レベル92 そんなに頑張らなくてもいいじゃないと敵に言いたくもなります
気配を感じながら草の中を進む。
右に左に、時に来た道を戻るように。
そうしながら、遭遇する小鬼を倒し、道を開いていく。
何匹倒しただろうか。
(五匹…………六匹かな)
何となくおぼえてる小鬼達の最後の姿を数えていく。
草の間に見えた姿に、矢を撃ち込んだ。
迫ってくる足音を、立ち止まって待った事もあった。
こちらから飛びついて、組み合いながら刺したりもした。
潜伏と強襲を繰り返し、どうにか難を逃れている。
それでもまだトオルはその場から逃げ切れずにいた。
確実に包囲は形をなさなくなってはいた。
それでも、段々と間隔が狭まっているのも感じられた。
時間が経つごとに、小鬼との遭遇間隔が狭まっている。
それだけ周りに小鬼が多くなっているのだろう。
ゆっくりとであるが群れから離れているはずなのに、周りは小鬼だらけな気がする。
それが気のせいであれば良いのだが、どうもそうじゃないように思えて仕方ない。
小鬼からすれば、群れまでやってきて攻撃をしてきた連中である。
見逃すわけにはいかないし、捕まえて報復もせねば気がすまないだろう。
彼らの考えや心理傾向がどういったものかは分からない。
ただ、人間と似たような部分があるなら、そういった方向に動いてもおかしくはない。
だからこそ逃げ切らねばならなかった。
捕まれば命はない。
それだけで済めばよいが、仲間の敵と拷問にかけてくるかもしれない。
死ぬにしてもそれだけはごめんだった。
どうせなら、楽に死にたかった。
もちろん、生きて帰るのが第一である。
狭まる包囲の中、トオルも戦い方を切り替えねばならなくなった。
近距離からの弓や、組み付いてからの狩猟刀での強襲ではない。
敵を一匹に絞って狙っていくそのやり方では切り抜けられない場面になろうとしている。
空気が変わっていくの感じながら、狩猟刀を鞘に戻す。
代わりに刀を抜いていく。
矢は、一応つがえてはいるが、せいぜいあと一回射るだけで終わるような気がした。
もう遠くから狙う余裕もないだろう。
出来れば、背負った盾を左腕に持ちたいものだった。
弓が無ければそうしていただろう。
だが、あと一回かもしれない射撃の機会を捨てる事もできない。
離れた所からの一射が、少しだけでも敵の攻勢を削ぐ事が出来るかもしれないのだから。
草の中を駆け巡った争いが一区切りを迎えようとしている。
その境目において、トオルは一つの方向に向いていた。
トオルを包囲しようとしてた小鬼達は、さすがに慎重になっていた。
相手はなかなか捕まらずに逃げ回っている。
かなりの数が捜索に出ているにも関わらず。
彼らの能力の低さもあるが、それ以前に及び腰になってるのも原因となっていた。
外に出た者達の未帰還と今回の襲撃である。
いやでも怯えや恐怖を引き起こされた。
今も可能な限りの数を繰り出しているが、相手を見つけ出してやった事の代償を払わせてやる、という意志に欠ける。
こんな事をやらかした者に遭遇しないように、自分がそいつらの犠牲者にならないように、という態度が伺える。
人数で勝っていても、気力で負けていた。
実際に、小鬼達の何匹かがトオルにこの場で倒されている。
小鬼はまだ仲間が倒されてる事に気づいてないが、彼らが怖じ気づくのも無理はなかった。
なんだかんだで、トオルと小鬼達とでは実力差がありすぎた。
一対一でトオルが負ける理由はない。
それこそ奇襲を成功させないかぎり、小鬼に勝機はない。
数における優位性は覆る事はないが、それを活かす事ができないでいた。
トオルを追い込み、そこに集結しつつあるというにもかかわらず。
彼らは人間に比べて知力・体力・気力など大部分で劣る。
それでも智慧が全く無いほど愚かではない。
劣勢を感じるくらいの能力はある。
今の状況がどれだけ危険かくらいは理解していた。




