レベル127-1 考えることは皆同じではありますが
「どうにかならんかのお」
わざわざ呼びつけた村人に、村長は訊ねた。
村の今後を考えての言葉だった。
実際に成果を見ているし実感している。
だからこそ、どうしても為しえておきたい事があった。
そのための問いかけである。
村の代表者としてなら、それなりに正当性があるだろう。
言われた方はたまったものではないが。
「そう言われても……」
問われた方もどう答えてよいか分からない。
確かに関係者である。
というか血縁者である。
だから話しが持ち込まれたのは分かる。
だからと言って、すぐに答えが出せるわけでもない。
「もう随分と離れてるし。
それにあいつはあいつで考えもあるだろうし」
「そりゃそうだろうが、でもお前さんが言えば無碍にはしまいて」
「分からんよ。
自分で出ていったからな。
俺らに文句があるわけじゃないにしても、言うことを聞くとは限らん」
「そこをどうにかできんのか?」
「今更何を言ってるって話しにしかならんだろ。
今じゃ俺らがあいつの世話になってるんだし」
「ううむ…………」
村長は腕を組んで考え込む。
確かに村人の言う通りであろう。
かつてはともかく、今になって権威を振り回したって意味がない気がする。
そもそも、立場を用いて進めるような話であるかどうか。
やれない事はないにしても、相手に通じるとは限らない。
村人の言う通り、相手との力関係などを考えれば、村長達の方が分が悪い。
「だがなあ、それでもみすみす逃すわけには」
「無理だって」
村人はにべもない。
「そんな事でどうにかしようって了見がどうかしてるしな。
どうしてもって言うなら、直接言いにいけ。
受け入れるかしらんが」
「それが分からんから聞いてるんだ」
「俺にだって分からん」
村人ははっきりと答えた。
「あいつがどう考えるかはな。
それに、俺から言い聞かせてどうにかなるもんでもないだろうよ」
それだけ言うと立ち上がって村長の家を出て行く。
引き留めようとしたが、相手は村長の言葉を聞き流していった。
残った村長はため息を吐いた。
「とはいえなあ……」
すぐに諦める事もできない。
「あれを逃すのも惜しいだろ」
頭にはトオルの事が浮かんでいた。
村の事を考えれば、トオルをつなぎ止めておきたい。
できれば、この村の方に来てもらいたい。
そして、モンスターを倒していってもらいたい。
今はトモノリの領内の田畑拡張に駆り出されているが、やがては村の方を中心にそうしていってもらいたい。
それが出来ないまでも、人手を割いてもらえればと思う。
その為に、自分の所の娘と縁組みでも出来ればと思っていた。
村人を、トオルの父親を呼んだのはその為である。
父親として息子に言い聞かせる事が出来ればと思っての事だった。
手段としては強行すぎるかもしれないが、今の所有力な手段もない。
(どうにか出来んもんかな)
トオルの父親が出ていった後の応接間で、他に手段がないかを考えていく。
似たような事を考える者は一人とは限らない。
同じ事を考える者は他にも出て来るものだ。
トモノリの考えたような事は他の者も考える。
特に立場が同じような者達ならば。
誰もがトオルとその一団の有用性には気づいている。
だから、それを手に入れるために、自分達に有利にするためにあれこれと考えていた。
トモノリは領内から外に出さないために。
村長は自分の村を中心に。
立場の違いによる誤差はあるが、概ね誰もが同じ事を考えていた。
トモノリも、トオルの村の村長も。
他の村の村長も実は同じだ。
トオルのもたらしてる成果はそれだけ大きい。
余所に行ってしまわないようにつなぎ止めておこうというのは誰もが共通していた。
その為にどうしていこうかという画策が、少しずつ進んでいっている。
ただ、決め手に欠けるのが難点であった。
トオルとの接点において、誰もがほとんど似たようなものだった。
また、用いる手段も大同小異である。
そこをどうにかしたい所であるが、何をどうすれば良いのかが見えてこない。
何かしら強く出られるところでもあれば、と思うもそんなものもない。
誰もが共通するが、立場や力関係においてどうにも分が悪い。
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