レベル96 さすがにこのままという事はなかったようです
「何やってんだ?」
翌朝、いつも通りに監視にやってきたトオルの第一声である。
喧噪というわけではないようだが、小鬼達の群れはなにやら騒々しかった。
具体的に何をやってるのかは分からないが、起居をしてるその場所の中で動き回っている。
手に何かを持ったり、荷物をまとめていたり。
何かがおかしい…………すぐにそう思った。
違和感を感じた。
何に、という自分への疑問は、小鬼達の中にみとめられるいくつかの姿ですぐに解消した。
「サトシ…………」
「なに?」
「急いで拠点に戻れ。
それと、村にも報せを出せ。
────小鬼が動くぞ」
サトシの顔が瞬時に青くなった。
他の者達も。
「レン、悪いけどここで一緒に監視を続けてくれ。
他の皆は、拠点で待機。
戦闘になるかもしれないから、用意はしておけ」
はっきりとした言葉である。
それを聞いてサトシ達はすぐに動き出した。
再び群れに目を戻したトオルは、小鬼達の姿を見渡す。
遠目ではっきりとは分からないが、今までとは出で立ちが違った。
「ねえ、あれって」
「ああ、間違いないと思う」
レンもそれに気づいたようだった。
走り回る小鬼達の多くは、体に何かを巻き付けていた。
手にも、何かしら道具を握っている。
粗末な造りの棍棒がほとんどだが、希にさび付いた剣や槍なども目にする。
体にまとっているのも、先日見た鎧もどきだろう。
明らかに武装をしている。
それもかなりの数が。
外に出る一部が、というわけではない。
「やる気なのかな」
レンが不安そうな声をあげた。
質問するような声だったが、その実誰かに答えを求めてのものではない。
目にしたものが嘘であると誰かに言ってもらいたい…………そんな調子の声だった。
「分からん。
けど、そうでもなきゃあんな格好しないだろ」
「だよね」
言わずもがなであろう。
信じたくはないが、そうとしか言えない。
「あれが…………村に行ったらどうなるのかな」
「そりゃあ…………」
決まり切った事を聞いてくるレンに、素直な考えを伝えようとする。
その言葉が喉に詰まった。
他に考えようがないくらいはっきりしてる事態である。
だから口にするのを躊躇ってしまう。
「トオル……?」
不審そうに訊ねてくる声にも応えられない。
身近で起こるであろう出来事として、それはあまりにも最悪だった。
だが。
「決まってるだろ……」
「……トオル?」
「あんなのが来たら……」
言葉が再び止まった。
やはり言いよどむ。
それでも、何とか喉から絞り出した。
「……戦争だ」
隣にいるレンの空気が硬直するのを感じた。
これから仲良くなるための挨拶をしに行くのに武装をする者がいるだろうか?
いるとしたらそれは、恫喝を挨拶と言い換えるヤクザの類であろう。
小鬼達の方はそれよりはもっと素直で、だからこそ質が悪い。
こんな村の近くに陣取(あるいは居住して?)ってる時点で圧力となっている。
それでも、お互い接点がなければ問題はさほど大きくはならなかったかもしれない。
だが、連中は村の家畜に手を出した。
小鬼からすれば、生き残るために必要な事だったのかもしれない。
しかし、村からすれば、貴重な財産を奪われた事にしかならない。
しかも家畜は、単なる物ではない。
確かに、労働力として用いたり、食肉として食べ、革などを生活用具として用いはする。
それでも、生きてる動物だ。
世話をすれば情もわく。
何と無しに仲良くなる事もある。
欺瞞や偽善かもしれないが、世話をしていくうちにそれなりに気遣うようにもなる。
オモチャですら愛着を抱く事もある。
生きてる動物ならなおさらだ。
それを奪われれば、感情的にゆるせるものではなくなる。
家族とまではいかなくても、友人知人を一方的に奪われるようなものだ。
村人からすれば、許しがたい暴挙である。
もとより、人とモンスターである。
わかり合う事は無いだろう。
そこに、物理的かつ精神的な損害が加わった。
それを与えた者達と、手を取り合う事など出来るわけがない。
村と小鬼との対立は、避ける事はできないものとなっている。
小鬼がどう思い、何を考えてるのかは分からない。
だが、いかなる理由があろうとも村を襲ったのは確かだ。
おそらく、彼らからしても村は、そこに住んでいる人は相容れない存在なのだろう。
少なくとも、交渉より強奪を先に選ぶ対象ではあるようだ。
そんな者達とどうやって仲良く出来るのか?
相対する両者が接してしまったのだ。
争う以外の道はない。
次は9:00に公開します。




