レベル42 拡大 《タイムリミット》
ここは、幻魔王とレイだけの空間。
レイは幻魔王フェージョ=サタナに飲み込まれているのだ。
「ッ!?」
レイの身体は絶大な拒絶反応で硬直する。
いや、これはおそらくフェージョ=サタナの潜在能力の一つであろう。
対象が呪いに掛かっている場合、その対象者の身体を自在に操れるスキルがこの世に存在するが、これもその一種だ。二度三度と同じ硬直が訪れるのは不自然だ。
しかし動けないことに変わりはない。
――― 逃がさないわよ ―――
フェージョ=サタナは先程のようにゆっくりとレイに接近する・・・
狂気に満ちた表情で、その手を伸ばして
(やばいッまた・・・!!)
手が顔の前に来た、その時
――― こっちだ ―――
!??
そしてレイは、また何かに吸い込まれていく・・・
「ッ!!??」
ふと目を覚ます。
目を開けた前は先程の幻影の村の姿ではなく、とある黒の閉鎖空間。
レイは身体を起こして、周囲の状況を確認する。
「・・・!?」
するとレイの横には、見慣れた3人でも悍ましい幻魔王の姿でもなく
「目が覚めたようだ。異常はないか。」
緑色のメイル、真横には神がかったオーラを放つ大獣
「えッ・・・」
その人物の背中には、神々しい光を放つ大鉾
「お前、まさか・・・?」
「私は翠騎士・フィル=ガイゼル。お前に頼みがあってここにいる。」
「クーフーリン・・・!?お前まさか、3人目の獣騎士か・・・!?」
「3人目・・・というのは少し語弊がある。しかし今は私の話を聞いて欲しい。今この状況は緊急事態である。」
翠騎士フィル=ガイゼルは、見た目は確かに亜人種。その中でも獣人の類だろう。
しかしフィル自身の表情・口調など、至る箇所に熱が感じられない。
まるで目の前のロボットを見ているかのようだ。
「お前、何でそんなに無感情なんだ?」
「その理由はこれからの話で明らかになる。まずは話を聞いて欲しい。」
『話を聞いて欲しい』
その話とやらを聞かないと、おそらく先へは進めないだろう。レイはそう悟った。
さらにフィルの話を聞けば、自分が疑問に思ういくつもの出来事が分かる
そんな気もしていた。
「・・・分かった。じゃあ話してくれ。」
「今から話すことは不可解な箇所が多く存在する。しかし許容して欲しい。」
・・・相変わらず硬くて冷めた話し方だ。ロボットと話してる気分になっちまうだろーが。もうなってるけど。
「分かっている。むしろ簡単だったらぶん殴るぞ。」
フィルはレイの了解を得て一呼吸すると、自分の話を展開し始める。
~~~~
「今からおよそ10日前、この世界とはまた別の次元に新たな世界が誕生した。」
「・・・」
「その世界は誕生の瞬間から瞬時に拡大を始め、しだいにこの現実世界の面積と同等になる直前まで達した時があった。」
「・・・」
「その世界とは、この世の一般の亜人には絶対に踏み入れることのできない世界・・・その世界の名は『幻想世界』。」
「・・・」
(・・・スケールが大きくなりそうだなこれ)
「この幻想世界は拡大中だと無害。しかしこの現実世界の大きさと同等まで拡大した場合、2つの世界はとある条件を満たし、現実世界と幻想世界の次元を入れ替える権利が何者かに与えられる。」
「しかしその権利を最初から有し、さらにはその幻想世界拡大の中心に立つ存在が10日前に誕生した。」
「その存在の名」
――― 幻魔王フェージョ=サタナ ―――
「フェージョ=サタナは限界まで幻想世界を拡大し、この現実世界と入れ替えることを狙いとしている。そしてそのための手段を、なぜかフェージョ=サタナは有している。」
――― 何者かの想像で生まれた、非生命体 ―――
「このままでは焔王妃どうこうではなくなる。よって我々はこの侵食を食い止めなければいけない。」
「もし仮に2つの世界が入れ替わってしまった場合、現実世界にいる全ての生態系は死骸と化す。」
(え???話についてけないんだけどッ・・・?)
「幻想世界の創造と拡大、その中心にいる存在はその世界で神となる。フェージョ=サタナの狙いはおそらくそれ。」
「ちょちょちょ待ってくれッ!意味が分からない・・・」
内容が薄かったらぶん殴るとはいったものの、ここまで濃いとも思っておらず
これでも『ぶん殴る』に入るんじゃね?
だって意味わかんねーことべらべら言われてるんだぜ?
「とりあえず待て・・・話を整理したい。」
「分かった。少し待とう。」
フィルはこういっていた。
フェージョ=サタナの狙いというのは、自身が神になれる幻想世界という空間を現実世界同等まで拡げ、そして2つの世界の次元を入れ替える・・・だったな。
もし入れ替わると現実世界の生物は全員ゲームオーバー。
そもそもフェージョ=サタナはなぜか世界入れ替えの権利を最初から有していた。それはなぜだ?
幻想世界が現実世界と同等まで拡大する時間はいつだ?そして今はどのくらいだ?
そして
フィルの無感情とそれは、どのような関係があるんだ?
一つずつ聞いていこう。
「・・・話再開の前に質問タイムだ。なぜフェージョ=サタナは権利を最初から持っていたんだ?元々権利は同等まで広がった時に誰かによって与えられるものだろ?」
「幻想世界というもの自体がフェージョ=サタナの私物世界。元々幻想世界を入れ替え対象にする権利は有している。逆に有していない権利、それはこの現実世界を入れ替え対象にする権利のこと。」
「は、はぁ?」
「次元入れ替えは、2つの権利が一つの対象に与えられてから初めて施行される。よって今の状況は、現実世界を入れ替え対象にする権利さえもフェージョ=サタナがなぜか持っている。」
「だからその理由を聞いてるんだ。」
「・・・不明。しかしこの状況は10日前に発生した。それは事実。」
確か10日前といえば・・・シル・ガイアが消えた翌日だっけか?
まぁどっちにしろ・・・
・・・第一問目、不明答。
じゃあ第二問、行くか。
「二つ目。幻想世界が現実世界と同じ大きさまで拡大する時間はいつだ?確かお前さっき『幻想世界誕生と共に、幻想世界は拡大を始めている』っていってたよな?」
「・・・3日後。3日後には同等の大きさになるという計算結果が出ている。」
「み、3日!?それってもうゲームオーバーじゃないか!?」
「違う。タイムリミットとなる前に、私が障害となって幻想世界に干渉し続けた。これで4回目。ちなみに干渉を受けた場合、幻想世界の拡大動作はリセットされ、その瞬間にリスタートを始める。」
「・・・3つ目の質問、て言いてーけど何か答え見えてきたかも。」
「構わない。むしろその方が好都合。」
「じゃあ3つ目だ。お前はその干渉で、感情を失ったな?」
「・・・」
「どうだ?」
「・・・正確には違う。私の感情はフェージョ=サタナによって封印された。解除には討伐が必要。」
「やっぱり・・・」
フィルは、さらに話を続ける。
「1回目の干渉により失った私の感情は、おそらくフェージョ=サタナがどこかに封印したはず。もしくは何者かに渡した・・・はず。」
「それは権利をサタナに譲ったやつか?」
「可能性は高い。フェージョ=サタナが私の感情を持つメリットは一つもない。あるとしたらその線が濃い。しかしフェージョ=サタナが討伐された場合、感情を司る権利は自動的に私へ帰還する。」
「でもなんでお前が干渉出来たんだ?普通のパンピーじゃ幻想世界に入ることすらできないんだろ?」
「それはとある性質があるから。さらに言うと、その性質を持つ者はあと二人存在する。」
「・・・それはだれだ?」
「それは」
――― 3人の獣騎士
「獣騎士の存在が幻想世界拡大の障害として働いている。よって先程お前はフェージョ=サタナの幻想世界に介入していた。今ここにいるのは私がここへ引きずり出したから。」
言い方が悪さした悪ガキみたいだ。『引きずり出した』って・・・
「翠騎士フィル=ガイゼル、紅騎士レイ=ベルディア、蒼騎士シェリー=クラシア。三人がそれぞれ障害となって働いている。特に私の場合、幻想世界への干渉はこれで4回目。そろそろ翠騎士干渉の耐性が出来てくるはず。」
「それは幻想世界にか?」
「そう。」
「ところでさっきの話で言えば、シェリーも今こんな状況ってことか?」
「彼女は獣騎士としての力が未発達。つまり獣騎士になってから時間が経っていない。よって彼女の場合だと、障害になる程の抵抗力を有していない。」
ひでぇ言い草だな。それじゃシェリーが弱いって言ってるのと同じじゃね?
まぁとにかくシェリーは幻想世界に入ることも出来ないってことか。
「幻想世界に侵入できる者は、翠と紅。つまり私とお前だ。」
「・・・いや待て。俺はお前みたいに自分から幻想世界に干渉しようと思ったわけじゃない。なのに俺は幻想世界に侵入していた。それは?」
「お前が無意識のうちに干渉材となっていたから。そこでフェージョ=サタナは、障害となるお前自身を幻想世界に引きずり込み、障害としての性質を無効化させようとした。幻想世界に入ると、無意識に働く我々の障害能力は効果を失う。」
「・・・フィル、お前はなぜ俺がいる幻想世界に侵入出来た?」
「私自身のスキル・『オベロンプレート』による効果。この効果で、私は幻想世界に自由に行き来が出来る。しかしそれはそろそろ保証できなくなる。」
「耐性・・・か。」
「そう。フェージョ=サタナが幻想世界に対し、私の侵入に対する耐性を発動させた場合、私はおそらく幻想世界に入れない。」
「なるほど。回数が浅い俺はまだ余地があるってわけだ。」
「そう。この拡大侵食を止められる可能性が一番高いのはお前・レイ=ベルディア。だから今回頼みに来ている。」
「さらに幻想世界による浸食作用を最も受けやすい存在、それもお前・レイ=ベルディアだ。」
「つまり、今最もフェージョ=サタナに目をつけられているのはレイ=ベルディア、お前だ。」
~~~~
「なるほど・・・ハァ」
スケール大きすぎじゃね?
だって今この時間は二つの世界があって、何かヤバくなってるっていってんだぜ?
勘弁してくれよ。
まだ俺の脳みそが発達してたからってここまでとは・・・
えッ?発達してない?
だったらもう一度この話読み返してみろや
「この場は私が造り出した退避空間。この場所ももうすぐ危ない。」
「早く答えを聞かせろってか?」
「そう。」
ぶっちゃけこんな場所で無感情野郎とはいたくない。今なんて不気味さまで感じてるんだぜ?見てくれよこの鳥肌!見事に逆立ってるだろ?
だからといってあのヤバヤバ幻魔野郎の世界にも行きたくない。
・・・答えなんて決まってたわ
「行くに決まってんだろ。俺の本来の目的はレベル上げだ。」
「自己育成の猶予はない。一刻も早く行かねばならない。」
「行くよ行くよ。でもどうやっていくんだ?」
「幻想世界の中心部にあるのはバンダルスの祠。中心部は、その世界への介入部との言い換えが出来る。」
「じゃあそこにワープさせてくれ。あと回復もしてくれ。」
「分かった。『ベシェリ』」
フィルは回復呪文を淡々と唱える。
じょ、冗談でいったんですけど・・・?
『ベシェリ』とは、味方一人の体力を完全に回復させる回復呪文の奥義的呪文だ。
よくこんな呪文覚えてんな・・・
「・・・完了。では転送を始める。」
「へいへい。早くしてくれよ?俺こういうの酔っちゃうから。」
まぁ多分、だけど・・・
2人は、バンダルスの祠へとワープする。
次回投稿日;5月12日




