやってるのだろうと考えていた。
ただ、それはそれとして「トオルなら」とも考える。
一団を率いて頑張ってるのは常に目にしている。
この先の事も考えて布石もうっている。
いざというときに前に出て戦う度胸もある。
男として頼もしいというのは確かに二人も感じてはいた。
他の女子もだいたい同じような意見である。
チトセは妙に採点が辛いが、身内なので例外だろう。
(まあ、トオルさんなら)
(全然かまわないけど)
そう思う程度には好意を抱いてはいた。
続きを20:00に投稿予定




