レベル134-2 変わっていくけど変わらない事もあるもので
作り上げる拠点についても考えていかねばならなかった。
当面は今いる人数を収容できれば良いし、その程度の大きさでかまわなかった。
大きさもそれ程でなくてもよいと考えていた。
それでも結構な大きさと設備が必要になるのは以前から予想はしていた。
だが、それすらにまだまだ甘い考えでしかないのがはっきりとしていく。
以前から考えていた通り、寝泊まりする小屋だけで済むわけがない。
生活するための設備も必要になってくる。
炊事場や便所だけではない。
近くに川がないなら井戸を掘るか水路を近くまで引かねばならない。
素材だけでなく、道具を入れておくための倉庫に、食料の貯蔵庫も求められる。
運搬に必要な大八車も手に入れる事になるだろうし、それを雨ざらししないよう車庫も求められる。
これが荷馬車になると、馬をいれる厩舎も必要になる。
防備においても、堀や柵だけでなく終わらなくなるだろう。
石造りの塀もこしらえねばならないかもしれない。
見張りの為の櫓も欲しくなる。
細々とした生活用品を入れれば、かなりの出費になる。
加えて、これらを作る大工を頼み、それなりの建設期間が必要になる。
その間、現地はどうするのかを考えねばならない。
モンスターのいる場所に作るのだ。
現地に寝泊まりというわけにもいかないだろう。
村との往復が必要になる。
作業現場を荒らされないように、モンスター除けの魔術を設置しておく事も考えねばならない。
作業中の護衛も必要だ。
数ヶ月はかかるという建築期間を考えると、かなりの手間になる。
大工を雇う負担も大きい。
材料費も相当なものだが、そちらの方がより金がかかる事になる。
以前、一千銀貨はかかると考えていたが、実際にはそれだけでは済みそうもなかった。
とりあえず、必要最低限のものだけ揃えるにしても二千、三千の銀貨が飛んでいきそうだった。
土地の値段がほとんど無いのが救いである。
誰も住んでない場所で、なおかつモンスターのはびこる地域である。
新規の開拓地であり、誰の物でもない土地扱いにはなるだろう。
値段は本当にかからないで済みそうだった。
聞いてた通り、誰の土地なのか登記する為の印紙費用くらいがせいぜいになりそうである。
もっとも、手に入れるのと有効活用が出来るは別だ。
作らねばならない施設の用意は簡単ではない。
(必要になる費用は、当初の予定の二倍以上か……)
前世の記憶である。
どこで聞いたか読んだか忘れたが、計画とはそんなものだという。
だとすれば、費用は二千銀貨以上。
期間の方も二倍は見込んでいた方が良いかもしれない。
(こりゃ、本当にきついな)
慎重に過ぎるかもしれないが、それが悪いとは思わない。
これがトオルをここまで連れてきたのだから。
(皆にも話しておくか)
計画にどうしても遅れが生じそうな事を。
それでも皆には頑張って欲しいという事を。
「それはいいんだけどさ」
月に一度、素材売却に合わせた晩飯兼会議の席。
話しを終えたトオルにサトシが思いを口にする。
「結構大変じゃない?」
「そうだな」
言われるまでもない。
「かなりきつい」
「もっと稼げるモンスター相手にしていかないと」
「なんだけどな」
そうなると今より高いレベルが必要になる。
そこに到達するまで、やはりあと一年か二年は必要になる。
「どのみち、それまでは何もできそうもない」
「確かにきついね」
居合わせた誰もが同じ思いだった。
「まあ、妖犬を相手にするようになれば、もっと稼げる。
そうすりゃ、少しは楽が出来るさ」
更にその上を相手にすれば、もっといけるだろう。
「そこに行く為に、こんな無理をしようとしてるんだしさ」
人を集め、育てるための場所を作る。
それが出来なければ上を目指す事も出来ない。
何度もここにぶち当たり、その度に強く刻み込まれていく。
────ここから先に進むには、ここを越えるしかない。
「ま、がんばっていこう。
どの道、やるしかない」
出来なければ、妖ネズミ退治を今後も続けるしかない。
以前ならそれでも良いと思えたが、今はそこに留まっていたくなかった。
稼ぎを増やす為に。
「うん、それでいいと思うよ」
レンが頷いた。
「さばき方も聞き回ってるしね」
解体組のマサルとコウジも頷く。
「もっと早くレベルを上げたいけどね」
「無茶言わないでよ」
アツシの言葉にチトセが呆れていく。
「でも、魔術の修行を終えた人達も戻ってきたし」
サツキが最後に声を上げた。
「もう少し頑張れますよ、きっと」
「ああ、がんばっていこう」
「でもさ、兄貴はもっと頑張らなくちゃならない事もあるよね」
「なんだ?」
「結婚。
トモノリ様とかも、まだ諦めてるわけじゃないでしょ」
頭の痛い問題を思い出させられた。
「どうすんの?」
「どうすっかな」
こればかりはどうにもならない。
「また何か言ってくるまでに、俺らだけでやっていけるようになるしかないか」
独立自立してやっていける基盤を作る事になる。
他の誰にも干渉を受けないように。
その為にも、自分達の拠点を作り上げたいものだった。
稼ぎを確保するだけでなく、そういった意味でも自分達の居場所を作る必要があるようだ。
「まあ、兄貴がさっさと結婚しちまえばいいだけだし。
早く嫁にしたら?」
いやらしい笑みを浮かべながらサトシは、サツキとレンの方を見る。
「調度いいのが二人もいるんだ…………」
いつも通りにトオルの制裁が飛ぶ。
今回、ちょっと距離が離れていたので、手にした木製のコップが鉄拳の代わりを果たした。
「まったく……」
そんな二人を周囲の人間は肩をすくめて見ている。
そして、サツキとレンの方にも目を向け、呆れるのとは別の意味でため息を吐く。
この件、周囲の者達もサトシとさほど意見は変わらない。
それが一番面倒も手間もかからないと思っていた。
当事者達はそんな周囲の空気に全く気づいていなかったが。




