レベル104 狙い通りに持ち込んでいきたいところです
盾を持つアツシを先頭に、そのすぐ後ろをサトシ。
二人から数メートルほど距離をおいてトオルが進んでいく。
二十メートルという距離を十メートルほどに縮め、目に付く小鬼に矢を放っていく。
矢を受けた小鬼がうずくまり、叫び声をあげる。
いつもであれば、そこで周囲の小鬼が集まってきた事だろう。
だが、随所随所で視界を遮る闇によって、声の発生源ははっきりとしない。
それが恐怖や混乱となり群れのそこかしこに伝播していく。
騒ぐ小鬼達にはアツシとサトシが近づき、次々に片付けていく。
五匹ほどの小鬼は、それで倒せた。
この頃になると、様子を見に来た小鬼もあらわれてくる。
それらにトオルは矢を放っていく。
サトシとアツシの近くにあらわれたのは二人に任せて。
倒した数は十匹に届いていく。
さすがに危険を感じたのか、それ以上はあらわれない。
闇の壁の向こうで様子を伺ってるのかもしれなかった。
「兄貴」
サトシが声をかけてくる。
これからどうするかを確かめたいのだろう。
悩ましい所だった。
今までだったらここで切り上げてもよかった。
敵の数を少しでも削り、確実に帰還出来れば良かった。
だが今回はそこで止まってしまうわけにはいかない。
出来れば追跡してきてもらわないと困る。
「もうちょっと頑張るぞ」
そう言ってトオルは群れの中へと向かっていく。
サトシとアツシもその後ろに続く。
中と言っても本当に中心の方まで入っていくわけではない。
外周を伝って進み、深くは踏み込まないようにしていく。
目隠しを兼ねた闇を迂回し、小鬼がいないか確かめつつ。
襲撃してるとはいえ、有利というわけではない。
レベルなどの能力が(おそらくではあるが)小鬼達を上回っていること。
常に先手をとり、相手に反撃する余裕を与えてないこと。
サツキが生み出した闇によって、相手を分断できてること。
それらが重なって、一時的に、部分的に有利になりえてるというだけである。
適地のど真ん中に突っ込んでいって、敵の中枢を叩く────そんな漫画やアニメなどの創作物みたいな事が出来るわけがない。
なるべく中には入らないで、見つけた小鬼を叩いていく。
そうやって相手の敵愾心を煽れればよい。
また、逃げ出しやすいように、群れの外周辺りを巡るだけ。
それも、サツキとレンのいる方向の近くで。
闇が存在する間はそれに隠れながらやっていく。
効果の続く時間は長いのでそれはさほど気にはならない。
…………そのはずの闇が、突如消えていった。
「兄貴……!」
「ああ」
何が起こってるのかをすぐに察したトオルは、闇の消えていった方向に目を向ける。
予想通り、目立つ格好をした呪術師がいた。
そいつはトオル達の姿をみとめると、
「だこそあ!」
叫んで杖の先端を向けた。
魔術を用いたというわけではないだろうが、反射的にトオルとアツシは盾をかざした。
警戒したのは魔術だけではない。
呪術師が引きつけれてきたとおぼしき、十匹ほどの武装した小鬼の姿もある。
槍や剣に、盾と鎧らしき物。
それらを身につけた、小鬼の中では精鋭と思える者達。
更にそれら以外にも、棍棒を持った雑兵と言えるような連中が十匹だか二十匹だかいる。
それらが呪術師の言葉に反応してか、一気に走り出す。
トオル達に向かった。
「逃げるぞ!」
言いながら矢を放つ。
先頭を走る一匹に向けたものだが、外れる。
かわりに、その後ろにいた別の一匹に当たった。
倒すにはいたらなかったようだが、とりあえず傷を負わせる事はできた。
弓を肩にかけてトオルは走りだす。
既にサトシとアツシは後ろに下がっている。
二人の後ろを追いながら、トオルも走り出していく。




