レベル127-2 考えることは皆同じではありますが
社会的な地位を考えれば、トモノリにしろ村長達にしろトオルよりは上だ。
最底辺とまでいかなくても冒険者の地位は一般人である。
よほどの成功をおさめなければ、社会的立場を得る事は無い。
トオルは一団を率いているし、村を小鬼の集団から救っている。
それはそれですばらしい業績であり功績だ。
しかし、どうしても狭い範囲での話しになる。
ここで求められるのは、最低でも都道府県あたりから表彰されるといった事である。
社会的な成功はだいたいそのあたりから求めらる。
そこまでいけば、貴族に準じた扱いになる。
平民でいうなら、村長あたりに。
これが町なら、商工会や様々な職能組合などの幹部あたりが該当するだろうか。
ともかく、それくらいの功績を得てようやくトモノリや村長達とほぼ対等と言えるようになる。
なので、地位や立場を考えればトモノリ達が引け目を感じる事は無い。
ただ、それだけでいかないのも確かである。
商人が財力や流通を、職人が技術でもって己の地位や立場を確保するように。
冒険者も他の者に持ち得ない強みがある。
契約相手を選ぶ自由である。
気に入らない仕事であれば断る自由がある。
懐具合にもよるだろうが、それが冒険者の強みであった。
実力がなければ選ぶ事もまず出来ないが、基本的には受けるかどうかは各自の自由になっている。
例え社会的地位にどれだけ差があっても、冒険者にはそれが出来る。
もちろん、有力な貴族(まずあえりないが国王などが)が動き出せば断る事もできない状況になりえる。
それでも冒険者には、「まずいと思ったら逃げる」という事で対抗しうる。
土地に縛られざるえない他の仕事との大きな違いである。
身につけてる技術にもよるが、どこに行っても周旋屋から仕事が受けられればそれで食っていける。
周旋屋に圧力がかかればそれも難しいが、基本的に逃げる事で冒険者は自由を確保してる部分があった。
貴族も、自分の権限が及ぶのは基本的には領地の中だけである。
それが別の領地にまで逃げてしまったら、無理や無茶を通す事も出来なくなる。
貴族同士の繋がりや、それが律に違反する事であるならばそうとも限らない。
だが、伝手をたどるには協力してくれる相手が必要になる。
自分の思惑や考えだけで動いてるなら律を用いる事も出来ない。
それが出来るのは国王くらいであろう。
なので、トオルがトモノリや村長達の思惑を拒否して領内から出ていったら何も出来ない。
無理を押し通そうにもそれがなかなか出来ない。
そもそも、要求を無理矢理のませたら士気に関わる。
やる気を無くして仕事をほっぽり出したら意味がない。
そうならないようにする手立てがないかと彼らは考えていた。
ここまで考えてる理由は、つなぎ止めておくためだけではない。
他の誰かに確保されないようにという意味もある。
彼らも馬鹿ではない。
自分が考えてる事は他の誰かも考えてると思い浮かべるくらいは出来る。
他の誰かがトオルを確保し、余所に引っ張っていく事を懸念していた。
先手を打ってどうにか自分達の所に置いておけないものかと。
確かに彼らは間違ってなかった。
ほぼ同時に同じような事を考えていたのだから。
その為の手段が、結婚くらいしかなかったのも共通している。
トモノリの場合、一団に身内を入れて繋がりを強めるというのもあるのが違う所だろうか。
ただ、結婚してしまえばそうそう別の所に移動もできなくなる。
あちこち移動していく事も出来るだろうが、子供が出来たらそうもいかなくなる。
遊牧民もいるからそうと言い切れないのは確かだ。
しかし、必要な物が揃うのは町や村のように腰を落ち着けた者達がいる場所になる。
教育を受けさせるにしても、人が集まってる場所の方がよい。
物を作るにしろ、教育を受けさせるにしろ、継続的な作業になる。
それらを求めるなら、どこかに腰を落ち着ける事になる。
血縁関係という繋がりの他にも、そういった面も考えていた。
「どうしたもんか……」
村長の悩みは続く。
上手く取り込めば自分達にとって大きな利益になる。
モンスター対策なども自分達を優先してくれる可能性がある。
トオルがそこまで身びいきをするかは分からないが、話しを持ちかけやすくはなる。
それだけでも村長にとっては利益がある。
他の村との力関係においても有利になる材料になるかもしれない。
たった三つの村の中での話しだが、割とこれが重要な事でもあった。
多少なりとも強くでられる材料があれば、交渉にしろ調停にしろ有利に持ち込める。
アコギな、と言うなかれ。
何かしら代表者ともなればこんな事を考えなければならない事もある。
その為にも、自分の血縁に引き込んでおきたかった。
そんな事を見透かしていたから、トオルの父親は村長の話に首を横に振り続けた。
言いたい事は分かるし、気持ちも十分理解している。
彼も自分らが有利になるならそれが良いとは思ってる。
ただ、そのためにトオルを利用しようとする姿勢が気にくわなかった。
利用するだけではなく、トオルの事も考えはするだろう。
血縁に迎えようというのだから、相応の態度をとり、待遇もするはずだ。
利害だけで物事を考えてるわけでもないだろう。
そうであっても、こんな事にトオルを巻き込むつもりにはなれなかった。
トオルがもたらしてるものを考えれば、影響力は免れない。
それでも、こんな事に関わらないよう願っていた。
(何かのついでに伝えておくか)
こんな事が起こってることを、本人にもしらせておこうと考え始めていく。
そんな事を知らないトオルは、寝床の中で今後の展望を考えていた。
レベルアップしない事にはどうにもならないが、どうしても先の事を考えてしまう。
「どうにかならんもんかな……」
もしかしたら、何か解決や改善出来る事があるかもしれないと思いながら呟く。
あれば苦労はしないのは本人が一番よく分かっていた。




