十話 わがまま
「・・・・・そんなことがあったんだね・・・」
ヴィリスは今まで知らなかったことを聞いてしまい、少し落ち込んだような表情をしていた。
「・・・・まあ、面白いものではないよな。・・・・人の過去の話なんて」
「・・・・そうだね。お面白くはなかったかな。・・・・それも過酷な話なら、余計に」
確かにそうだなとアダルも軽く笑って見せる。
「まあ、引っ越してからは楽しい言葉かありだったよ。・・・・それまで体験することができかったから余計にな。……それに少しは我慢強くもなったから、今となっては。・・・・まあ、いいことではないな」
納得して見せようと思ったが、それはできなかった。納得してしまったらそれは、自分に非があると認めることになってしまう。それはどうしてもできない。何より両親に申し訳がなくなる。
「・・・・よかった。納得はしてないよね」
「・・・・そうだな。・・・・なんで俺が悪いことにならないといけないのか。・・・・・いまだにそこは納得がいかない。・・・・何より、俺を責めればいいものを。親たちを責めたことを。・・・・・俺は許せないでいるんだ」
自然とふつふつと怒りが込み上げてきた。だがその表情を見てヴィイリスは少し安心したような表情になった。
「それが普通だよ。・・・・理不尽なことに怒りを覚えることはさ」
彼女がそのような表情をしたことにアダルは少し驚いた。
「・・・・なんで安心しているんだ?」
「・・・・だってさ。明鳥君もちゃんと人間性が残っているんだなって。安心したら自然とこんな表情になっちゃった」
「・・・・なんだそれ」
彼女の発言にアダルは思わず苦笑いをする。
「とにかく、安心したってこと。・・・・たったそれだけのことだから」
最後のほうは少し弱くなった。それがどういう意図なのかはアダルは勝手に解釈する。
「・・・・・それで。・・・・・・どうしようっか」
「・・・・妹たちとのことだな」
アダルは少し困ったように頭をかく。
「正直合わないほうがいい。っていうのはさっき話したが」
「そうだね。・・・・・妹さんの地雷を踏みぬく可能性があるんだったらそうしたほうがいいよ。・・・・・だけどさ」
ヴィリスは彼の手の自身の手を乗せた。
「・・・・守るつもりで入るんでしょ?」
「当たり前だろ」
アダルはまっすぐと彼女の瞳を見つめながら返答する。そこには確固とした意志が存在していた
「・・・・陰ながら。・・・あいつらに姿を見せないようにしながら守ってくことにするよ」
それは己で決めていたこと。それを聞いてヴィリスはあいまいにほほ笑んだ。
「・・・・明鳥君ならそういうと思った」
「・・・・予想済みだったのか。・・・・そんなに俺はわかりやすいのか?」
その問いかけに彼女は静かに頷いた。
「・・・・・なんとなく予想していただけ。君は優しいからさ。・・・・顔は合わせはしないだろうけど、大事な妹たちを守ろうとするのは変わらないと思っていたからね」
彼女から語られることに、アダルはほんの少し恥ずかしさを覚える。
「・・・・だから手伝ってくれ。俺たちが出会わないようにするために」
「いいよ」
彼女の言葉にアダルは思わずその顔を見る。その際に驚いた表情を浮かべながら、。
「・・・・いいのか?」
「うん。・・・・明鳥くんの頼みだからね。私は喜んでそれを引き受けるよ」
正直意外だと思った。彼女がこんなにも簡単に引き受けるとは思わなかったのだ。
「・・・・頼んでいる身でなんだが。・・・本当にわかっているのか」
「損な役割だってことでしょ? わかっているよ」
そんなこと彼女だって理解している。理解していながらも、彼女は了承してくれた。
「不思議そうだね・・・」
「・・・・お願いしている立場なのはこっちだ。それを了承してくれるのはありがたいことでもある。・・・・・だがヴィリスには何の理もないのは事実だろ。・・・・それなのになんで引き受けてくれたのか。・・・・・不思議に思っても仕方がないことだろ」
彼の疑問に対してヴィリスは言い返した。
「不思議なことなんかじゃないよ」
凛とした声で彼女はアダルの眼を見据えながら答えた。
「明鳥くん。君はあまり人に助けを求めないよね」
「・・・・・そうかもな」
アダルは曖昧に。それで少しごまかすように笑う。その自覚があったから故尾曾彼はそうするしかないのだ。
「だけど今回。君は私に協力を求めた。・・・・・私はね。それがうれしかったんだよ」
「・・・・うれしかった?」
「うん。うれしかったんだ」
彼女の発言にアダルはいまいち理解ができないでいた。
「今まで頼られてなかったときね。私は自分のふがいなさを強く痛感したんだ。・・・・信用されていないんじゃないかって・・」
「そんなことはない」
「・・・・・そうなんだろうね。君は優しいからさ。あまり私に苦労を掛けたくないって思っていたんだろうなって。。そんなことを考えてしまっていたの」
確かにヴィリスの言う通りのことを彼はずっと思っていた。彼女にはあまり負担をかけたくはない。そういう思いからアダルはなるべく彼女をたたかわせたくはなかった。ただでさえ、今の立場でもすごく大変そうなのだから。これ以上はさすがに重すぎる。彼女がつぶれてしまう。そういう思いがあったから来sアダルはヴィリスを頼ることができなかった。
「・・・・・図星なんだね」
「・・・・確かにそうかもな。・・・・だが、俺の思いも分かってくれるんだろ?」
彼女は少し寂しそうにしながらもうなづいてくれる。
「わかっているけどさ。・・・・それでも結構つらいんだよね。・・・・置いて行かれるのはさ」
その表情がアダルの眼に焼き付いてしまう。それからはもう何も言い返せなくなってしまった。
「・・・・・だからさ。今回頼られるのはうれしいんだよね」
彼女は本当にうれしさを感じているような笑みを浮かべている。それを目にしてしまっては、アダルの中で罪悪感が込み上げてきた。
「頼ってもらえることってすごくうれしいんだよ。・・・・・・だからそれだけで私は引き受ける。・・・・・・・だって信用しているってことの証明になるんだから」
「・・・・・悪かったよ」
アダルはどこか居心地が悪そうに顔をそむける。それを目にしてヴィリスはくすくすと笑うのであった。
「とにかく任せて。頼ってもらったんだからいろいろとやってあげるから」
「・・・・・いつもそういうことをしてもらっているから、負担をかけないようにした一定のもあるんだからな」
心配している表情を見せるアダルであるが、ヴィリスも少し苦い表情をした。
「・・・・・それはごめん」
「・・・まあ、お互いさまってことで今回は勘弁するとしようか」
アダルがそう落としどころを付けると、彼女の方も納得したように微笑むのであった。
「・・・・あまり俺としたら納得できる理由じゃなかったんだが・・」
「ええ!」
彼の主張に対してヴィリスは本当に不服そうであった。だが良く思い返してみれば確かに抽象的なことしか言っていないようにもおもえるから、無理やりその不満は押し殺した。
「とにかく引き受けてくれるってことで。・・・・・安心したよ」
「・・・・もしかして私が引き受けないとも思っていたの?」
その問いかけにアダルは頷く。
「これは俺のわがままだからな。・・・・・・お前は正論を振りかざして、会わせようとするかな。という可能性も考えていた」
「・・・・・・そんなこと。・・・・・確かに。私ならしそうだね」
そう答えると二人して噴出したように笑いだすのだった。




