レベル94 慢心なのか自信なのか悩ましいものです
追跡している小鬼の一匹が頭をのけぞらせて倒れる。
続いてもう一匹。
更にもう一匹。
頭を、体を打たれて倒れる小鬼は五匹を数えた。
「こっち!」
叫び声のする方から、石が飛ぶ。
先に離脱していたレンが、小走りに逃げてくるトオルの援護をしている。
無言でそちらへと向かうトオルは、その手前二メートルほどの所で足を止めた。
「悪い、待たせた?」
「待ちくたびれたよ」
「ごめんごめん。
結構大変だったんで」
「それは後で聞く。
それじゃ、ここはお願いね」
「はいはい」
返事の最中に草を踏んでいく音が聞こえてきた。
援護が終わってこの場から離脱していったのだろう。
そうやってある程度下がった所まで行って待機し、逃げてきたトオルを援護する。
トオルもそこまで行って敵を食い止め、ある程度の所で逃げていく。
援護を交互に繰り返す事で生還率を高める。
上手くやれるか分からなかったが、とりあえず今は成功している。
次も上手くやらないと、と思いながらトオルは小鬼達に目を向けた。
レンのおかげで敵の進軍を遅らせる事が出来た。
それがどの程度有利に働くかは分からない。
だが、ここであと何匹か倒す事が出来れば、今後更に有利になっていくだろう。
それでもまだ小鬼は数多くいる。
ちょっとやそっとの損害ではびくともしないかもしれない。
(まあ、やらないよりはマシだ)
無力感に陥りそうになる考えを、そうやって一蹴していく。
数が減れば、確実に敵の戦力は減る。
たった一匹であっても、それがいなければ死なずに済む者が増える。
敵も、損害を考えるようになる。
人手が足りなくて困っていたトオルだからこそ、一人のありがたみも分かる。
小鬼達もそれは同じだと思えた。
…………それを理解する能力があるかは分からなかったが。
(そればかりはどうにもならんか)
そこは相手の問題である。
トオル達がどうこうできる事ではない。
なので出来る事をこれから少しはやろうと思った。
迫ってくる小鬼達は、今まで以上に慎重になっていた。
一定の所までは接近してきたが、そこから進もうとしない。
トオルが引っかき回したのと、レンの援護射撃で色々警戒してるのかもしれない。
ありがたい事だった。
慎重な敵というのはやりにくいものだが、そうやって動きを止めてくれるのは好都合である。
とりあえずレンが後ろに逃げる時間は稼げる。
トオルも、息をととのえる事が出来る。
それでも、さすがに十匹以上いる小鬼を相手にするのはつらい。
どうにかして抜け出さねばいずれは捕まる。
前後左右ありとあらゆる方向から仕掛けられたら避けようがない。
まとわりつかれて腕や足をおさえられたら動く事もできない。
そうなる前に、突破しなければやられてしまう。
背中の盾を腕にとって、トオルは小鬼へと向かっていった。
実際にやりあった手応えから、小鬼との間にある力量差は感じ取っていた。
持って生まれた身体能力や知的・心理的な善し悪しなどの差だけではない。
生まれてから培うことになる技術などの研鑽。
その部分においても、小鬼の大半はそれほど秀でてるわけではない。
少なくともトオルが今まで相手にしてきた小鬼は、それほど戦闘に慣れてるわけではなかった。
多少なりとも武装した連中ですら、さほど手間取る事無く倒す事が出来ている。
その差が、トオルに大胆な行動を選択させていた。




