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109、聞くも涙語るも涙なお話

 これはレイシュが酒に溺れる、少し前のお話。


 帝国の政争に敗れたライゲンブルグ家は、オスヴァルトの祖父の代でお取り潰しになる。

 奇しくもこの時、隣のバレンノ王国では黒龍王オルトレグ討伐に沸き立っており、一攫千金を夢見て冒険者になる者が後を立たなかった。


 路頭に迷っていた一家にとって他に選択肢があるはずも無く、彼らも異国からの冒険者として第一歩を踏み出した。


 依頼を達成して成り上がり、いつか帝国へ返り咲く。

 この悲願を胸にオスヴァルトの祖父は邁進し、跡を継いだ父も、王国でも指折りの冒険者として名を馳せた。


 仲間やギルドからの信頼も厚く、強さと優しさを兼ね備えた父は、オスヴァルト少年にとっても憧れであり誇りだった。

 漠然と父のような冒険者になるんだと思っていた。


 そして戦争が起きた。


 当然、冒険者たちは王国軍として帝国軍と戦った。

 しかし父は……あろうことか敵と内通し、冒険者の仲間たちを手にかけたのだ。


 全ては一族の悲願のため。

 苦渋の決断の末、仲間の首を手土産に帝国への寝返りを選んだ。


 この裏切りによって戦局は帝国に大きく傾く。ライゲンブルグ家の多大なる功績。再び爵位を得るに相応しい、帝国への忠誠心を示して見せたのだ。


 しかし悲願が成就されることは無かった。


 戦後に兵たちの凱旋とともに帰国したライゲンブルグ家であったが、再興を妬ましく感じた貴族たちにより、またもや権謀術数の餌食となったのだ。


 異国の地で助けになった方々を裏切った冷酷な一族と罵られ、父は処刑、家族は国を追放された。


 帝国にも王国にも、どこにも居場所が無いオスヴァルトは天涯孤独の身となった。

 そんな彼にもたった一つだけ残された物。それが隠し倉庫の奥にあった武具(骨董品)である。


 なんという皮肉。しかし今の彼は裏切り者の息子として常に命を狙われる身。生き延びるため、彼は憎悪を身に纏った。




「金も家も失って、オマケに刺客とかにも狙われとったからなぁ。ホンマこの鎧と盾が残っとって助かったわ。自分の身は自分で守らんとアカンからなぁ」


 ケロリと話すオスヴァルト。そんな彼の姿を見て、アタシは生唾を飲み込んだ。


「なんやリアクション薄いなぁ。聞くも涙語るも涙な半生やったやろ。ヨヨヨヨヨ、泣いてくれてもかまへんのやで?」

「いや……うん。ゴメン。ちょっと色々驚いて」


 アタシは今まで彼のことを性悪のクズだと思っていた。でもそれは誤解だったんだ。こんな人生歩んでたら、誰だって心が歪んでしまう。


「アツカはそんな行き場のないヤツらを集めて、暴れる場所を与えてくれる。だから多くのならず者が付き従っとるんや」

「……なによそれ。悪者にも悲しき過去があるってこと? 同情を引こうっての?」

「別にそんなんやない。ただワイはな、他の誰よりも貴族を憎み、他の誰よりも貴族という者の生き様を知っとる。だからこそや、この世にはどーしても許せん人間が2種類おんねん」


 ゆっくりとアタシに近づくオスヴァルト。


「ひとつは下らん理由で仲間を裏切るヤツ。もうひとつは、ぬるい覚悟と青くっさい正義感で気取っとるヤツや」


 全力で見下されてる。そう思った。


「その、二つ目のがアタシだって言ってんの?」


 糸のように細い目の奥、濁った瞳を見つめ返して問いかける。


 アタシは覚悟して冒険者になった。世の中を見て周り、心身を鍛え、やがては父の後を継いで立派な領主になることを夢見てきた。あの日、なにも持たなかったアタシを救い出してくれたお義父様に恩返ししたかった。


 コイツやモニカほど過酷な境遇だったわけじゃない。生け贄にされたパァルや、過去から飛ばされてきたレイシュと比べてみても、アタシは恵まれている。


 でも、だからと言って、アタシの覚悟を、夢を否定されたままで良いわけがない!


 無言の睨み合いは数分間続いた。

 答えは無かった。


 ハンッと仰々しく鼻を鳴らして、オスヴァルトは扉に向かう。


「邪魔したな。ほな帰るわ」

「なによ、逃げる気?」

「まぁもともと挨拶のつもりやったし。それに、これ以上ここにおったらムカついて暴れてしまいそうや」

「なっ!」


 オスヴァルトは服のポケットに手を入れた。それを見るなり、アタシは立ち上がり再び構えを取る。


「そうそう。レイシュはん、なんか腕の良い鍛治師を探しとるんやろ。コレ、ワイが懇意にしとる金物屋の地図や。ほな」


 口早に言って、綺麗に折り畳まれた紙をテーブルに置くとそのまま部屋を出て行ってしまった。

 最後まで行動の読めない男だったな。


 アタシはスタスタと部屋の真ん中まで歩くと、深呼吸を繰り返した。そして肺いっぱいに空気を吸い込む。


「なんて休みよ、まったくも〜!!!!!」

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