レベル99 そういうのもいるとは思ってましたが、本当に出会うとどうしたら良いのか分からない
ゆっくり慎重に接近をしていく。
草をかき分けて進み、群れの近くに。
陽は上ってきているが、まだ薄暗い空の下、群れの周囲に立ってる小鬼が見える。
歩哨であろうそいつらからは、半分寝ぼけている仕草が見てとれた。
時折頭をふり、目を擦ってる。
(人間じゃあるまいに)
人間型のモンスターであるが、そこまで人間ぽい仕草をしないでも良いと思った。
疲れてるようなので、それは非常にありがたいが。
振り返ったトオルは、自分の後ろにいつもの仲間がいるのを確かめ、頷く。
サツキがその場で杖を構え、意識を集中しはじめた。
小鬼達の群れの中に闇が拡がっていく。
視界を妨げるそれは、十数メートル四方の空間を覆い、視界を妨げた。
突然の事に、起きていた小鬼達も慌てていく。
そうしてる間にも、闇は更に増えていく。
何事かと思って回りを見渡す歩哨の小鬼達。
弓を構えたトオルは、それらに狙いをつけていった。
作戦と呼ぶのもおこがましい策だった。
接近して、魔術で作った闇で視界を妨げ、その間に各個撃破をしていく。
発生させた闇には、眠りなどの特殊な効果はない。
ただ、視界を妨げるだけの暗がりである。
利点といえば、それなりに広い範囲に展開出来る事、術者の消費が少ない事、それでいてそれなりに長く続く事だろうか。
それをトオルは敵の分断に用いる事にした。
見えないだけで移動を妨げる事は無いが、視界の効かない中でならば立ち往生するだろう。
そこに障害物があれば、衝突などの事故も発生しやすくなる。
また、視界を遮る事で、どこで何が起こってるのかを見えなくする事が出来る。
トオルとしてはそれだけで十分だった。
物理的に何が出来るわけでもないが、とりあえず視界を遮る事が出来ればそれでよい。
何が起こってるか分からないという状態に相手を落とし込めればよかった。
そうやって分断した最初の小鬼を倒していく。
弓で射た相手は、胸にそれ受けてよたつく。
レンも投石器で攻撃をする。
怯んだところにサトシとアツシが突撃し、歩哨をしてた小鬼達を倒していく。
奇襲の第一段階はとりあえず成功してくれた。
「行くぞ」
倒した小鬼に目もくれず、すぐに移動をしていく。
出来るだけ多くの敵を倒して、群れを混乱させる。
そのためには、一カ所に留まってるわけにはいかない。
闇を迂回する形で群れの縁をたどり、まだ手つかずの小鬼達を見つけていく。
見つけたら適当に闇を発生させて分断する。
それから一気に片付けていく。
奇襲の成功により、すぐに五匹十匹と小鬼を倒していけた。
思ったよりも上手くいっている。
ただ、闇のおかげでトオルの方も全体を見渡し難くなっている。
それが全体の動きを把握出来なくせていた。
予想はしていたが、実際にやってみると、これが思いの外動きを遮ってしまう。
どこに何があるのかが分からないと、その次の動きを決めづらい。
分かっていた事なので、それはやむをえないと割り切ってはいる。
襲撃も、頃合いを見計らって撤退するつもりだった。
その目算が狂う。
「え……?」
最初に気づいたのはサツキだった。
魔術師として培ってきた技術がそれを伝えてくる。
「これ…………」
すぐさま危険を察知し、トオルに声をかける。
「トオルさん、大変です」
「どうした?」
振り返るトオルに、
「魔術が使われてます。
群れの方からです!」
感じた事をそのまま伝える。
それを聞いてトオルは、すぐに振り向いた。
驚き、頭が真っ白になってるのが分かった。
それでもすぐに立ち直り、
「逃げるぞ!」
と決めたのはさすがだろう。
だが、そう言ったのとほぼ同時に、サツキの作った闇が消えていく。
効果時間はまだ終わってない。
考えられる事は一つだった。
「消されてます、魔術が」
魔術への対抗手段として、魔術によって生み出された効果を打ち消す解呪というものがある。
おそらくはそれが使われたのだろう。
先ほど感じた魔術を使う気配はこれだったのかもしれない。
トオルに言われて走り出すサツキは、背後から感じる魔術の気配に背筋をふるわせた。
続きを13:00に公開します。




