レベル118 違うんだ、求めてるのはそういう事じゃないんだと伝えたい
面談は一日では出来なかった。
時間が合わない者などもいて、どうしても数日に分ける必要があった。
そこから選別をしていかねばならない。
全体で一週間ほど時間がかかりそうだった。
そこは想定内だったので特に驚きはしない。
だが、人と面談をするという事は想像以上だった。
「うううぅ…………」
面談が終わり広間の机に突っ伏す。
条件を話し、能力を見て、相手と言葉を交わす。
少しでも相手の何かを知ろうと頭と気を使い、おかげで神経が消耗する。
相手の言ってる事から何かを見抜こうとするから余計に。
応募してきた者達が特別問題を抱えてるというわけではない。
だが、大なり小なり自分を良く見せようとしてしまうから面倒だった。
どうしても参加したいなら、そういう事もしてしまうだろう。
意識してやるか、無自覚にやってしまうかの違いはあっても。
それを念頭において話をしていくのだから面倒だった。
(もうちっとばかし本音で喋ってくれればいいのに)
逆の立場だったらトオルとて自分に都合の良い返事をするだろう。
そうは思っていても、変に取り入ろうとする態度をとってもらいたくなかった。
どうしても駄目だと思えば切るのだから。
それは、彼らの熱意や能力とも関係がない。
トオル達とやっていけるかどうかである。
重要なのは、トオルの出した条件を実行出来るかどうかだった。
能力で言えば、全員ほとんど横並びである。
これが選考基準になる事はほとんどない。
せいぜい、戦闘系の技術をレベル1で良いからもっていてくれれば、というところだった。
解体などについては、ほとんど期待していない。
そんな技術をもってる者は滅多にいない。
食料品店などで働いてる経験のある者だったら、解体技術を身につけてるかもしれないが。
それならとっくにどこかに就職してるだろう。
トオル達が求める技術が無いのは覚悟している。
だからこそ取得してる技術やレベルは考慮にいれてない。
にも関わらず、
「俺はこれが出来ます」
「自分ならここまで出来ます」
と言ってくるのだから面倒だった。
実際に言うほどの能力がないのは、渡された資料が示してくれている。
登録証を用いて技術レベルを提示してもらうだけでも良い。
この部分で誇張してものを言っても仕方ないのだ。
それでも、自分の事を印象づけようとするのだから困ってしまった。
かといって、やる気を打ち出してくるのも困りものである。
「頑張ります」
「死ぬ気でやります」
という言葉は必要がない。
実際にどこまでやる気があるのかなんて、やってみるまで分からない。
大言壮語と言ったら酷かもしれないが、そんな台詞を吐く奴が一番信用できない。
実際に、本当にはりきってがんばってくれるかもしれないが、それも程度による。
最初から全力でやってしまえば、後が続かない。
やる気があるのは結構なのだが、まず長続きしてやってもらいたい。
程よく力を抜いてやってもらうのが一番である。
モンスター相手なので気が抜けないのは確かだ。
しかし、これから先続いていく長い仕事である。
毎日全力でがんばり、そして息切れしていっては困る。
だいたいにして、やる気なんてものは、長続きして数日くらいである。
そんなものを持ってこられてもどうしようもない。
あった方が良いが、それは必要な時に出してもらいたい。
今求めているのは、仕事の内容を理解してもらう事である。
危険は可能な限り減らしているが、モンスター相手である。
ちょっとした事で怪我をするし、命を落とす事にもなる。
この先長く続けていくので、根気も必要になる。
気長さというか、図太さというか。
同じ事を毎日繰り返す事になる。
それが苦痛ではどうしようもない。
周りの人間と一緒にやっていくだけの人間性も求められる。
人付き合いが苦手でも、仕事で必要な事をやりとり出来なければどうしようもない。
かといって、お調子者であっても困る。
場の雰囲気を和らげる冗談や、面白い言い回しなどが出来るならありがたいが、それだけしかやらないのでは困る。
装備などを自分で揃えるという事も理解してもらいたい。
それらはトオルの方で用意はしない。
あくまで自分で準備してきてもらいたい。
社員ではなくて職人として登用するのに近い。
消耗品などはともかく、最低限の道具などは自分で持ってきてくれないといけない。
一人一人が事業主というべきかもしれない。
そういう人間が集まって、一つの目的のために行動しているのだ。
つまりは、
『自分で稼ぐ』
という事になっていく。
トオル達が給料を用意して払うのではない。
各自がモンスター退治をして稼がなければならない。
トオルもそうだが、誰も給料を保証はしない。
自分が稼がなければ一切報酬は出ない。
その事を自覚しているかどうか。
どうにも不安である。
(駄目なら断るしかないけど)
たとえやってみようという意欲があっても、そこが分かって無いとどうしようもない。
今日面談した者達にその意気込みというか覚悟があるかどうか。
そこが分からない。
(実際にやってみるまで分からないか)
いっそ、この近くでモンスター退治でもやってみるか、と思ってしまう。
実地試験として。
面談の一日目が終わったが、どうにも不安ばかりが残る。
人集めが一番難しいという事を実感する。




