レベル90-2 動きがないから動けなくなってしまいます
「上手くいってるね」
「ああ。
それじゃ始めるぞ」
「うん」
隣のレンと共に行動を開始する。
深夜。
明確な時間は分からないが、陽が落ちてそれなりの時間が経っている。
空には月がのぼり、夜だというのにそれなりに見通しがきく。
それでも周囲を見渡すには暗い。
どうしても影になる部分が出て来る。
群れの警備に当たっている小鬼達も、周りの全てを見通す事は出来ていない。
前世における伝承や創作物の中では、小鬼などは暗視能力を持っている事もある。
この世界での小鬼も、もしかしたらそういった能力があるかもしれないと警戒はしていた。
もちろんこの世界において、様々な話しは聞いている。
事前に小鬼の特性などを他の者にも聞いてみた。
しかし、全てが判明しているわけではない。
拠点にいる者達全員に聞いても、特にこれといった情報は持ってなかった。
そのため、どうしてもぶっつけ本番な所が出てきてしまう。
(こいつらが夜行性だったらまずいよな)
昼間に活動してるので、その可能性はないかもしれない。
だが、もし夜のほうが活発になるなら、これから行う事はかなりの危険を伴う事になる。
それでもトオルは、思いつきを実行にうつした。
このまま何もしないでいる事による損失を考えて。
見えない所で何かが起こってるなら、このままでいるわけにはいかない。
何もしない事で、進行してる何かを放置してるかもしれない。
考えすぎとも思えるその可能性に、トオルは危機感を抱いた。
ここは静かに時間の経過を待つのが一番なのかもしれないのだから。
それでも、もし何かが動いていたなら。
動き出してる何かを見逃してしまっているなら。
その場合に起こる悲劇はどれくらいになるのか。
考えたら動かずにはいられなくなった。
それこそが間違った答えなのかもしれないと思いつつ。
今から始まる夜襲は、そんな思いから始まった。
草の中を進み、可能な限り接近するのが第一段階だった。
群れの近くまで迫るので危険は大きい。
それでも近づいたのは、夜間の遠距離攻撃になるからだった。
接近しなければ狙いがおぼつかない。
見張りとおぼしき小鬼達までおよそ十メートル。
ここまで近づいたのは、それが理由だった。
ついでに、群れの様子を間近で見て何か見いだすことが出来れば、とも思った。
そんな余裕はこれっぽっちも無かったが。
「…………意外と厳重だな」
「うん、結構多いよね、見張りが」
徹たちによる襲撃があったからだろうか。
群れの外を見回る連中もそうだが、テントの並んでるあたりで動いてる者達も多い。
何かあれば、すぐにそいつらが駆けつけてくるだろう。
「どうする?」
レンが確認をしてくる。
「本当にやる?」
どうしたもんかと考えてしまう。
ここで仕掛けてしまえば、結構な数の追っ手がやってくるだろう。
おそらく、五匹や十匹は簡単に集まる。
それだけの数を相手に渡り合えるかどうか。
先日の戦闘で、小鬼相手でも十分渡り合えるのは確信してる。
しかし、何匹も同時にとなると自信はなくなる。
今ここで危ない橋を渡れば、それを余儀なくされると思えた。
それでも、
「…………やろう」
当初の目的を変えるつもりは無かった。
「外にいるあいつらをやる。
殺せなくてもいい。
とにかく、やつらを警戒させる事ができればそれでかまわない」
そう言って矢をつがえる。
「投石器は暫く控えてくれ。
動きが大きいからすぐにバレる」
「分かってるって。
ま、がんばって当ててちょうだい」
「はいはい」
そう言って狙いを定める。
狙われてる小鬼は、自分に向けられてる鋭い殺意にまだ気づいてない。
幾分哀れみをおぼえつつ、弦を引き絞る指を離す。
矢は、風切り音を残して小鬼へと飛んでいき、その体に突き刺さった。
最初の一発が当たる。
当たった小鬼は、衝撃によろめき、自分に突き刺さった矢に驚く。
防具もろくにつけてない胸に当たったそれは、確実に肺を貫通している。
すぐ近くにいた小鬼が、少し遅れてそれに気づいた。
あわてて仲間に駆け寄ろうとするが、そこにもう一発が飛んでいく。
今度の矢は腹に突き刺さり、小鬼の内臓を傷つけた。
幸いなことに二匹の異常に他の小鬼は気づいてない。
この機会にトオルは、ありったけの矢を射ち込んでいく。
情けをかけたり容赦をしている場合ではなかった。
次々と小鬼に矢が突き刺さっていく。
悲鳴すらろくにあげる事もできないまま、小鬼たちはその場に倒れていった。
「やった?」
「ああ、上手くいった。
あれなら、手当てのしようもないだろう」
「他のにも気づかれてないみたいだね」
「だな。
あ、でも……」
「どうし……あっ」
「見回りが来たよ」
見張りを倒したのは良いが、それで終わりというわけにはいかなかった。
数匹でまとまってる一組が、倒した小鬼の所に近づこうとしている。
「どうする?」
言われるまでもなくトオルは、次の行動を考えていった。




