過去編 ~動き出すもう一つの現実 1 ~
ーーーー時は少し前に遡る。
「“輝大盾”、帰還しました」
少年の様なシルエット。声や身長などを見るからにこのシルエットの正体は、月影だ。学校に行っていない間、月影は大きな施設のような所に居た。両開きの自動ドアを開け、一つの小さな部屋で待機していた。
カツンッ……。カツンッ……。
しばらくして、ハイヒールで歩く音が聞こえ出した。月影はその足音がする方向に目を向ける。廊下の向こうから、女性が月影に近付いてきていた。足音の犯人はこの女性だ。その女性が月影の目の前に立つと、その女性は静かに口を開いた。
「遅い。何をしていた」
その質問に、月影は答える。
「ーー少し、寄り道をしていました」
女性は、月影に背面の腰に装備している“平らで円状の形をした物”を渡すように命じた。月影は、背面の腰に装備している物を女性に渡す。すると、女性は渡された物をカチャカチャといじり始めた。
「少し展開速度が低下しているな。それと、“戦闘形態”時の発砲速度も低下している。多少の改善と修理が必要になる」
月影は少し悩み、遅れて口を開いた。
「どのくらいの時間が掛かりますか?」
「そうだな、遅くても3時間くらいだろう。“ハイナ”ならもっと早く終わらせられると思うだろうがな」
「分かりました。では、ハイナさんに渡しときます」
そう言い残し、月影は女性を通りすぎる。そして、そのまま廊下の方に歩き出す。
「あぁ、お疲れ様」
女性は月影に言う。すると、歩く足がその場で立ち止まった。
「お疲れ様です」
月影は女性に背を向けながら返事をした後、再び廊下を歩き始めた。
施設内を歩き、月影は“ハイナのお部屋”と書かれた扉の前に立っていた。
「“輝大盾”です。装備の事で来ました」
「むむ、もう来たのね~。良いよ~、入って入って~」
軽い返事を聞くと、月影は扉を開き、中に入っていった。
「失礼します。さっそくですが、装備の修理のお願いをしに来ました」
「うんうん、話は聞いてるよ~。じゃあパパッと直しちゃおうね~」
月影はハイナという人物に“お願いします”と言って装備を渡す。
「まっかせてよ~! あ、3時間程度で終わるから3時間後にはここに戻ってくるように!」
「わかりました。では、失礼しました」
そういうと月影はその部屋を後にする。月影は自室でご飯を済ませ、休息を取った。
ーー先程言われた時間に月影は“ハイナ”という人物の所に行った。
「これで修理はバッチリ!起動速度の改善、重量も軽くして更に強くなりました!」
渡していた平らで円状の物を返してもらい、再び背面の腰に装備した。
「ありがとうございました」
「礼には及ばないさっ! 使った時にビックリすると思うよ~」
「では、この後に訓練場に行って試してきます」
「それは名案だ。いってらっしゃ~い」
ハイナの部屋を出た後、性能向上を確かめる為に月影はエレベーターで地下にある訓練場に向かった。
訓練場に着き、早速平らで円状の物を手に持ち、月影は口を開く。
「起動、“輝大盾”」
すると当然、平らで円状の物が大きく、分厚く、そして透明で輝く大きな壁の様な盾に姿を変えた。
「よし、シールドの展開速度は早くなっている。大きさも分厚さも前とは全然違う。それなのに重さは前よりも更に軽い……。流石ハイナさんだ……」
月影は感心し、次にシールドの姿を拳銃の様な物に変えた。訓練場には勿論の事、的もある。月影は的に狙いを定めて拳銃を撃った。
「発砲速度が速い。それに、反動もかなり軽減されている。これなら負荷無く戦えそうだ。よし、このまま戦闘訓練もしてしまおう」
月影が戦闘訓練をしようとした、その時だ。
『16番市街に“敵”出現。速やかに急行し、殲滅して下さい。繰り返します。
16番市街に“敵”が出現。速やかにーー』
施設内警報が突然鳴り出し、アナウンスが流れ始めた。
「16番市街って確か学校の帰り道のはず、今の時間は……!?」
月影は近くの時計を見る。
「まずい。急いで向かわないと、手遅れになる……!」
そう言うと、武器を背面の腰に装備し、急いでエレベーターに向かった。
ーー16番市街は、戦場と化していた。
辺りには鳴り響く銃声。そんな激戦の中、細い身体で刀の様な物を振り回す男が居た。物凄い速さで間合いを詰め、素速い動きで相手を斬り倒して行く。風の様に速く、そして雷の様に激しく。その姿はまるで疾風雷神の如く。
「増援はまだなのかよ……ッ!!」
その男は、増援が来るのを待ちながらひたすらに敵を斬り倒して行く。
男はそんな戦いの最中、ある事に気付く。戦っているこの場から、そう遠くない道端を歩いている3人組みを見付けた。
「何でこんな所に一般人が居るんだ……? いや、待てよ。それよりも“敵”が近付いているな……。面倒臭ぇ仕事を増やしやがって……」
男は3人組みの所に走った。
向かっていると、その中に居る一人の男が怒鳴る。その声が響き、近くに居た“敵”が3人組みに気付き、武器を構える。
「そ、それはそうだけど……、でも……!」
その三人の中の一人の女が話そうとした瞬間、その場に着いたと同時に男は刀の様な物を拳銃に姿を変え、3人組みの近くに現れた“敵”に狙いを定め、男は口を開く。
「随分とご立派な仲間想いの奴だなァ?」
“パァンッッ!!”
男はそう言いながら“敵”を拳銃で撃った。