レベル122-2 出来なくてもいい、逃げなければ先に繋がるはず
最初の一ヶ月はとにかく何とかなった。
組み分けはあったものの、その後は順調に物事が進んでいっている。
行商人に素材を引き取ってもらい、得られた金銭を渡した時には誰もが感動をしていた。
サトシ達の時もそうだったが、これはやはり何かしらの感慨を呼ぶもののようだった。
出来高がそのまま収入に直結するのも理由かもしれない。
周旋屋から回ってきた作業だと、何をどれくらいやればどれほどの稼ぎになるのかが見えにくい。
それに比べればモンスター退治ははっきりとしている。
倒した数が得られる金銭になるのだから。
だからこそ、はっきりとした差を見る事にもなる。
トオルが率いる者達は、上手くやってる者達に比べて手取りが少なかった。
計算すると、一日あたり一千銅貨ほどの差がある。
やむなきものであるが、それを見てやはり色々思うところはあったようだ。
それでも、
「ま、しょうがないか」
と事態を受け入れてはいた。
諦めにも似た気持ちであろうし、悲嘆もあるだろう。
それでも、この状況に不平や不満を言うような事はなかった。
「とにかく、レベルアップを目指そう」
そういって将来に期待をかけていく。
「ま、今までの仕事に比べれば実入りも多いし」
「ここなら寝床と飯はタダだしな」
その事が彼らに安心を抱かせてるようだった。
早ければ三ヶ月ほどでレベルアップはやってくる。
その事に新人達は期待をしていた。
「概ね上手くいってるみたいだな」
トモノリの言葉に肩をすくめる。
「だましだましって感じですけど」
「まあ、順調にいけてるならそれでいいんじゃないかな」
「だといいんですけどね」
どこでボロが出るか分からないので不安ではある。
「だが、経過は順調なようだし。
これなら開墾に間に合いそうだな」
「ギリギリですけどね」
「そこは頼りにしてるよ」
「ご期待に添えるかどうかは分かりませんから」
念のためにそう言っておく。
変に期待をかけられても困る。
レベル1くらいにはなるだろうが、それではまだ厳しい。
妖ネズミと言えども、楽が出来るようになるのはレベル2あたりから。
それまで油断はできない。
「それに、もっと人数も増やしたいと思ってますし」
「まだ増やすのか?」
「ええ。
また小鬼襲撃みたいな事があったら困りますから。
あと二十人くらい入れて人を育てておかないと」
「それはまた……」
さすがにトモノリも驚く。
トオルの下に四十人近くの人間が集う事になる。
そこまで巨大な冒険者の一団は滅多にない。
傭兵団と言うべき規模になる。
「そうなると、もう部屋を用意できないな」
「そうなんですよね……」
そこがどうしても解消できない問題になってしまう。
「新しく作る事ってできませんか?」
「いや、金が無い。
借りるにしても、借金がまだ残っててな」
裁判で奥方の一族から没収した資産を充てられるならどうにかなる。
だが、それが出て来るまで、あと一年ほどはかかると思われた。
「もう財産の没収はかなり進んでるはずなんだが」
「音沙汰がないですか?」
「人づてに話は聞くが。
はっきりした事は分からん」
そのあたりはお役所仕事と言うべきなのだろうか。
そうそう表に出すわけにもいかない事なのかもしれないが、当事者にはもう少し経過を伝えてもらいたいとは思う。
「あてにしない方がいいでしょうね」
いつ手に入るか分からないものをもとに計画を立てるわけにはいかなかった。
「こっちもあと一年あれば、もう少し手を広げられるんでしょうけど」
その一年の間に人数を増やし、戦力に余裕をもたせておきたかった。
「上手くいかないもんですね」
「まったくだ」
足りないづくしでどうにもならない。
二人はため息を吐くしかなかった。
嘆いていても時間は過ぎていく。
秋が過ぎ、冬がやってきて、年末が近づいてくる。
新人達もレベルアップを迎え、ほとんどの者達がレベル1を獲得した。
倒せるモンスターの数が増大し、稼ぎは確実に増える。
それを見計らって、トオルは全員に提案をした。
「魔術の修行に行きたい奴がいたら言ってくれ。
二人までなら出せる」
稼ぎに余裕がなければ出来ない事だった。
また、途中で抜け出す奴が出るかどうか見極められるまで出来なかった。
魔術を身につけてから抜け出されてはたまらない。
どうしても引き留める事ができなかったらしょうがない。
それでも、長くやっていけそうな者に身につけてもらいたかった。
だから修行に行く者を募るまでここまで時間がかかった。
当初は新人が入った頃に修行に行く者を出そうと思っていたのに。
金を稼ぐ余裕と、今後も続けてくれるだろうという見込み。
それが無ければ魔術の修行への踏ん切りをつける事は出来なかった。
修行に出る者達を送り出すのとほぼ同時に、開拓開墾をする場所への移動も始まっていく。
開墾作業の開始はまだ先だが、予定地における居住場所などは決めておかねばならない。
村の者達はともかく、トオル達は寝起きをする場所から決めないといけない。
それを考えると、年明けそうそうに様々な事を決めておかねばならなかった。
人選もしていく。
当面はトオルを中心とする何人かで現地に入る事になる。
いきなり全員で移動しても、居場所がない。
その人選に頭を使う事になった。
最大でも十人。
サトシをはじめとするレベルの高い人間ばかりにするわけにもいかない。
領主の村で下の者達の面倒を見る者も残しておかねばならなかった。
(サトシとレンは残して……、解体の方もマサルとコウジか?)
それだけいれば新人達のお目付役はどうにかなるとはずだった。
残った者達から開拓地に連れて行く者達を見繕うことになる。
(どうすっかな)
それはそれで面倒で、なかなか考えがまとまらなかった。
とにかく、住む所が欲しかった。
それがあればもう少し人を連れて行ける。
人選で悩む必要もない。
更に人を増やして、人員の育成に励む事も出来る。
それを妨げる要因が、寝起きする場所の有無だった。
(どうにか出来ればなあ)
家とまでいかなくても、小屋一つでも作れれば問題は大分解消出来る。
だが、そのためにどれだけの費用がかかるのか。
単純な構造の小屋であっても、家屋である。
そんなに安いわけがない。
詳しい値段は分からないが、おいそれと買えるとは思わなかった。
そもそも、この世界で家をどうやって建てるのかが分からない。
大工はいるのだろうが、工務店や建築会社といったものがあるのかどうかも分からない。
(まあ、聞くだけ聞いてみるか)
こういう事に詳しそうな人物を思い浮かべ、分かる事だけでも聞いておこうと思った。




