レベル126-2 そりゃ逃さないよう色々考えるでしょうけど
トオル達の中に身内を入れるというのも考える。
貴族の子弟も末端になれば仕事にあぶれているのが大半だった。
これは有力な貴族であっても、トモノリのような末端の領主であっても変わらない。
平和な時代とは言い難いが、どこも必要以上の人間を抱えている。
その平和を支えるための北の最前線では常に兵士を求めているが、だからと言って無分別に人を送り込むわけにもいかない。
軍勢を維持するためには予算が必要であり、その予算は税収の中でやりくりせねばならない。
軍事費は多少多めに確保されているが、無限ではない。
長大になりがちな前線を保つために、金は命と同様に消費されていく。
それらは投資になりえない消耗であり、国力を増大させる事は無い。
国家の、人類の生存権を確保するための必要経費であるが、何かを生み出すというものではない。
その消費を極力抑えるために、どうしても兵員は予算の中におさめる必要がある。
予算で維持出来る兵員を、多くもなく少なくもなく揃えておかねばならない。
消耗の激しい兵士であってもそれは同じである。
常に募集は出ているようなものだが、募集にも定員はある。
これが貴族ならばなおさら厳しいものがある。
それらは末端の兵士ではなく、兵士をまとめる仕官としての役割を求められる。
平民出身ではどうしても身につけがたい教養を持ち合わせている者達には、相応の役割が求められる。
そして、どれほど低い役目であっても、統率する者というはされる者よりも少数である。
その少数の募集は兵士よりも格段に少ない。
何よりも仕官として求められるものは、士官学校にて最低限の教育が必要となる。
大量に必要な時にはその教育機関と内容が大幅に簡略化される事もあるが、それでも士官学校卒業の資格は必要になる。
その機会を得るのもなかなか難しいのだ。
末端の兵士として参加するならそうでもないが、それが出来る貴族はかなり平民・庶民に近い立場の者達でないと難しい。
家の格や立場が最下級の兵士としての参加を許さないのだ。
そもそも、そういった末端の生活を貴族の中でも上流階級出身の者達が出来ないというのも理由になってる。
更に言うなら、戦場に出るのは貴族の中でも武門や武家と呼ばれる者達が基本である。
それ以外の貴族が軍に入って戦場に出るというのは、箔付けのための儀礼のようなものと考えられている。
これもまた、余り気味の貴族を軍に入れられない理由であった。
かと言って他に道があるのかというと、これが難しい。
自分の領地における統治機構に放り込むにしても、なかなか空きがない。
既にそういう所は、一族の別の者が入ってる事がほとんどだった。
いわゆる役所といった機関であるが、こういった場所も最前線の軍と同じで予算などが絡んでくる。
それに、貴族だからと採用を優先させるわけにもいかない。
要職やそれに従う直属の部署などはほとんど貴族が担ってるが、窓口業務などは平民・庶民がほとんどだ。
単純作業がほとんどで、貴族が必要とされる仕事はほとんどない。
残るは、神社に入信したり、大学など学問で身を立てるくらいであろうか。
どちらもそれなりに大変である。
神主などの神職も人手不足というわけでもない。
修行もあるし、最低限のしきたりと魔術を身につける必要もある。
それなりに大変ではある。
にも関わらず、不足と言う程の状態でもないのだ。
学問で身を立てるのもやはり難しい。
研究員してどこかの研究施設に入るにせよ、後進を育成する教授になるにせよ、相当な勉学が必要になる。
蓄えた知識を武器に、相談役(あるいは軍師、参謀)におさまるのも厳しい道である。
何にせよ、一定以上の修養を求められる。
このあたりは職人の世界と大差はないのかもしれない。
手に職をつけるか、頭に知識を刻み込むかが違うだけで。
商売となるとこれまた難しい。
始める事はそれほど難しくはないかもしれないが、成功していくのは並々ならぬ努力が求められる。
それなりの教養を身につけてるとはいえ、それで商売が出来るというものでもない。
子供の頃からの修養で身につける教養は人間としての幅を確かに作ってくれる。
しかし、生活の知恵や現場の智慧というわけではない。
どの道に進むにしてもそうだが、その世界におけるやり方というものがある。
それも無しにいきなり仕事を始めても成功するわけもない。
職人と同じで下からやっていくか、出資者になって株主におさまるあたりを狙うしかない。
前者はまず採用するところがないだろうし、後者になるには相当な資本がないとどうにもならないが。
そんな貴族の状態から考えると、トオルの所に入るというのも結構難しいものがある。
ただ、トモノリと同等の立場や地位の子息ならばギリギリいけるかもしれない。
生活水準が近いので、何とか合わせる事ができる。
トオルが仕事を拡げようとしてるのも好機に思えた。
書類整理などが出来る者がいれば助かるはずである。
それを考え、一族の中で妥当な者を送り込む事も考えている。
つなぎ止めるにはまだまだか細いが、全く接点がないわけではない。
多少は考慮する材料になればよい。
あとは、もう少し飛躍した手段もある。
そちらを実行するのは更に難しくなる。
一族の中になら適当な者もいるだろうが、これはトオルの意志を考えねばならない。
また、結びつきが強固になりすぎるので、果たしてこれが適切かも考えねばならない。
とはいえ、トオルのやってる事とこれからやろうとしてる事は、十分に資質を示したものとも考えられる。
二十歳は超えてるが、その年齢でここまで人をまとめ、先を見通してる。
平民や庶民にはない視点である。
それをトモノリは才覚だととらえていた。
(不足無し…………それどころか、逸材かもしれないしな)
一族の中心ならともかく、末端でなら話しをまとめる事も出来るかもしれなかった。
(あの辺りなら釣り合うかな)
頭に適当な人材も浮かんでくる。
上手くやれるかどうかは分からないし、そこまでやる必要があるかも分からない。
だが、手段としてそれを控えておく事にする。
手段は多い方が良い。
(上手く一族に引き込めればいいが)
トオルに、適当な娘をあてがって。
ただ、それはそれで一団に人間を送り込んでおきたいとも思った。
何せトオルの所には、なかなか強力な人材が二人いる。
どういった仲なのかは分からないが、対抗するには接点を増やしておく必要があった。




