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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
日々の中で3

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行間小話6 教育はこんな調子で進んでおります

「おーし、そんな感じだ」

「そうそう、その調子」

 妖ネズミ相手の穴の周囲でそんな声があがる。

 おっかなびっくり武器を振ってる新人達は、そんな一言で少しばかり安心をする。

 説明は受けたがやり方はろくろく分からない。

 こうなのか、ああなのかと考え、悩みながらの作業だ。

 そもそも経験がない。

 どれが正解なのかなど確かめようがない。

 だから、誰かが認めてくれる事で知る事が出来る。

 このやり方で良いのだと。

 多分にその言葉は励ましの意味が強く、実際に新人達のやり方が正解だと示すものではない。

 言われてる方はともかく、言ってる方はそれも分かってる。

 新人達がそれ程上手くやれてるわけではない事を。

 それでも教育係は、新人達がやってる事を認め、褒めていく。

 それで良いのだと。

 嘘と言えば嘘である。

 だが、間違いかと言えばそうでもない。

 待ったく技術を持ってないにしては上手くやってるし、そこそこ成果もあげている。

 決して上手とは言えないが、目もあてられないほど下手というわけでもない。

 素人にしてはよくやってるというあたりである。

 それを素直に二人は認めていた。



「どうよ、そっちは」

 一息つこうと休息を促したあと、相方に質問をする。

 言う程進捗を気にしてるわけではない。

 半分くらいは適当に言ってるだけである。

 だいたいレベルが上がるまでどれほど腕が上がってるのかなど分かりはしない。

 以前より動きが良くなっているのは確かだが、それも慣れによるものと言える範囲だ。

 なので、答える方も適当な事をいう。

「こんなもんでしょ。

 悪くはないよ」

 悪意はない。

 新人達の動きに、満足とまではいかないでもほどほどに成果は認めている。

 やる気を認めてるし、やり方をおぼえようとしてるのも分かっている。

 けれど、実際に技術や能力が上がってるとまでは思ってない。

 そんな調子の声だった。

「ま、そんなもんか」

「そんなもんよ。

 そっちもそうでしょ?」

「まあね」

 問い返されて答える声も同じような意味合いを含んでる。

 目を見張るような何かは無いが、駄目というほど悪くもない。

 当たり前を当たり前としてこなしてる事にとりあえず安心をしてる。

 そういった調子だった。

「まあ、レベルが上がるまではこんなもんだし」

 もう何人も新人を見てきたサトシは、特に焦るでもなくそう言う。

「焦っても無駄って所よね」

 もとより気負うつもりもないレンも、今の流れをそれなりに好意的に受け止めていた。



 新人を預けられて一ヶ月。

 領主の村に残って新人と妖ネズミを倒す日々。

 サトシとレンは、そんな毎日に慣れていた。

 トオル達と違い、レベルが全然足りない新人達は、はっきり言えば二人のお荷物である。

 彼らが二人がかりでようやく妖ネズミを倒す間に、サトシとレンは二匹三匹と当たり前のように倒していく。

 新人が一つの穴に落ち込んだ妖ネズミを全滅させた時、サトシとレンは一人でいくつかの穴の妖ネズミを全滅さえている。

 それだけの実力差があるので一緒に行動してるとは言い難い。

 やり方の手本として、穴の中にいる妖ネズミを倒して見せはする。

 手順や狙い所、攻撃を入れる瞬間の見極めなどは伝えている。

 そして新人達にやらせ、その様子を後ろから見ていたりもする。

 しかし、一緒になってやってしまったら、教えた事を活かせなくなる。

 彼らが何かをする前に、サトシとレンが穴の中の妖ネズミを片付けてしまうからだ。

 なので、専ら後ろから見てるのが通例となっていた。

 作業が終われば、見ていて気づいた所とかを口にしていく。

 良いところもしっかり認め、そこを伸ばすよう指示も出す。

 危なくなれば彼らの中に入り、危機を救う。

 それでも基本的には手を出さずにいるのが基本となっていた。

 それだけでは成果が上がらないので、実演と称して二人で妖ネズミを倒していったりもする。

 新人達はそこで自分達と先輩の差をいやというほど実感する。

 気持ちが萎える事もある。

 それでも続けていられるのは、

「レベルが上がればどうにでもなる」

という二人の言葉あっての事だった。

「上がればこれくらいは出来るようになる」

「やってれば必ず上がるから。

 やらなきゃ絶対上がらないけど」

 いまいち励ましてるとは思いにくい言葉を受けつつ、新人達は今を過ごしていた。

 登録証で見せてもらった二人のレベルを見てるのも大きい。

 なるほど二人はレベルが高く、妖ネズミは手早く片付けていく。

 だが、それがレベルによるものだとするなら、悲観する事もなくなっていく。

 やってるうちに上がるのであれば。

 一年でレベルは3~4は上がるという。

 いささか気の長い話だが、それが新人達の気持ちをギリギリの所で支えてもいた。



「まあ、怪我をしなけりゃいいしね」

 必死になって妖ネズミに剣を振りおろし、槍を突き刺してる新人達を見てそう思う。

 穴の中にいる妖ネズミの攻撃が当たるような事はほとんどない。

 だが、気を抜いて良いわけでもない。

 ちょっとしたズレや、集中の途切れで痛手を負うこともある。

 のめり込んで必要以上に前屈みになって、妖ネズミの攻撃範囲に入ってしまう事もある。

 ふらついて体勢を崩し、穴にはまりこむ可能性もある。

 一番危険なのは、倒したと思って穴から引きずり出す時である。

 致命傷にいたらず、まだ生きていた場合は大変な事になる。

 そうならないように、確実に頭を潰すか、動いても大丈夫なように足の一つは確実に潰しておかねばならない。

 それを怠って穴に入り、外に出す時に大変な騒ぎになる事もある。

 滅多にない事ではあるが、二人ともそこには気をつけていた。



 ただ、今回もそうだが新人達に落胆したり、さじを投げるような事はない。

 今までの新人達もそうだったが、才能や技術について目を見張るようなものは無い。

 だが、ごく普通の人間が出来る事はちゃんと出来ている。

 能力や才能に多少の上下はあっても、概ね平均の範囲内にいる者がほとんどだ。

 だが、一番必要な意志を誰もが持っている。

 それだけで十分だった。

 安全ではあるが地味で長時間続けていかねばならない作業。

 それをやり続け、レベルが上がるまでがんばれる。

 食らいついて離れない粘り、諦めの悪さ。

 大事なのはそこだった。

 才能や能力のない人間が生き残っていこうと思ったら、長く続けるしかない。

 多彩な才能を発揮する事は出来なくても、一芸に秀でていくしかない。

 そこまでいくには、時間をかけて続けるしかない。

 この一ヶ月、新人達はそれを示している。

 それだけで十分だった。



「昼が終わったら、また繰り返しかな」

「そうだね。

 解体の方も似たようなもんでしょうね」

「あっちも仕事をおぼえるまで大変みたいだけど」

「しょうがないでしょ、それは。

 倒したモンスターの回収も含めてがんばってもらわないと」

「こっちとあっちの行き来で大変そうだけどな」

 遠目で見ても分かるくらいそちらも大変そうであった。

 解体の新人達は、まず死骸の回収をひたすらやらされている。

 倒したモンスターを大八車にのせて、穴と解体場を何度も往復している。

 それが終わって死骸が並んだら、今度は一斉に解体だ。

 とにかく数をこなす事になる。

 死骸に刃を突き刺し、必要な部位が手に取れるよう拡げていく。

 ひたすらそれを繰り返す。

 一度その作業が始まったら、回収には回ってこない。

 それらはほとんど先輩達が行っていく。

 解体の教育係になってるマサルは、次々に作業待ちの死骸を新人達の前に並べていく。

 手の遅い新人達は、次々に運ばれてくる処理待ちの死骸を前に慌てふためいている。

 だが、そうやってただひたすら数をこなすことで慣れさせようという配慮だ。

 実際にやらない限りやり方はおぼえない。

 遅れが酷くなれば、マサル達も解体に入る。

 解体の手が止まらないように、処理する数を考えながら。

 おかげで新人達は、作業の大半を解体に費やす事になっていく。

 厳しくつらい修行は前線も後方も変わらない。



「まあ、午後もしごいていくとするか」

「ちゃんと手加減するんだよ」

「分かってるって」

「どうだか」

 言いながら二人は腰をあげ、穴の方に向かっていく。

 そこに餌をばらまき、次が来るのを待つために。

「新人、そろそろやるぞ」

「午後も頑張ろうねー」

 明るい呼びかけに、新人達はやけくそ気味の返事をした。

 小話をもう一つ20:00に投稿予定

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