レベル111 いつも通りの日常に戻ってきた、そのはずなのです
「そんじゃ、今日からいつも通りに」
「おー」
気のない返事が戻ってくる。
休みは一日とったが、それでもいつもの仕事が始まるとなると気がのらない。
今日からまた妖犬退治の仕事だが、サトシ達のやる気は余り高まってない。
トオルも辟易してるからとやかく言えない。
「ま、がんばって日銭を稼ごうや」
そう言うしかなかった。
とはいえ、久しぶりの妖犬退治はそれほど困難と感じる事もなかった。
手間は以前とさして変わってない。
レベルが上がってるわけでもない。
それでも、小鬼退治よりはマシだと思える。
やってきたのを倒すだけ。
頭を使う必要もない。
その分だけ楽が出来る。
「こんなもんだったっけ?」
拍子抜けするような言葉も出てくる。
見方や気持ちが変わるだけでこうも違ってくるものなのかと。
成果が変わるわけでもないが、心理的な負担が減るだけでも違ってくる。
成果についてはレベルが更に上がるのを待つしかない。
(気楽にいくしかないか)
毎日積み重ねていれば必ずレベルは上がる。
あとは時間が経過してくのを待つしかない。
やるべき事をやっていくしかなかった。
そんな中で、ちょっとした変化が訪れる。
トモノリからの相談が来たのは、仕事の再開から一週間ほどした頃だったろうか。
何事かと思ったトオルは、トモノリの考えを聞く。
「田畑の拡張だがな。
これを来年からやりたいと思う」
「はあ」
それは大変良いことだと思った。
「ついては、候補地のモンスターをどうにかしたい。
そうそう毎日見るわけではないが、遭遇したら厄介だ」
「でしょうね」
「悪いが、君達にそれらの始末をしてもらいたい」
「左様ですか」
「ああ。
他に頼める者もいないしね」
「でも、もう兵を抱えてるのだから、それくらいはどうにかなるんじゃ?」
「そう思ってるんだがね。
何せ範囲が広い。
それに、彼らには今ある田畑の方に回ってもらいたい。
そうなると、人手がどうしても必要だ」
「なるほど……。
でも、そんなに広い範囲を開拓するんですか?」
「いずれはな。
最初はそこまで手を広げられんさ。
だが、作業をする者達の安全を考えるとな。
出来るだけ近くにいるモンスターは片付けておきたい」
なるほどと思った。
どこからあらわれるか分からないのがモンスターだ。
作業をしない日はともかく、何かしら行動をしてる時には護衛が必要だろう。
「でも、それなら事前に柵とか堀とかを作っておいたほうが。
いずれ田畑を守るにも必要になるんですし」
「順番としてはそうなるな。
だから、最低でもそれらが出来上がるまでは、開拓の方の守備をしてもらいたい。
やる事はいつも通りにモンスター退治になる」
「はあ、まあ、それは……」
「細かい所はこれからになるが、考えておいてもらえると助かる。
領民にも新しい田畑を手にする機会を与えてやりたいんだ」
上手い言い方だと思った。
断りにくい話しを、特に人情に訴えるような内容を持ち出されては、いいえと言いにくい。
「他にも頼みたい事はまだまだあるが。
とりあえずは開拓の護衛のほうをお願いしたい」
「…………報酬は出るんですか?」
「まあ、そこはお手柔らかに頼みたい」
ちゃっかりした言葉に、トオルは肩を落とした。
(この人も、いい性格になってきたなあ)
そう思いながら。




