レベル102 とにかく少しでも有利にするために頑張ってみます
「じゃあ、やるぞ」
最後の確認として全員に声をかける。
拠点にいる全員が緊張した顔をしていた。
それでも反対の声は出てこない。
それを確かめてトオルは、集めた薪に火をつけた。
それが煙になって空に上がっていく。
「布を」
解体組の二人が、火の上に布をひろげる。
そこに煙がためられてから、布をひるがえす。
たまった煙が狼煙となって空に上がっていった。
日取りを考え、行動を考えていく。
村への伝令が到着し、準備に入るまでの時間。
小鬼の群れの移動する早さ。
群れへの偵察も行い、どの程度進んでるかも実際に確かめる。
その結果として、群れの移動が始まって四日目にそれを実行した。
狼煙を上げる────
元々は、トオル達が攻撃を受けてる事を報せるための手段だった。
やれば小鬼達にも見つかるから、使いどころが難しかった。
しかし、相手を引きつけるとなれば話は別である。
どれほど効果が期待出来るか分からないが、トオル達の居場所を伝える事は出来るはずだった。
もちろんこれだけで終わらせるわけではない。
「行くぞ、みんな」
サトシ、レン、アツシ、サツキに声をかける。
狼煙だけだと小鬼が気づくかどうかは分からない。
こちらに引きずり込むのが目的だから、そこを確実にしておきたかった。
その為に、小鬼達にちょっかいをかけにいく事にした。
解体組は留守番になる。
彼らは彼らで、狼煙を続け、迎撃の準備をする事にもなるので暇というわけではない。
こちらに引きつけるのが目的なので、事が上手くいったらこいつらも危険になる。
そうせざるえないのだが。
一応準備はしてある。
ろくろく戦闘技術のない解体組だが、それでもどうにか出来るよう考えはした。
そのための道具もある。
解体組がそれらを上手く用いられるよう、作戦が上手くいくよう願うしかない。
森を出て小鬼達の後を追う。
普段なら草が足を止めるのだが、今回はその心配がほとんどない。
大規模な小鬼達の集団が通った後は、草も踏みつけられ大分歩きやすくなっている。
相手の移動速度も考えれば、今日中に追いつけるかもしれなかった。
トオルを先頭に五人はその道を進んでいく。
やる事は今まで通りである。
小鬼達の群れに奇襲をかけて、少しでも数を減らす。
あるいは、狼煙に気づいて出て来た連中を迎撃する。
森の方まで引きずりこむのが一番である。
さすがにそこまで出来るとは思っていなかったが。
それでも、村に向かう小鬼達を更に減らせれば良かった。
その分被害が減る。
ただ、小鬼の呪術師────トオルは相手の魔術師を外見の印象からそう呼んでいる────の存在が厄介である。
懸念材料はそれだけではない。
今回あらわれたのは呪術師だけである。
しかし、小鬼の中で手練れと言えるのはそれだけだとは限らない。
もっと腕の立つ戦士がいるかもしれない。
作戦を考える軍師や参謀がいるかもしれない。
そういった者達がいたら、おそらく事ははるかに難しくなる。
損害も、怪我だけでは終わらないかもしれない。
相手に手傷を負わせるよりも、自分らが生き残るのがせいぜいとなってしまうかもしれなかった。
(無理は出来ないな)
今までもそうだったように、今回も無理はしない事にした。
もっとも、小鬼に対しては結構な無茶をしまくってはいるが。
それでも、トオル達の能力を、培ってきたレベルを考えれば十分に安全を確保した行動ではある。
今までは。
これからの行動がそうであるかは、まだ誰にも分からない事だった。




