レベル105 無駄口が多くなるのはそれが必要な証拠かもしれません
踏み固められた雑草の上を走りながら、トオル達は逃げる。
その間にトオルは盾を背中に背負った。
後ろから飛んでくるかもしれない攻撃に備えるために。
気休めにもならないだろうが、何もしないよりは効果があると信じながら。
少なくとも、左腕に持ってるよりは走りやすくなる。
それだけでも十分な効果を得ることが出来る。
今のトオル達に必要なのは、確実に逃げる事なのだから。
「兄貴」
「なんだ?」
走りながらサトシが声をあげる。
「後ろから、結構足音が聞こえるよ」
「そうだな」
正直、答えるのも結構辛い。
モンスター退治を続けてきて、体力はそれなりについたが。
「こりゃ、かなりヤバイんじゃないかな」
「当たり前だ」
息が切れそうになるが、それでも一応返事はしていく。
前世の、中年のオッサンの頃に比べれば、格段に余裕がある。
それが実感できて嬉しい。
「これ、本当に、大丈夫なの?」
「わからん」
「わからん、って」
「どうなるかなんて、分かるか」
嘘は言ってない。
だが、正直が人を勇気づけるわけでもない。
「何匹くらい追いかけてくるかわからんけど、さすがに全部の相手は無理だ」
「じゃあ、どうすんの」
「どうにかする。
それだけだ」
呆れるくらいに場当たり的である。
一緒に走ってるアツシも呆れる。
「最悪だよ、それって」
「いつもの事だ。
モンスター相手で、良かったことなんて一度もない」
「じゃあなんでこんな事やってんすか」
「素材を換金した時の喜びを忘れられないからだ」
結局、全ては金である。
「皆で、一生懸命、稼ごう」
こんな状況であるが、本気で言っている。
金が全てじゃない…………なんて幻想は既に捨てている。
世の中は金だった。
金が有れば何でも買える。
値段がついてる物ならば。
確かに金は全てではないかもしれないが、貴重で重要な要素なのは変わらない。
そんな金を、大事しないなんてありえなかった。
「でも、小鬼共をどうにかしないとマズくね?」
サトシがなかなかに良い質問をしてくる。
「小鬼からの素材はほとんど回収出来てないし」
アツシも良いところをついてくる。
「まあ、そんな時もある」
否定できない事実なので、素直に認める。
「今回の儲けはほとんど無いだろう。
でも、トモノリ様が用意してくれる寝床とメシがあれば生きていける」
「そりゃそうだろうけどさ」
「儲けがないってつらいよ」
「確かにな。
けどな、儲けが無くても生きていけるってのは大事だ」
その言葉には、妙に実感がこもっていた。
前世において実際に起こった事なので当然だ。
しかし、そんな事を知らない二人はトオルの言葉に、耳だけでなく顔を向けた。
「それだけあれば生きていける。稼ぎを使わないでいられる」
「…………」
「…………」
「小鬼退治はな、そんな生活を、守るためのものだ」
「…………」
「…………」
「稼ぎがないのは確かだけど」
「…………うん」
「…………まあ」
「でも、生きてく場所を確保するためのもんだ。
気合い入れていけ」
「…………」
「…………」
何と答えてよいか分からず、二人は困るやら考えるやらの複雑な顔をしていった。
馬鹿な事を言いながら進んでいく。
馬鹿な事を言ってなければ気が保ちそうもない。
三人のやりとりは、そんな切羽詰まった想いがなさしめていた。
人間、追い込まれると無駄口を叩きたくなる事もある。
今という悲惨な状況から逃げるために。
三人の場合、実際に逃げてる最中でもあったので、なおの事だろう。
そんな三人に、背後から矢や石が投げられる。
ようやく小鬼達も本気になってきたようだった。
「左右に動きながら走れ!」
攻撃が当たらないように、ジグザグに動き始める。
矢にしても石にしても、基本的には一直線に飛ぶ。
まっすぐに動いてるものならともかく、左右に揺れてるものには当て難い。
当たるときには当たるだろうが、少しでも生存率をあげるために、三人は必死になって動いていった。
とにかくサツキとの合流地点を目指す。
そこまで進めば、魔術と投石の援護が得られる。
二人がいるはずの場所をただ目指した。
それがどのあたりかは分からないが。
事前の取り決めだと、小鬼の群れから、だいたい一百メートルくらいの所と指定していた。
正確に計れるわけもないから、だいたいそれ位の場所となるが。
あやふやなその位置を目指して必死になって走った。
そんな三人の前で、視界が急に真っ暗になった。
「なんだ?」
「えっ」
サトシとアツシが驚く。
だが、トオルはそれが何であるかを察して二人に、
「そのまま走れ。
中を突っ切るぞ」
と叫んだ。
急にあらわれた暗がりに突入していく。
それを見た二人も、躊躇いながらであったがトオルに続いた。




