レベル108-1 もう策をどうこうする段階でも無いようです
後退はいつ終わるともなく続いていく。
草むらの中に身を隠し…………というわけにはいかないので、どうしてもやり方が単調になってしまう。
それに相手をおびき寄せるためには、姿を見せてなくてはいけない。
こちらの動きを探知する手段や魔術を持ってるかもしれなかったが。
そうであるなら、さっさと逃げ出せば良かったが、確証がもてない部分である。
やむなく相手に見える限界ギリギリをなんとか狙って移動していく事になる。
おかげで誘い込みたい場所まで連れていけそうであった。
…………はずなのだが。
「追ってこない?」
途中でその事に気づいた。
距離が開いていた事もあって、いつしか姿が見えにくくなっていた。
そのうち、本当に姿が見えなくなっていた。
横の草むらに潜んでいるのか、とも思ったが、その気配もない。
「兄貴、これって……」
警戒を解かないサトシの言葉に考える。
追跡を断念したのか、姿を隠して接近してるのか。
もしかしたら本当に帰還したかもしれないが、まだ気を抜けなかった。
「…………もうちょっと行ってから、草の中に入ろう。
そこで様子を見る」
そう言って仲間を先に行かせる。
適当な場所に陣取るよう言って。
最後に残るは危険だったが、相手の出方も見ておきたかった。
他の者のレベルを考えれば、適任がいなかったからでもある。
横の草むらに入って身を隠しながらトオルは、小鬼があらわれないかと周囲に注意をしていった。
小鬼の姿はいっこうにあらわれない。
草の中を移動してるかもしれないが、かき分けて進む音も聞こえない。
五分、十分と待っても気配も感じられない。
(本当に帰ったのか?)
だんだんとそう思えるようになってくる。
それでも、あと五分、もう五分、と様子を伺っていく。
単に遅れてるだけかもしれない。
何らかの方法で周囲に身を潜めてるだけかもしれない。
呪術師の魔術で追跡をしているのかもしれない。
どんな手段を用いてるのか分からないので、警戒をゆるめるわけにはいかなかった。
そのまま三十分ほどその場に留まる。
それでも何の気配も感じない。
(…………本当にいないのか?)
頭を上げて周囲を伺う。
それらしき姿は見えない。
さすがにこれ以上警戒しても意味はないと思えた。
草むらから出て、拠点の方向に進んでいく。
サトシ達と合流せねばならない。
そう考えたところで愕然とする。
目印になるようなものもない中で、どうやって合流すればよいのか。
その事を失念していた。
(やべえ……)
それでも足を進めていく。
トオルが潜んでいた近くにいるわけはない。
進んでいかねば、合流を果たす事はできない。
体だけでなく気分も重くなっていった。
幸いな事にその懸念は払拭された。
踏み固められた道の近くで待機してたアツシが、呼び止めてくれた事で。
「こっちだよ」
そう言って他の仲間がいる所まで連れていってもらう。
座り込んでた者達が顔を上げた。
「お待たせ」
その声に反応する者はいない。
トオルも、状況を軽く説明する。
「連中、もしかしたら帰ったのかも。
あれから全然姿を見ない」
その言葉に全員安堵をおぼえたようだった。
「けど、もしかしたら姿を隠して近くにいるかも。
魔術とか使われてたら気づけないだろうし」
言われてサツキが顔をあげ、すぐに意識を集中していく。
程なくそれも終わり、その結果を告げていった。
「魔術の気配は感じません。
もの凄く強力なものを使ってたらどうなるか分かりませんけど」
「周りに誰かがいるってことも無いと思う。
こんだけ草が生えてれば、音がするし」
レンも続いて声をあげる。
とりあえず今は安全なようだった。
「まあ、それなら大丈夫か」
油断はしないが、とりあえず少しは気持ちをゆるめても良さそうだった。
ただ、それは当初の目的を果たせなかった事を意味している。
────おびき寄せは失敗に終わった。
続きを13:00に投稿予定。




