表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その5 そりゃまあ冒険者だからこういうのも仕事だけど
127/251

レベル109-2 色々ありましたが、どうにかなりそうです

 ────どうしてこうなったのか?



 群れを率いる小鬼はそう思った。

 最初はそれ程難しい事ではなかったはずだった。

 北から太陽の方向を目指して南下してきた彼らは、さほど抵抗もなくここまでやってきた。

 途中、その他のモンスターとの遭遇と戦闘もあったが、それらも凌ぐ事が出来た。

 動物を狩り、食べられる植物を採取しながらなのでどうしても足が止まる事はあった。

 それでも、概ね順調に進んでくる事が出来た。

 途中で倒れた者達もいた。

 だが、生まれてくる者もいた。

 群れの数は五百のあたりを推移しながら着実に南へと向かっていた。



 人間の集落を見つけたのは嬉しい誤算だった。

 まだ畑の作物は刈り入れる状態ではないようだったが、食べる事が出来る動物がいた。

 それらを強奪した事で、群れは久方ぶりのごちそうにありつく事が出来た。

 機会を見てその村に攻勢をかけ、本格的に潰すつもりでいた。

 ここより北にある人間と彼らの戦線に張り付いてる人間は強い。

 だが、その向こうにいる者達は無力と言って良いほど弱いと伝わっている。

 実際に襲ってみてそれは確かだと思った。

 見張りについていた人間もいるようだったが、そいつらは簡単に倒す事が出来たという。

 ならば、と思った。

 ただ、実行するには準備も必要だった。

 長旅で彼が率いる群れは疲れている。

 幾らかの休息が必要だった。

 しばらくはその場に留まって。



 異変はすぐに起こった。

 村を見つけ、家畜を奪い、留まった場所で狩猟や採取をしていた時だった。

 外に出た者達が帰還しなかった。

 何事かと騒ぎになったので、武装した者達を捜索に出した。

 人数も増やして。

 その分、探索隊の数は減ったが、安全性を優先した。

 強力なモンスターとの遭遇が予想されたからだ。

 しかし、そのうちの一隊がやはり帰還しなかった。



 さすがに外に出るのは危険という事で、狩猟や採取はとりやめとなった。

 しかしそれでは食料が減っていく。

 元々十分とは言えない備蓄しかない。

 五百という数…………その時点では既にそこを割り込んでいたが…………それを保つための食料は莫大なものとなる。

 彼らの手持ちでは、切り詰めても二週間が限界だった。

 対策をどうするかで、群れの幹部達の意見は二つに分かれた。

 一つは、この場を離れて別の場所へ向かおうというもの。

 今の場所に何が潜んでいるか分からない、別のもっと安全な場所を探そうという主張だった。

 もう一つは、すぐに村を襲って収奪をしようというもの。

 どこにあるか分からない安全地帯を探すよりも確実で、しかもそれほど離れてない所に存在する。

 家畜を盗んだ者達の話から考えるに、数もそれほど多くはない。

 襲えば一気に奪い取れる。

 もちろん抵抗はあるだろうし、被害も受けるだろう。

 だが、手に入る物の大きさに比べれば小さなものである。

 そのはずだ。

 …………その二つで分かれた。

 少数と多数という差はあっても。

 群れを率いる者も後者であった。

 倒して奪う…………それが最善の手段と思っていた。



 そんな時に襲撃を受けた。

 夜の事だった。

 すぐに追跡が行われたが、結果は多大な損害となった。

 その夜だけで、二十匹近くの仲間が手傷を負い命を失った。

 呪術師による治療魔術で事なきを得た者もいるが、損害の大きさを覆すには至らなかった。

 ただ、生き残った者達の証言から相手が何者かは分かった。

 人間。

 弱いと思っていた者達によるものであったと。

 それによって、二つの意見の構成比が変わっていった。



 相手に強い者がいる。

 こちらが歯が立たない程の。

 それが小鬼達の意見を覆し始めていった。

 意外な事かもしれないが、それは実際に戦う者達から始まっていった。

 実際に相対せざるえない者達である。

 勝ちたいという願望や、どうにかなるだろうという希望にすがるわけにはいかない。

 現実の中で相対し、偽りのない実像と対峙せねばならない。

 そんな彼らに、夢を語る事はできなかった。

 口にするにしても、実力や状況に基づいたものとなる。

 今の我々ならこうなるだろう、ここまでは出来るだろうという。

 その結果として、バラ色の先行きや、暗雲立ちこめる予想を口にする。

 今回の場合、どう転んでも悪い状況しか想定できない。

 相手が予想以上に強い事、しかも少数でこれだけの損害を受けたのだ。

 周囲の状態を上手く使った結果ではあるが、彼らの実力ではそれらに対抗する事は難しい。

 おまけに敵は神出鬼没だ。

 どこに潜んでるか分からない。

 警戒を強めてもさほど意味があるとも思えない。

 今回の襲撃において、彼らはさほど有利でもない状況にも関わらず小鬼達に大きな損害を与えた。

 このままここにいては危ない────以前よりその言葉が大きく増えた。

 しかし、ここに至って大きな問題も発生していた。

 食料の残りである。



 これから別の場所に行くにしても、そこで群れを保てるほどの食料が得られるか分からない。

 にも関わらず、食料は大きく減っている。

 移動の間に消費する分を考えると、そう簡単にこの場を離れるのは難しい。

 ここが何も無い草原や平原であったなら移動を考えただろう。

 だが、目の前には食料を蓄えた村がある。

 先々の事を考えれば、それらは手に入れておきたい物だった。

 ここから立ち去るにしても。



 意見がまとまらないまま時間が経過する。

 その日々が食料事情を更に厳しいものとしていった。

 皮肉な事に、それが村への侵攻を決意させた。

 その時点から別の場所に移動しても、群れを維持するだけの食料を手に入れられるかどうか。

 確実に、食料を口に入れられない者が出てくる。

 だからこそ、村にある物を手にいれねばならなくなっていた。

 心ならずも人数が減ってるので消費の速度は幾分抑えられていたが。

 ただ、それが働き手の中心だった男だったので、入手については実に心許なくなっている。



 働き手の減少は同時に戦力も減退でもある。

 これで戦いをしかけようというのも無謀な事だった。

 だが、他に道がない事と、彼らにとっての最強戦力がまだ残っている。

 群れを率いる小鬼の親衛隊ともいうべき者達は温存されている。

 それらと、群れにいる他の者達が一斉に襲いかかればどうにかなると思われた。



 緊張しながらの移動はどうしても遅くなる。

 草をかきわけるのもそうだが、周りへの警戒を続けねばならない。

 まして敵地に向かっているのだ。

 どこに何が潜んでいるのか注意せねばならない。

 歩みは自然と遅くなった。

 女子供の存在も大きい。

 さすがに戦闘に用いる事はできないが、それらを置いていくわけにもいかなかった。

 群れの今後を担う者達である。

 村を襲って獲物を手に入れたら、真っ先に彼らに施しを与えてやらねばならなかった。



 予想通りではあるが、襲撃もあった。

 早朝と夜中に。

 どちらも退ける事は出来たが、大事な人手を更に失う事となった。

 今度は呪術師すら出張る事となった。

 そうせざるをえないほど逼迫していた。

 相手に魔術師がいるから、対抗上そうせざるをえない。

 何とか撃退は出来たが、追い打ちはかけられなかった。

 追跡しようと思えば出来ただろうが、被害も出る。

 以前、夜中に襲撃を受けた時の事を繰り返すつもりはない。

 向こうもすぐに逃げていったので、それ以上の追跡はしなかった。

 どちらかというと、出来なかったというべきであるが。

 何せ人手がない。

 以前(というほど過去でもない)であれば、数にまかせて追っていっただろう。

 それが出来ないほど人数が減っていた。

 残ってる者の大半が女子供であってはどうしようもない。



 それでも、あと少しで人間の村という所にまでたどり着いた。

 これで必要な食料が手に入る。

 もしかしたら、便利な道具もあるかもしれない。

 …………そう思っていた。



 村に到着するずっと前に、人間達があらわれるまでは。



 どこから集まったのか、かなりの数だった。

 見て分かるくらい武装もととのっている者もいる。

 大半が寄せ集めみたいな装備であったが。

 それでも、数が多い。

 何十どころか何百はいるのではないかと思えるほどに。

 それらが一斉に襲いかかってきた。

 最初は矢や石が飛んできた。

 様々な魔術も襲ってきた。

 そして、戦士達が切り込んできた。

 既に男手を失っていた小鬼達は、簡単に蹂躙されていった。

 手慣れた動きから、先頭になって突っ込んできた連中が戦いに慣れてるのが伺える。

 どうしてこんな連中がいるのか?

 小鬼達には全く分からなかった。

 彼らの常識で言えば、最前線の向こう側にいる人間は、簡単に倒せるようなものばかりであったはず。

 特に村などにいるような者は、それほど強くもない。

 もちろん一人一人は小鬼よりは頑丈である。

 しかし、それでも数においては小鬼達の方が上回る。

 それで押し切ればどうとでもなるのが人間であった。

 希な例外を除けば。

 小鬼とて常識に当てはまらない存在がいる事くらいは知っている。

 馬車で移動をしてる最中の一行などがそれである。

 大体においてそれなりに戦える者がいるので、奇襲や数に差がなければ襲わない事にしていた。

 他にも幾つか例があるが、それでもたいていの場合は小鬼達でどうにかなるような事が多い。

 なのに。



 ────どうしてこうなったのか?



 目の前で起こってる出来事は、小鬼を率いてる者の予想や常識を外れていた。

 目の前の人間はとてつもなく強力だった。

 これまで何度も襲ってきていた連中も。

 それでも村に出ればどうにかなるとは思っていた。

 数において優勢のはずだったから。

 なのに、村の方向から来た者達は、小鬼達とさして変わらない人数のようだった。

 最初の接触において、小鬼達の運命は決まったようなものだった。



 そして今。

 目の前に敵が迫っている。

 盾を構え、刀を手にした男が。

 そいつが群れをこうまで追い詰めた元凶である事を、群れを率いる小鬼は知らない。

 ただ、とてつもなく危険な何かだけは感じていた。

 続きを19:00に投稿予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


_____________________

 ファンティアへのリンクはこちら↓


【よぎそーとのネグラ 】
https://fantia.jp/posts/2691457


 投げ銭・チップを弾んでくれるとありがたい。
登録が必要なので、手間だとは思うが。

これまでの活動へ。
これからの執筆のために。

お話も少しだけ置いてある。
手にとってもらえるとありがたい。


_____________________



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ