レベル119 考えても無駄ならやるしかないんでしょう、おそらくは
(うーん)
悩みが解消されない。
面談をすすめても懸念というか憂慮は増えるだけである。
確かに技術的な部分については全く考慮していない。
必要になる技術がなくてかまわなかった。
それでやっていける。
人間性の部分も、おそらくは問題ない。
仕事をさぼらなければ、勤務態度が真面目であればよい。
特段問題を起こすような性格でなければ。
最低限としてはそれくらい越えてくれていればよい。
そして、周旋屋がまわしてきたという事は、その部分の心配はないと考えてよい。
そこで見抜けなかった部分や、実際に接してみて一緒にやっていけそうかを見極めるのが面談である。
見抜く能力がないのが問題だった。
(どうすっかな)
とりあえず最低限の条件はこなしているようだった。
装備にしても、旅費にしてもそこに文句を言う者はいない。
口だけかも知れないが、全員納得している。
ただ、それをどこまで信じて良いのか分からない。
何より、一緒にやっていけるのかどうかを見極めるのが難しい。
(どうすっかな……)
こんな時にどうやっていけば良いのか悩む。
入社試験でもやらせれば良いのだろうかとも思ってしまう。
だとして、どんな事をやらせるのかも分からないのだが。
(駄目だ、全然まとまらねえ)
トオルの求める作業はモンスター退治である。
それがどこまで出来るか、覚悟がどれほどか分からない。
実際にやった時にどれだけ動けるのか…………はレベルが足りないから期待はしないが。
しかし、一緒にやってる者達とどれだけ上手くやっていけるかは気になる。
結局は、声をかけたり、他の者達の邪魔にならないように動けるかが重要になってくる。
テストするとして、それをどうやって確かめるのか。
妙案など全く浮かんでこない。
(実際にやらせてみるか?)
物騒な考えも浮かんでくる。
遅かれ早かれやるのだから、今やっても問題は無い。
やってもらわねば困る。
しかし、面談から一気にそこまでというのも乱暴すぎるとは思った。
(そこら辺はやり方を教えてからにしたいし)
かと言って、村に連れて行ってから「やっぱり無理です」と言われても困る。
町にて活動してるなら、試しにやってみて、駄目ならやめましょう…………となるのだろうが。
ここにいるのがトオルだけというのがつらい。
率いるのが二人三人程度ならいいのだが。
もともとの希望者に加えて、受付のオッサンが頼んできた者達。
それら全員を率いていうのは、さすがに無理だった。
(サトシとか連れてくるんだったな)
後悔が浮かんでくる。
だが、連れてきたら村での活動に支障が出るのでそうもいかない。
(まあ、悩んでいてもしょうがないか)
考えなしではいけないが、考えこんでも無駄になる。
経験上そんな事が多かったので、今回も気楽に考える事にした。
「オッサーン」
受付に向かいながら、トオルは自分の考えを伝えるよう頼んだ。
「そんじゃ、行ってみようか」
並んだ者達を見渡しながら町の外へと向かう。
装備を身につけたトオルの前には、今回応募してきた希望者達。
全員、武器を身につけている。
それと、借りてきた大八車が二台に、こればかりは購入するしかなかった容器や解体道具、スコップ。
モンスター退治に必要なものが揃っている。
それを見て、集まった希望者達は緊張を顔に浮かべている。
「あの、本当にやるんですか?」
若干青ざめた感じの顔で、希望者の一人が訊ねてくる。
モンスター退治への覚悟はしていたのだろうが、まさかこうなるとは思っていなかったようだ。
トオルにしてもその場の思いつきでやってるのだから当然である。
逃げずに集まるだけ大したものであろう。
そんな彼らに、
「ああ、やるよ」
と真顔で答える。
希望者達は一段と緊張を強めた。
「実際にやってみて、どれだけ出来るか見せてもらう。
悪いけど、俺も他にお前さん達を見極める手段がないんだ」
無茶苦茶な発言である。
希望者達も、顔にそんな言葉を浮かべている。
無言の訴えがトオルに飛んでくる。
それらを悉く無視して希望者達を促す。
「じゃあ出発だ。
急がないと稼ぎがなくなるからな」
そう行って大八車を誰が引っ張るかなどを指示していく。
合計八人。
二つの組に分けた希望者達の一つは、慌てながら動いていく。
全員、動きがぎこちない。
サトシにしろマサルにしろ、いつも一緒にいた者達に比べれば格段に動きが悪い。
経験者と初心者の差をはっきりと目にする。
(俺らも昔はこうだったんだろうなあ……)
もとより非難するつもりはない、むしろ微笑ましく思えてくる。
「ま、落ち着いていこうや」
無理な注文だとは分かっていても、思わずに口にしてしまう。
愛すべき、かつての自分達の姿を見せてくれる彼らが、自分達と同じヘマだけはしないよう願って。
ともあれ、一日だけやってみて、それで様子を見る。
怪我はなるべくしないよう、死ぬのは絶対に避けるよう心がけながら。
かつて足を向けていた妖ネズミの捕獲場所へと歩いていく。




