レベル138-2 相手がいれば考えますよと言い逃れてみたい
「もう結婚するしかないんじゃねえの?」
「そうなのかな……」
いつものように鉄拳制裁することもなく、サトシの言葉に同調してしまう。
こうも重ねて要求されると弱気にもなる。
何とか回避しようと思うが、それもままならない。
ならばいっそ、と思ってしまう。
「だったら、サツキとレンのどっちかをものにしてしまってくれよ。
両方でもいいんだし」
「お前はそこから離れろ」
何かあると二人を持ち出すサトシに呆れながらも、何か良い手段はないかと思ってしまう。
しかし、そんなトオルに容赦のないご意見を叩きつける者もいる。
「兄ちゃんが結婚なんて、あり得ない奇跡なんだから。
しかも貴族様でしょ。
ありがたく頂戴しなさいよ」
妹のチトセは容赦がない。
「こんな機会でもなけりゃ、絶対にお嫁さんなんてもらえないんだからね」
「まあ、そうなんだけどさ」
元々部屋住の身分である。
今は少しばかり上手くいってるが、それでも冒険者。
普通に考えれば結婚どころか、日々の生活すら事欠くのが普通である。
それがこうして話が持ち込まれてるのだから、文句を言う筋合いはない。
諸手を挙げて歓迎する方が自然であろう。
「けどなあ。
そう簡単に受け入れるわけにもいかんだろ」
「だからってサツキさんやレンさんなんて駄目だからね」
「なんで?」
「兄ちゃんにはもったいない」
酷い言いぐさである。
悲しいことに、それを否定する事も出来ない。
もっとも、それがなくても二人に迷惑をかけたくはなかった。
面倒なしがらみを避ける為の結婚なんて、理由としては最低だろう。
「でもなあ、どうやって断ったもんだか」
「だから断る必要ないでしょ」
チトセからすれば、利点の方が大きくうつるようだった。
確かに庶民と貴族が結婚なんて、利点しか見えないだろう。
そう考えられないのは、トオルがひねくれてるようにも感じるのかもしれない。
(まあ、前世なんて言っても理解されないだろうけど)
そこで得た様々な実体験や体験談などが警戒心を強めている。
誇張や脚色、創作による陰謀論なども、万が一を考えさせてくる。
それらの大半は空想や想像だとは思うが、自分の知らない世界を想像させてはくれる。
そうでなくても昔からの教訓というのが色々と教えてくれる。
(上手い話には裏があるってね)
庶民であるトオルにとって、貴族との縁は確かに美味しい話である。
だからこそ自然と警戒を強めていた。
トモノリから言われた事ももちろん理由になっている。
(まあ、もうちょっと条件をつけておくか)
上手く断る事が出来ないなら、ハードルを上げるしかない。
そして、可能な限り多くの条件をつけるしかない。
とりあえず、一緒に行動するなら冒険者になれとは言ってあるが。
あくまでそれは、貴族の参加を遮る条件に過ぎない。
結婚の方を断る理由にはなってない。
(そこをもうちょっとどうにかしないと……)
どうにか出来ないかと頭を働かせていく。
貴族では難しく、受け入れ難い条件を。
また、相手を見定める事が出来るような内容にしていかねばならない。
もし万策尽きて嫁に迎えるしかなくなっても、まともな人間を選べるように。
(しっかし、なんでこんな事になってんだ)
自分のやってる事に疑問を抱いてしまう。
冒険者とは全く関係がないと思えて仕方がなかった。
それでも条件はあれこれと考えていく。
ともかく、邪魔になるようなものを排除していかねばならない。
まず、貴族の地位が一番邪魔だった。
血のつながりや親子の縁は切っても切れないだろう。
それはやむを得ないが、地位についてはどうにかしてもらわねばならなかった。
振りかざされたらたまらない。
余計な口をはさんで、大事な事を蔑ろにされてはたまらない。
現場を知らない上司に引っかき回されるのは願い下げだった。
ましてトオルがここまで持ってきた一団である。
部外者にとやかく言われたくはなかった。
まずはこれを捨てる事から始めてもらわねばならない。
また、冒険者としての登録と活動。
結婚とは関係はないが、相手を見定めるためにはこれも必要と思えた。
数えるほどの接点で相手を見極めるのは難しい。
それなら、いっそ一団に入って行動すればよい。
貴族を入れるのに抵抗はあるが、事前に地位を捨てるのを条件に入れておく。
寝起きも活動も一緒にするなら、見えてこないいつもの姿をさらす事にもなる。
また、庶民として暮らしていくのがどういう事なのかをはっきりと認識してもらう。
これがつとまらないようでは、一緒にやっていく事は出来ない。
駄目なら一団から追放する。
その後は知った事ではない。
それらをこなした上で、トオルの判断で決める。
相手に選択権は与えない。
ここまでやったのだから受け入れろとも言わせない。
あくまでこれが試験である事をのんだ上での話である。
選ぶのはトオルであって、他の誰かではない。
交換条件もつけさせない。
一方的にトオルのほうで条件を重くしていく。
しかし、軽くする事は無い。
(酷いな、本当に)
色々と考え、書き出したところで、トオルもそう思ってしまった。
普通なら飲まないだろうという条件であろう。
そもそも貴族の地位を捨てろなんてのが常軌を逸してる。
だが、これくらいの条件を越えてもらわないと、後々面倒になる。
内部に受け入れるだけでも面倒だし、危険を内包する事になりかねない。
それを踏まえての事なのだから、これくらいは最低条件だった。
とにかく外部からの干渉を遮らねばならない。
それが出来なければ、一団を切り崩されかねない。
度が過ぎた心配かもしれないが、トオルはその可能性を危惧していた。
(まあ、さっさと結婚しちまうのが一番楽なんだろうけど)
誰か適当な人間がいないものかと思ってしまう。
今の稼ぎではとても家族を養っていけないが。




