レベル41 幻魔 《フェージョ=サタナ》
「な、何とかつけたなッ・・・・・」ハァハァ
4人は追ってくる無数のアンデットナイトたちから何とか逃れられ、今は祠の中。
祠には何だか不思議な力が働いているのか、4人が入った瞬間に魔物全員がその場に立ち止まり、そして各場所に散っていった。
中はそこまで広くなく、どちらかというと少し狭い。壁や仕切りなどがない、ただの広間だ。
お目当ての神格の砥石どころか、この中の魔物の気配すらない。
「あれ、砥石は・・・―――
次の瞬間、突如祠が闇に飲み込まれる。
!!!
「ッ!?なんだッ!?」
祠の壁だった四方の視界に今映るのは、どこまでも続く果てしない『闇』の姿。つまりレイが今居るのは、何もない黒の世界。
何の予兆もなかった、突然の襲来だ。
瞬時の出来事に、レイの判断は追いついていない。
「・・・ッ!?みんな大丈夫かッ!?」
仲間の安否を思い出し、後ろにいるはずの仲間に声をかける。
が・・・
「・・・えッ」
返事は返ってこない。
なぜなら、今3人全員は・・・
レイの眼の前で倒れているのだから。
「死んでる・・・!?」
この時、レイはふと何かを思い出す。
そうだ、一昨日の森であった出来事と今は似ている所がある。
一昨日森で二人と再会した時に、みお姉とシェリーは死んでいた。しかしそれは幻影の姿、本当は生きている。
今とあの時の状況が同じなら・・・
これも、幻 ―――
「ッ・・!!」ビクッ!
ふと魔物の気配を感じ取る。
まさか今度はこの3人の幻影だろうか。
(この状況で多い数の幻と相手してられない!ならッ・・・!!)
レイは袋からエスケイプロープを取り出し、道具効果を発動させる。
「道具効果『エスケイプ』 発動!!」
レイはロープを上に掲げて効果発動。
・・・するはずが、
「・・・あれッ!?」
『この場所では、「エスケイプロープ」は使用できません。』
パネルに打ち出されたのは、絶望しか感じない無情な報告。
本来発動時に光るはずのロープが光っていない・・・
だがこれで一つ分かったことがある。それは、
「ここはグラド大陸じゃない・・・!!」
――― フフフ ―――
突然後方から響きわたる不敵な笑い声。
しかしそれは、今まで聞いてきた上級クラスの魔物の禍々しいものではなく、普段町の人が話しているような会話時の声でもなく
始めて聞く、魂を吸われるような声 ―――
レイは後ろを振り返る。
「・・・ッ!??」
レイは幼少期に聞いたとある神話を思い出した。
幻を見せた者に呪いを掛けその者を喰らう、とある異質な魔物の話。
蛇のような長い胴体に狂気的な女の顔、ドラゴンの大翼を脊椎に生やす異形の姿の魔物。メデューサに近い姿だが、その力は比にならない。
今レイの眼の前にいるのは、あの話に出てきた魔物と全く同じ魔物
幻を司り相手を飲み込む、神話上の存在
「幻魔王・・・!?」
名を、フェージョ=サタナ ―――
~~~~~
「幻魔王・・・!?」
怪光を放つ魔王の眼にその姿、そして発せられる声・笑い
本当に魂が飲み込まれそうだ・・・
――― 会いたかったですよ ―――
「ッッ!!???」ゾクゾクッ
経験したことの無いほどの悪寒が押し寄せる。
その声はまるでレイを飲み込むような、狂気に満ちた声
(に、にげねぇと・・・!!)
レイは幻魔王に背を向けダッシュで逃げ出した。
しかし、
――― 待って ―――
その声と同時にレイの身体は宙に浮き、その状態で全ての動きが封じられた。
幻魔王の暗示だ。かかった者は身動き一つ許されない。
「ッ!!!!」
魔王はゆっくりとレイに近づいていく・・・
「ッ!?動け、動け、動けぇ・・・!!!!」
必死にもがいているようだが、レイはすでに動き自体を封じられている。
迫りくる幻魔王の眼に映るのは、ただ宙に浮いている自分の姿だけだ。
――― 可愛いわね・・・ ―――
レイの頬をその悪魔の手で撫で、まるで絶品料理を見たかのように舌をペロリと動かす。
(く、喰われるッ・・・!!!)
さらに顔を近づけ
――― フフ、美味しそう・・・!! ―――
幻魔王は、レイの前で大きく口を開けた。
「くぅ・・!!???」
――― あなた、わたしのものになって ―――
そしてレイは、喰われた
~~~~~
「ッ!?」ガバッ!
ふと飛び起きるレイ、自分の身体を確認する。
・・・どうやら身体に異常はないようだ。
レイは、今度は周囲を見て場所を把握する。
「・・・あれ、ここって?」
レイは、確かにバンダルスの祠の中で突如現れた幻魔王に身を喰われた。
しかし、レイが起きたその場所はなんと、
「や、宿のなか・・・?」
レイが目覚めた時、レイがいたのはバンダルスサイト村の宿のベッドの上。外を見るに、どうやら朝を迎えたようだ。
横を見ると、一昨日道具屋に貰って使ったはずのオベロンステッキが机上にある。
さらにこの光景、討伐に行く日の朝のものと同じものだ・・・
「まさか、戻ったのか・・・!?」
まさかのタイムリープ!何かの力がレイに働いたのか、とにかく今レイの身体は無事のようだ。装備していたはずの剣や盾、他の装備品が今朝と同じ場所に置かれている。
「・・・下行くか。」
レイはベッドを下りて、下の食堂へと足を運ぶ・・・
「おばちゃん、朝のB定食頼む。」
レイはあの日と同じB定食を頼む。B定食のメインディッシュは生姜焼き、レイは生姜焼きが好物なのだ。
しかし厨房からの応答がない。
「・・・おばちゃん?いるのか?」
レイはカウンターから身を少し乗り出し、中の厨房を覗き見る。
中は静まりかえっていて、人がいる気配を感じない。
「・・・留守か。まぁいいや、村のレストランで食うか。」
自分の部屋から財布を持ってきて、レイは宿の玄関を出る。
しかし扉を開けると・・・
「・・・外に誰もいない。」
今朝の村は、数は少ないが確かに人はいたはずだ。何かおかしい。
レイはしばらく村を歩き回る。時々店の中に入り中を確認したりするが・・・
「ウソだろ・・・?」
結局誰もいない。
レイは急いで宿に戻る。他の3人に知らせるためだ。
バタンッ!
「みんな大変dッ ―――
3人がいるはずの部屋には、あの3人どころかその荷物もない。
いや、先程から感じていることを言おう。
この村には、誰もいない ―――
「どうなってるんだ・・・?ここは今朝の村だろ・・・!?」
次の瞬間、急に世界がゆがみだす
実際にめまいがするわけでもない、しかし世界はまるでめまいがしたかのような視界に。
別に体調が悪いわけでもない、しかし今のレイの身体は吐き気を強く訴えている。
そしてあの時の感覚が、再び ―――
「ッ!?」ビクッ
目に映るゆがんだ部屋の光景の中から、蛇体の魔物が出現する・・・
それはまさしく、つい先程見た姿。
――― どう?私の世界は ―――
ここは4人が泊まったあの村ではない
ここは、
――― 二人だけの世界、気に入ってくれたかしら ―――
(これも幻影かッ・・・!!)
幻魔王が造り出した、幻の世界 ―――
今レイは、幻魔王に閉じ込められている ――――
次回投稿日;5月11日