レベル146 安心出来ない出来事はいつもの事ではあります
中央からの通知で、補償がやってくるのは六月と分かった。
多少の前後はあるかもしれないが、正式な通知であるから大きな変動はないはずだった。
それを見越してトモノリもトオルも動き出していく。
ちょっと遅めになるが、新たに宿舎を増やすには丁度良い頃合いではある。
今まで村長宅の空いた部屋に逗留していた者達を移す事が出来る。
なんだかんだで他人の家は気を遣う。
村長もそれなりに負担だったかもしれない。
それが解消されるのも大きい。
出来上がるのは九月か十月になるだろうが、また一つ先行きの明るさを示す出来事が増えた。
その一方で不穏な話も流れてくる。
中央からの報せは補償金以外でもある。
その中の一つに、北の国境における大規模な戦闘の事があった。
トモノリとの話し合いで「こっちに関係してくるかもしれん」と言われて教えられた。
国の中では辺境に位置するこの辺りでは無関係とは言えない。
北に面してるというわけではないが、間にある無人地帯は障壁にならない。
自然とモンスター襲来の可能性が高まってしまう。
以前の小鬼の襲来もそうだし、それ以外の獣型モンスターが増大するかもしれない。
国境における大規模な戦闘は、その可能性を高めてしまう。
大規模な戦闘があったという事は、勝敗は別として相応の損害を受けてる事になる。
当然防備は手薄になり、国境を突破するモンスターは増える。
以前よりモンスター襲来の可能性が高まるかもしれなかった。
まだそうなると決まったわけではないが、備えは増やしておきたい。
とはいえ、北の国境における大規模な戦闘というのは珍しくもない。
数年に一回は何らかの大規模戦闘が起こっている。
その都度モンスターの勢いに変化があるのは確かだが、破滅的な大事に至る事はほとんどない。
前線における犠牲がどれほどかは分からないが、深刻な影響になる事は滅多にない。
それがこの先も続く保証はないが、大きな懸念としてとらえる者はそれほど多くはない。
ただ、何かしら違いがあらわれるかもしれないので、それとなく注意はしておこうという気にはなる。
トオルもトモノリも、新たに作ってる田畑への影響がないよう願ってはいた。
早急に備えを作っておきたいとは思ったが、なかなかそうもいかない。
襲われた場合の被害を考えれば早急に手を打ちたい。
資金と人手が足りないのですぐには出来ない。
借金による負担が減るとはいえ、まだまだトモノリの領内はそこまで余裕があるわけではなかった。
実質的な防衛力を担ってるトオルも、それらに対応しきれるほどの力はなかった。
冒険者の一団としてはかなりの規模になってるが、押し寄せるモンスターを防ぐほどのものではない。
実際にそうなったら、自分らが生き残るだけで精一杯になってしまうだろう。
北におけるそうした出来事も、巡り巡って自分達に影響があるかもしれない。
知ってるだけではどうにもならない事である。
それでも、何も知らないでいるよりは良い。
警戒を強め、事前の準備を進める気にはなる。
ただ、目先の問題に追われる中ではそれにかまってもいられない。
気にはなるし、今後に不穏を感じてしまう。
何かあれば自分達がそれらに対処する事になるし、そうであるなら何かしておきたい。
それでも、起こりうる事に対処する余裕もなく、日々の生活を支える事に労力は費やされていく。
何か起こるにしてもまだ先の事、というのも優先順位を下げている。
悠長に構えてるわけではないが、他に手を出してるほどの余裕がなかった。
「まあ、それも問題だけどさ」
仕事あがり、食事が終わった後の食堂。
雑談がてらそんな話をしてたところで、サトシが口を開く。
「兄貴はもっと早く解決する問題があるだろ」
「何が?」
「早くサツキとレンをもらってやれって。
どんだけ待たせるんだよ」
「アホ」
一言のもとに却下した。
だが、サトシもそこで引き下がらない。
「兄貴もいい年齢なんだからさ。
そろそろ身を固めろって」
言わんで良いことを口にしてくる。
確かにその通りではある。
年齢的には結婚しててもおかしくはない。
サツキやレンと…………というわけではないが、多少は意識する。
(結婚ねえ)
縁の無かった事である。
そういう相手がいればとは常々思っているが。
(けど、いくらなんでもなあ)
チラッとサツキやレンのいる方に目を向ける。
他に何人かいる女の冒険者と一緒に固まっている。
確かに二人ならいいかもな、とは思う。
美人だし、性格も良い。
何年も一緒にやってるから、気心も知れている。
するなら二人のような者の方が良いとは思う。
この一団に変にちょっかいを出される事もないだろう。
言っては何だが、そういう背景と無縁である。
(ま、無理か)
一団の仲間として仲良くはしてるが、お付き合いするほど親密ではない。
少なくともトオルはそこまで二人と関係が深いとは思ってなかった。
(そうなりゃ良いけどねえ……)
などとは思っていたが。
続きを明日の17:00に投稿予定




