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異世界で元勇者だった兄は、異世界女神学園の教師になっていた


2026/06/08


プロローグを大幅に変更しました。


一度ご覧になられた方も、読み直していただければと…


 これは、わたし(妹)が、死んだはずの兄と再会する、ほんの少し前のお話……

――――――――――――

 

「センセー(先生)!

 タイヘンー、ミーちゃんガ!具アイ悪イっテ!」


 渋谷の街中の高級デパート跡地に建つ、我が渋谷女神学園の校舎入り口の下駄箱前で、ガタイの大きな、頭の両脇から角を生やしたミーと呼ばれた娘がへたり込んでいた。


 ミーの肩に乗ったまま犬耳のとても小さな娘が、たまたまそこを通りかかった俺を見つけて、手招きしながらヤイヤイと騒ぎ立てている……

 

 真っ青な顔で、肩で息をしながらへたり込んでいるのがミーだ。

 ミーはミノタウロス族の女の子(12歳)で、身長2.3メートルもある。

 

「うおっ?!どうしたんだ?!ミー!

 顔色が真っ青じゃないか?!」

 

「アのネ、あノネ、ブオブオーってうるさい虎っくんがね!チッコネコにグオーしてタノ!

 で、デ、デ、ミーちゃん、ギューして、バーーーん!!!したの!

 そシたラネ、何ダかミーちゃんガ気モチ悪いっテ……」


 そして、さっきからミーの肩の上で俺を手招きしながら、この相棒の様子を身振り手振り付きで、必死な顔で説明してる小ちっこいのが、コボルト族の女の子、ルコット(10歳)だ。

 身長は九十センチ程……

 

 どうしよう……ルコットが何を言っているのかわからない……

 ミーは話すことも無理そうだし……


 俺はルコットに言われた事を復唱しながら、何が言いたいのか考えてみた。

 

 ……虎?くん……うるさい?

 とらっくん?

 ……

 ああっ!トラックか!

 

 つまり……どういうことなんだ?

 トラックをバーン……

 バーン……

 したミーは気持ちが悪いと言ってる……

 ……つまり?

 あー、いやいや、今そっちじゃない!

 ミーが真っ青な顔して、苦しそうだぞ!

 まずは楽にしてやらなきゃ俺!

 鑑定スキルを呼び出して、ミーの状態を確認すると、

 魔力がなくなっている。

 ステータスはバッド!

 HPが削られ始めていた。

 ――

 これは当人はかなり苦しいはずだ……

 HPにはまだ少し余裕はあるけれど、このまま放置すればHP0で命に関わる!

 大急ぎで、魔力を回復してあげないと!!

 だけど、いま学園には魔力回復薬は無い!

 

 魔力なんて存在しない現代のこの渋谷に異世界人達とやってきて数週間……

 異世界から持ってきたポーションの類は全て使い切っていた。

 だから、魔力の回復と言っても、俺の魔力をスキルを使って譲渡するしか無いんだ。


「ねぇ!ミー!とりあえず君に魔力の譲渡をするよ、いいね?

 俺が指先に魔力を集中させる、そしてスキルでその指先から君に魔力譲渡をする。

 俺がいいよと言ったら、この指先にチュ!ってして見て。

 それで魔力が補給されるはずだから。

 いい?」


 コクリ……

 ああ!ミーの顔が赤くなった!お年頃だからね……チュッとか考えただけで恥ずかしいんだろうね。


 全く!あの駄女神アナスタシアのやつめ!

 『キッスをしないと魔力の譲渡はできませんよ?』なんて言いながら、変な魔力譲渡スキルを俺にギフトしたんだ!!

 キスなんて言うから、アイツに魔力譲渡しようとした時に、変に緊張してガチガチになって女神の唇にキスをしようとしてしまったじゃないか!!

 そうしたら、人差し指で俺の唇をチョンと触って、「はぁー!ご馳走様でした!!」とか言いながらクスクスと笑いやがった!

 キスと言ったら唇と唇って思うじゃないか?!

 絶対俺が勘違いすると思って、アイツ、わざとあんな言い方したんだ!!

 その証拠に、顔が真っ赤な俺を散々に揶揄いやがって!

 あー!なんだか、思い出したら腹が立ってきた!

 駄女神め!!

 いやいや、まずはミーに魔力譲渡だ!

 

 よし!スキル発動!


 ――魔力譲渡スキル【ハートフルラバータイム】を発動します。


 頭の中に【解説さん】の音声が響く。


 すると、どこからともなく大音響!

 

 ジリリリリリリリリリリ……

 

 電車の発車のベルみたいな音が辺りに鳴り響く!


 その瞬間!

 周りの時間が止まって、俺とミーの二人だけの時間が流れ始める。そして、このスキルの馬鹿仕様の一つ目によって作り出されたソファの上にふんわりと二人で座わらされる。


――ハートフルラバータイム(恋人達の一時)が発動しました

――それは、二人だけに許された、ほんのひとときの安らぎの時間

――残り時間、二十分

 

 このスキルのもう一つのバカ仕様がこれ!

 

 譲渡者と被譲渡者以外の世界時間の停止と、この余計な解説が二人の頭の中に流れるんだ!


 ベルが鳴って、何でか、緊張してるミーが顔を赤くして、キョロキョロと辺りを見回していると【解説さん】の声が【ハートフルラバータイム】の発動を独特の解説付きで告げる。

 

 すると案の定……

 

「こ、恋人?!勇者先生と?!えっ?えっ?えー?」

 ミーの顔が真っ赤になって、俯いてしまう……


「ああ!ミー!スキルの解説は気にしないでいいから、これはあのバカ女神がふざけて作ったスキルなんだよ。

 だから、本当に恋人同士とかそう言うんじゃないから!

 そんなに気にしないで、気楽に魔力を受け取ってくれ!」


 俺がそう言うと、ミーの表情が少し曇った気がした……ああ、魔力切れで苦しいのにびっくりさせちゃったかもしれない。それで余計に具合が悪くなったんだろう……全くこんなしょうもない機能つけるから、あの駄女神!


「さあ!ミー!今この指に魔力を集めたよ。

 この指にミーが唇で触れれば魔力譲渡は完了だよ、すぐ楽になるからね!」


 俺の言葉に、俯いたままのミーが、上目遣いで俺を見てコクリと頷いた。

 そして、俺の人差し指に顔を近づけて――


 チュ!

 

 ――

 

 魔力譲渡も終わり、無事、ミーの体調も回復した。

 【ハートフルラバータイム】の収束限界時間まで、あと15分。任意解除ができないポンコツ仕様のせいで、俺とミーはこの時間停止世界に二人っきりだ。

 

 することもないので、体調が良くなったミーに詳しく事情を聞いた。


「何があったのかなミー?

 君の魔力が全く無くなってるんで、ちょっとびっくりしたよ」


「えと……勇者先生、ごめんなさい……」


 あー、怒られるって思ってるね?

 

「ああ、いや別に怒ってるわけじゃ無いから、心配しないで?

 僕はね、ミーが無事ならそれで良いんだ。

 それで、どうして走ってるトラックとぶつかったの」

 

「あの……この子……」


 そう言って胸元にずっと抱え隠していた、小さな黒い毛むくじゃらの生き物を掌の上に乗せて俺の目の前に広げて見せてくれた。


「ミュゥ!ミャーン?」


 漸く目が開いたばかりに見える、小さな真っ黒な子猫がミーの掌の上に載っていて、ミーを見上げて鳴いている。

 あれ?時間停止空間の中で動いてるな?!

 胸に抱えていたから一つの存在として、スキル「ハートフルラバータイム」に認定されたのか?

 ――


「あのね!この子が道路に飛び出したのが見えて!

 あたし!ダメ轢かれるって思ったら、道路の真ん中にいてこの子を抱え上げてたの!」

――

「だって!だって……もう!誰かが死ぬところ見たくないの……先生……うああああぁぁん!」


 オレの胸に泣きながら飛び込んで来たミーの事を、オレは背中をポンポンしながら頭を撫でてやる事くらいしかできなかったよ……


 身長二メートル三十センチもの身長に、牛角が頭から生えているミノタウロス族のミー。

 でも、この子は十二歳の女の子なんだ。

 悲しいことがあったら、一メートル七十センチの俺の胸にすがって泣いたってちっともおかしいことなんてあるもんか!

 俺が転生し、勇者となった異世界はミー達が住んでいた世界でもある。

 その世界は少し前に消し飛んで消えてしまった。

 次元喰いの襲撃にあったんだ。

 その時の光景をミーは思い出したのだろう……

 小さな女の子には酷な経験だったに違い無い。

 せめてその心の傷に寄り添ってあげるのが、大人の役目ってもんだろう。

 ……

 ……

 まぁ――

 見た目は大人が小学生にすがってるようにしか見えないんだけどね!

 ……

 ……


 それにしても、普通なら、いくらミノタウロス族でも、十二歳の女の子がトラックを吹っ飛ばすなんて芸当はできない、無理だ!

 

 ただ、ミノタウロス族には種族固有のスキル――「身体超強化」がある。

 魔力を馬鹿みたいに食う代わりに、一時的に身体能力を跳ね上げる反則技でね。


 大人でも滅多に使わないと聞いた事がある。

 ましてや、ミーはまだ子供だ。


 どうやらそれが、子猫を守ろうとした瞬間に暴発したらしい。


 ミーもそんなスキルが自分にあることすら知らなかったようで、トラックがバーン!!と吹っ飛んで、【解説さん】に、頭の中でスキルの発動を告げられ、初めて知ってとても驚いたと話していた。

 

 それでトラックは吹き飛ばしたはいいが、魔力をゴッソリ持って行かれて、魔力切れを引き起こし具合が悪くなったらしい。

 ――――――――――

 

 今、俺たちが住んでる現代の地球上には魔力という物が存在しない。

 異世界人が体内魔力を使い切ると、魔力の自然補給ができず、そのまま放置すればいずれ命に関わる事態になる……

 

 しかし、ミー、魔力切れを起こしてよくここまで帰ってくる事ができたね?普通ならその場にへたり込んだまま一歩も動けなくなるはずだよ?

 

 そう聞くと、実際ミーは道の真ん中で動くこともできずにいたと話してくれた。

 その時、一緒に買い出しに同行していたルコットがミーの肩の上に乗っかってきて、

 

「ミーちゃん頑張れ!」

「ミーちゃん頑張れ!」

 

 と声をかけたそうだ。

 そうすると、少しだけ身体が動いた……

 

 少し動いては、へたり込み、ルコットにまた応援されると、数歩歩ける……

 

 これを繰り返して、なんとか学園内には辿り着けたらしかった。


 おそらくだけど、ルコットもコボルトの種族固有スキルの「応援」を無意識に使っていたんじゃないかな?

 傷つき瀕死の仲間を巣まで連れ帰るコボルト族の種族スキルだ。

 これも、恐ろしく魔力効率の悪いスキルだった筈だ……


 ルコットもそんなスキル多用して大丈夫なんだろうか……?


 それから……他にも何か忘れてる気がするんだけどな?

 ……

 ……

 

 あ?


 吹っ飛ばされた、トラックはどうなったんだ?

 

 普通はトラックの前に人が飛び出したら、吹っ飛ばされるのはトラックじゃないんだけどなぁ……

 ……はぁ

 後で現場に行って残念女神に後始末させよう……


 そう思ったら、「ハートフルラバータイム」の稼働時間が終わり世界の時間が動き出した。

 

 ソファは消え、俺たちは元の姿勢にいつの間にか戻っている。

 

 ミーの肩の上でチビのルコットが、またヤイヤイと騒ぎ出した。

 

「ミーちゃんエライ?ミーちゃんエライでしょ!」


 何でルコットがミーの事を自慢してるんだろう?

 ……

 

 ああ!そうか、ミーが怒られないように援護射撃してるつもりか……

 へー

 なかなか優しいじゃないかルコットちゃん。

 そう思った瞬間、

 

「ムキュー…………」

 

 そのルコットが目を回して、ミーの上から転がり落ちそうになった!

 

 わわ!あぶな!!


 俺は慌ててルコットちゃんを抱き留めた。

 やっぱり魔力切れ……

 はぁ……今度はルコットちゃんに魔力譲渡しないといけなくなった。


 俺は、空いていた片手でいつの間にかこめかみを抑えながら……


 ……スキル発動。


 そして、辺りにはけたたましいベルの発車音が鳴り響いて……

 

 世界の時間が停止したんだ――



お読みいただきありがとうございます。


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