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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その6 たぶん、次への一歩だと思われる何か

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レベル121 成り行きでこうなっただけでも楽しみたいところです

「それで冷やかしか?」

 行商人の表情は渋いものだった。

「仕入れでもしてくれるのかと思ったんだがなあ」

「すんません、持ち合わせがないもんで」

 市場にやってきたトオルは、馴染みの前で手を合わせて頭を下げた。

 休暇というのもなんだが、久しぶりに時間が空いた。

 屋台を巡り、路上芝居でも眺め、面白そうな道具がないかとあちこちに目を向ける。

 馴染みの行商人の所にも当然顔を出し、そこでも何か無いかと物色していった。

「もっとうちで買ってもらいたいんだがなあ」

 半分本気の冗談を言いながら、行商人は顎で商品の方を指す。

「それなりに道具は揃ってると思うんだが」

「良い物があるのはわかってるよ」

 少なくともこの行商人は信用できる人間だった。

 高級品ではないが、使える道具を手頃な値段で扱っている。

 もとよりボッタクリな店などそうは無い。



 基本、商売は信用がないとやっていけない。

 悪評が立てばそこまでだ。

 行商人ならやらかした事がまだ届いてない所まで逃げれば、と思われがちだが、なかなかそうもいかない。

 どこに行っても競争相手はいるし、新規の参入者は古参の者達から締め出しをくらいがちである。

 自由に店を出せる市場であっても、新しくやってきた者の所に足を向ける客は少ない。

 商売で巡る村などでも、信用が出るまでの取引は微々たるものだ。

 商売が安定するまでには時間がかかり、その時間は金では買えない。

 とんでもなくボロ儲けしたのでもないかぎり、信用を捨ててまで余所に行くなど愚の骨頂である。

 善し悪しはともかく、才覚のある者ならそうでもないのだろうが、大半の商人は下手に場所を移ったりはしない。

 まずは常連を作り、拠点となる場所や地域で活動をする。

 馴染みの客というのを作る事が継続的な儲けにつながるからだ。

 この行商人もそんな商売人達の例に漏れず、それなりに良心的に活動を続けている。

 変に値をつり上げようとしないのも好感がもてる。

 値段をしっかり表示してるのもありがたい。

 とはいえ、資本力と伝手の限界なのか、品揃えが豊富というわけでもない。

 市場の一角に構える程度の店では、用意できる在庫にも限りがある。

 それがトオルの購買意欲を満たしきれない要因になっていた。

 それほど欲しいと思える嗜好品や娯楽品があるわけでもないのも大きいが。



「で、今日はどうしたんだ。

 町まで来てるって事は何か用事があるんだろうけど」

「まあ、人を入れようと思ってね。

 その選別に来てるだけ」

「そりゃ景気がいいな」

「そうでもないよ。

 人がいないと始まらないから増やそうってだけだし」

「それでも、うちよりは上手くやってるよ。

 こっちはなかなかねえ」

 自分の店を振り返ってため息を吐く。

 店といっても露店、基本は荷物を積み込んだ馬車で行動。

 従業員も十人くらいだろうか。

 そんな規模だと、トオルの話しが凄いと思えるのかもしれない。

 モンスター相手と商売を一緒に考えるわけにはいかないが。

 土台となる資金力を見れば、トオルより行商人の方が上なのだから。

 それでも、何かと比べてしまうものなのだろう。

「まあ、今後もよろしく。

 村に来てくれると助かるよ」

「ああ、頼むよ。

 素材の仕入れのおかげで、結構上手くやっていけてるからな」

 それを聞いて安心する。

 持ちつ持たれつの関係にはあるようだった。

 トオルと行商人の最大の接点であり繋がりである。

 それがなければ、トオルは客の一人でしかない。

 そうであったとしても、この行商人がトオルを邪険にすることはないだろう。

 ただ、それほど重要な取引相手でないだけで。

 安物だが、モンスター素材を用いた取引相手としてお互い利益を得ている。

 これがあるからこそ、行商人がトオルにそれなりの対応や態度をとってるのは確かだ。

 大事にしたい関係である。

 行商人だけでなくトオルにだって利点のある事なのだから。



「で、必要なものとかはないのか?」

「いつも通りに手入れ道具くらいかな。

 村に戻ったら素材を買い取ってもらいたいけど」

「そっちはよろしく頼むよ。

 何せ、この前までろくろく仕入れも出来なかったし」

「悪いとは思うけど、原因は小鬼だから。

 苦情はそっちにね」

「分かってるって。

 でも、モンスター退治に復帰したなら、それなりに素材もたまってるだろ」

「まあ、ぼちぼちとね」

「妖犬の素材も高く売れるからさ。

 出来るだけ仕入れてくれるとありがたい」

「そっちは暫く手に入れられないと思うよ。

 新人の教育で忙しくなるから」

 行商人の顔に驚き、ついで悲哀なものが浮かんでいく。

「本当に?」

「残念だけど。

 半年くらいは諦めて」

 表情だけでなく、肩も落ちていく。

 それを見てトオルは「ごめん」と手を合わせた。

 お詫びというわけではないが、笛を何個か買っていく。

 ホイッスルのような、小さいものだ。

 連絡用にあると便利だと思っての事でもある。

 他にめぼしいものがない、という最大の理由にはあえて目を向けなかった。


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