第55話 出現! 怪鳥 “シャチョー”
前回、塩の輸送中にヤギと遭遇。
この地域の生態系が予想以上に回復しているようだったので、エリスの希望により数日間、この国での動物の観察をすることになった。
そして今日も朝早くからやって来ては、茂みの中に身を隠し、周囲の様子を調査するのだった。
「カズヤ様、見てください。あそこにも鳥の群れが」
「……」
「向こうにも数羽……」
「へぇ―――」
「あの水辺にも……」
「ふぅ~ん」
いわゆるバードウォッチングというものなのだろう。
二人で身を潜めては、朝から晩まで、ひたすら鳥の観測を続けている。
鳥を見つけては指差して、どことなく嬉しそうに報告するエリスだが、俺はちっとも面白くもなんともない。
いくら綺麗な小鳥や、美しい水鳥を見たところで、腹が満たされるわけでもないし、鳥類の生態系なんて興味もない。
「なあ? エリス? ニワトリとか見つからないの?」
「見当たりませんね」
食料にならない鳥など増えても、ちっとも嬉しくない。
まぁ、仮にニワトリの生き残りを発見したところで、食用にしようとすればエリスに叱られ止められるだけだが。
「カズヤ様、あそこにも!」
「ああ?」
どうやらエリスは鳥が好きなようだ。
俺も好きだよ、チキンは。
唐揚げとか、照り焼きとか、親子丼とか、鍋とか……
それにしてもエリスは視力が良い。
俺には点にしか見えない遠くの物も、認識できるのだから。
エリスが発見する鳥たちは、遠すぎて俺にとっては全部ハエみたいにしか見えない。
「あのさぁ、エリス?」
「なんですか?」
「双眼鏡とか、望遠鏡とかないの?」
「そう……? ぼうえん?きょう??」
「いくらなんでも、あんな遠くまで見れねーよ」
俺は目は悪い方ではない。
裸眼で1.5はあるから、日本人の平均視力だろうけど。
それにしても、遮蔽物の少ない草原の、遥か遠方にたたずむ木々の枝にとまる小鳥なんて、認識できるはずかない。
「そうですか。カズヤ様は頭だけでなく目も悪かったんですね」
「……お前は、性格が悪いよな」
「あいにく、便利な道具は既にこの世界では存在しませんので、視力を上げる魔法くらいで我慢してください」
「そんなのあるの!? なら早くやってくれよ!」
「では、こちらに」
頭を突き出すように言われ、エリスに近づけると、両手で頭を包み込むようにし、なにやら呪ものようなものを唱える。
その直後……
「おーすげー!! 遠くまで見える」
さっきまで米粒ほどにしか見えなかった遠くの鳥の群れが、ハッキリと姿を確認することができる。
「これで見えますか?」
「よく見えるよ! すげーな、魔法って!
……でも、なんだか頭が重いというか、痛いというか、副作用なのか?」
「視力を上げたというより、魔法の力でカズヤ様の眼球を大きくしたので」
「なっ!?」
「目が剥き出しになって、顔の半分以上を占めていますよ。鏡で確認してみますか?」
「いや、怖いからやめとく」
とんでもないしてくれるぜ。
早速、眼球が乾いて痒くて仕方がない。
「カズヤ様、その目で確認できますか? 遠くの大木の下に群がっている鳥たちを」
と指差す方に目を向けると、確かに木陰の下の地面に群がるものが見て取れる。
あれ……ダチョウ……じゃね?
首と足が長く、大きな鳥。飛べない鳥だけど、ものすごく速く走れるやつ。
「あれは“カチョー”と呼ばれる鳥です」
「か、かちょう? ダチョウじゃないの?」
「なんですか? ダチョウって?」
見た感じダチョウのような足の長い鳥が二本足で立っている。首は長く頭をキョロキョロ回してる。
「あの鳥は飛ぶことよりも走ることに特化した鳥です。翼は退化して飛べなくなった代わりに、持久力、体力、そして脚力が飛躍的に増大しています」
「まさしくダチョウじゃん。まあ、この世界ではカチョーって呼ぶんだろうけど」
カチョーと呼ばれるダチョウのような鳥。
よく見たら足が鳥の足の、棒のような細さじゃなくて……
「なんだあの脚! 筋肉ムキムキだ!」
短距離走のオリンピック選手並みの、筋肉隆々の太腿とふくらはぎが生えている!
「気持ちわる!!
体はダチョウで足は人間のアスリート並み!
なんだあの生き物!!」
「敵から逃げ切るため持久力と脚力が馬よりも高いです」
「じゃあ、あれは鳥じゃなくて馬と呼べよ」
「回復力も強く、首がもげても、足が折れても走り続けます」
「馬鹿じゃないのか? いや、馬じゃないから鳥鹿と言うべきか?」
「確かに知能は低いです。ステータスを体力に全振りしてますので、なんで自分が走っているのか、数秒前のことも忘れたりしてます」
「残念な生き物だな」
それが群れをなして木の下で休んでる光景は、まさに異様で異世界らしい。
「カチョーが存在するということは、きっと“あれ”もいるはずです」
「今度はなんだよ」
「彼らの上を見てください」
「木の上?」
群がるカチョーの上の木の枝を見ると、木の葉に隠れて見えなかったのだか……なにか、ぶら下がってる?
カチョーのちょうど上に!?
何がいる!?
手、らしきもので枝に掴まり……猿、じゃない?
ペンギンみたいな体をした鳥?
しかもその体よりも数倍長く太い二本の腕が生えてあり、その手で木に枝にぶら下がってるのだ。
「なんだ!あの! キモい生物はー!!?」
「“ブチョー”です」
「はぁ!? ぶちょう? だと?」
「翼が手のように進化し、自由に物を掴んだり、道具を使ったりすることができます。
手先が器用で、そのため知能が発達して人間ともコミュニケーションをとることも出来ます。
その代償として、翼で飛ぶことが出来なくなり、走りも遅く、ああやって木の上で生活するようになりました」
「不気味だなぁ……」
体は可愛いのに、腕となった翼がムキムキで、重量挙げ選手なみに筋肉が発達してる。
「彼らは、よく二羽ペアとなって行動する習性があります」
「ペアで?」
「はい。カチョーの体力とブチョーの知力を合わせて、この厳しい自然界を生き抜いてきたのです」
「ふぅ~ん」
「しかし、一時絶滅寸前まで数が激減しました」
「なんで?」
「人間が労働資源として乱獲し、奴隷のように扱ったのです」
「奴隷……と言うか家畜だろ?」
「粗末な畜舎に押し込められ、過酷な労働を強いてきたのです。言い換えるなら、そう、舎畜です!」
「なんだよ舎畜って。だから社畜……と言うか普通に家畜だろ?」
「本当に人間は愚かな生物です。こうやって他の動物を虐げてきたのですから。滅亡したのは、その天罰です。自業自得です」
「仮にも救世主である俺の前で、よくそんなこと言えるよなあ」
「お陰でこうやって彼らの数も増えても……あっ、カズヤ様、見てください! ブチョーとカチョーが合体しますよ」
「え? なに? 合体って?」
枝にぶら下がったブチョーの1匹が、下にいるカチョーの背中に狙いすまし……
そして、
飛び降りる!!
剛脚な鳥足カチョーと、剛腕の鳥腕ブチョーが、まさかのマッスルドッキング!!?
「うっわ、キモ!
なんかこんな妖怪、見たことあんぞ!
手長足長じゃねーか!?」
「見てください。この姿こそが“シャチョー”です」
「は? なにそれ? シャチョー?」
「高い体力と行動力と持ったカチョーにまたがったブチョーが、その知力で指示し操ることで、様々な困難を乗り越えていくのです。この二匹一組を“シャチョー”と呼んだりします」
「あっそ、あんまり関わり合いたくねーな」
「この姿、本当に美しく素晴らしいです。
鳥人強度100万パワーといったところでしょうか?」
「なんなんだよ! 鳥人強度って!
100万パワーって、どうやって算出した!」
「連れて帰りましょう」
「ふあ!?」
「なるべく多く、仲間として誘いましょう。建設や土木といった作業に従事させるのです」
「……お前、さっき、社畜がどうのこうの言ってなかったか?」
「カズヤ様1人で何が出来るんというのですか!」
「いや、それは……」
「未だに倉庫の一つも作れないで」
「そんなこと言われてもだなあ」
「貴重な労働力として、彼らにも働いてもらいましょう」
「シャチョーを連れ帰って、社畜のように働かせるのかよ。お前、鬼だなぁ」
「さあ行きますよ」
「へいへい」
こうして俺達はブチョーのリーダーと交渉し、数十匹のシャチョーを拠点へと連れて帰るのだった。




