レベル147 こういう事では頭が回るようです
「煮え切らねえなあ」
傍で見ていてじれったくなる。
サトシは妙に慎重なトオルの態度に呆れてもいた。
(声をかければいいのに)
見てて分かるくらいにサツキもレンもトオルに好意をよせている。
日常の中でのちょっとした接点などを見るとはなしに見てるだけでも感じる。
サトシがそういう目で見てるというのもあるかもしれない。
そうであっても、二人が一定以上の好意をトオルに寄せてるのは予想がつく。
(兄貴もそのつもりだろうし)
こちらも二人にそれなりに気を遣い、それなりの気持ちでいるだろう事は感じられた。
初期のメンバーである事もあるだろうし、付き合いも長い。
何より美人というのが大きい…………というのはサトシの考えではあるが。
だが、決して悪いようには思ってないだろう。
お互いに相手への信頼や好意はある。
(もうちょっと強引に行ってもいいと思うんだけどな)
「だよなあ」
周囲の人間も同じ意見であった。
「いい加減、大将も乗り出せばいいのに」
「慎重すぎる気はする」
マサルにコウジ、シゲルとカズキ。
同郷出身の者達も同じ考えだった。
「なんなんだかね、あの奥手さ」
「意外とこういう事には及び腰だよな」
「モンスターより楽だと思うんだけどねー」
それぞれ色々思ってはいたようだった。
「それが兄貴のいいところなんだろうけど」
慎重で繊細。
度胸がないわけではないが、無理はしないし勝算が出るまで行動には出ない。
だからこそここまでやってこれたのだろうとは思うのだ。
なんだかんだ言って、一団を数十人にまで拡大させたのだから。
「でも、もうちょっと踏み込んでもらいたいよな」
「確かに」
「そうだね」
皆が頷いてくる。
「いっそ、俺らで後押ししてやろうか?」
何の気無しにいった、冗談のような一言である。
だが、周りは面白そうな顔をして、
「いいぜ」
「乗るよ」
「やるか」
「是非とも」
即座に賛同してきた。
これにはサトシが驚く。
「本気で言ってるのか?」
にやけた顔で聞くと、皆は「もちろん」と返してきた。
「よーし」
俄然やる気になったサトシは、寝転んでいたベッドから身を起こす。
アイデアは浮かんでこないが、頭は猛烈に回転し始めた。
「面白くなりそうだな」
結局はそれが一番の理由であったが、サトシ達は活動を開始していった。
夜も更け、さっさと寝るべきであったが。
明日の仕事など考える事無く、邪悪な企みを形にしていく。
基本の基本は、周りから固めていく事だった。
当事者だけでなく、その周囲から。
まずは情報収集。
それから味方を増やしていく。
それも、なるべく好意的というか積極的に協力してくれそうな相手から。
このあたりの智慧が働くのは、悪ガキ特有であろうか。
仲間を増やして数を固めていこうというのは理にかなってはいた。
まずは身近な新人達から。
一緒にいる事が多いから話しを聞きやすい。
それに機会も自然と増える。
「兄貴も身を固めりゃいいのに」
「いつまで独り身でいるんだろ」
といった調子ではじまり、「お前はどう思う?」というところまで持って行く。
そうならない事もあるが、こればかりは話しの流れなので無理はしない。
機会は何度だってあるだろうし、その時に流れにもちこめばよい。
そんなこんなで一人二人と意見を聴取していく。
直接の関係はないが、館の使用人にも話しを流していく。
何かと接点のある使用人達ならそれ程無理もなく話しが出来る。
折に触れて「うちの兄貴もなあ」「早く相手を見つけてくれりゃいいのに」と呟いて下積みを作っていく。
話しにのってきたら、そこから更に拡大していく。
館の中で、だんだんと下地が出来上がっていった。
素材の持ち込みで帰ってくるアツシ達にも活動の輪をひろげていく。
「実はな…………」
と神妙な顔で話をはじめるサトシ達は、トオルの今後について語っていく。
「兄貴もいい加減身を固めてもいいと思うんだ。
で、お前はどう思ってる?」
「そりゃまあ……」
そこから始まった話は、トオルの幸せと一団の今後を適当にからめて展開されていく。
話半分に聞いているアツシであるが、多少は思うところもある。
「まあ、トオルさんもいい加減そうなってもいいと思うけどね」
少なくとも否定はしない。
「もう二十五だったっけ」
「確かそのくらいだよな」
トオルの年齢である。
「そろそろ嫁さんもらってもいいくらいか」
「遅すぎるくらいじゃね?」
世間一般の婚姻年齢とトオルの功績を考えればそう思う。
「兄貴ならもっと早く身を固めても良かったと思うよ」
「まあ、それも確かに」
「いっそあの二人でも嫁にすりゃいいんだけどな」
「またそれかよ」
とはいえアツシも否定はしない。
なんだかんだでそれが一番かも、という位には思っていた。
こういった話しは村人達にも自然と流れていく。
話しかけた人間が多いほどそれは顕著になる。
使用人達は村に出向いた時に、そんな事を口にする。
話題や娯楽の少ない世の中の事、貴重なネタは瞬時に拡散していく。
他にネタもない事だから、繰り返し延々と。
それらは尾ひれ胸びれをつけて泳ぎ回り、村の中にひろまっていく。
また、村もその中だけで完結してるわけではない。
村同士の接点もある。
何かの折りにそれらが流れ、他の村にも流れていく。
口コミで流れていく情報は伝言ゲームのようになっていったが、確かに人々の間に浸透していった。
続きを明日の17:00に投稿予定




