第1話「君たちの脳はガガガ……」
サタデーナイトフェスの会場は人熱れでエアコンが効かないほどだ。
トリに登場するのはブレイク前夜の5人組女性グループ「テクニカルルーダ」とあってどんどん観客が増えてゆく。
Wセンターを務めるミロクとイブキの人気は絶大で、彼女たちを一目見ようとティーンからミドルエイジまでの男女が押し寄せているのだろう。
キャパ500人のライブハウスはステージ前を熱いファンの一群が陣取っていた。勝手知ったるなんとやらでスタンディングながらフロアに整然と並び比較的落ち着いている。
一方で後方になるにつれ興味本位で滑り込む人が多いため列は乱れがちでひしめきあうため空気が薄くなっているような感じすらある。
やがてステージのセッティングが終わり、BGMが流れ始めると会場のボルテージが一気にヒートアップ。
「テコニカーーッルーーダーーーッ」
慣れた巻き舌で紹介する男性の声が響き渡ると、5人が素早く入場して定位置に付く。
衣装は白を基調としたノースリーブのミニワンピ。そこから伸びる美脚にニーハイをガーターでとめていた。
ファンは心得たもので声を上げる者はいない。彼女たちの一挙手一投足を見逃すまいと集中して固唾を呑む。
「新曲です!」
「ズキュン to コラソン」
ミロクとイブキがそう叫ぶと軽快なイントロが流れ、メンバーそれぞれが精度の高いキレキレな振付で一糸乱れぬフォーメーションダンスを披露する。
「ッヘイ!ッヘイ!」「ステキー」
パフォーマンスが始まるや堰を切ったかのように野太い声や黄色い声が飛交う。
♫
なぜ勝手にわたしの心を奪ってくの?
なぜわたしを自由にさせてくれないの!
なのにあなたはアナザガールと遊んでばかり
乙女心をわかっちゃない
もう堪えられない
慌てたってもう手遅れ
ズキュン to コラソン
ズキュン to コラソン
♫
ワンコーラスを歌い終えたところでミロクが呼びかける。
「みんなー!楽しんでる-!」
「ウォーーーー」
会場全体がリアクションすると渦を巻くように轟いた。
「じゃあもっといくよー」
ステージ上の彼女たちはいつの間にかピストル状の玩具を構えている。
「水鉄砲で遊ぶつもりだな」最前列にいたオレは身を乗り出した。
もう何度もライブを見ているから彼女たちのノリをいち早く察知できるのだ。
「シンジくん、来てくれたんだ」
「ミロクちゃん!」
ミロクが気づいて微笑んだ瞬間、額に激痛が走る。
何かで撃たれた感じだ。エアガンか?
滴り落ちる液体を指で触ると濃い赤色をしていた。
「え?」
オレが驚いていると、会場のあちこちから悲鳴が上がった。
「キャー」「グエッーー」「なんじゃこりゃ」
「みんなーっ、ケチャップの味はいかがー」
悲鳴を聞いてミロクが楽しげにしているではないか。
どうやらペイントボールガンにケチャップを仕込んだらしい。
まさかファンサービスのよさで「神対応」と評判のミロクがそんなムチャをするなんて。
オレは解せない気持ちでステージに目をやる。
当のミロクは同期のイブキと銃口を向け合うところだった。
「いい?」
「いくよ」
2人はうなずきながら引き金に手をかけた。
「せーの」
ビシッ ビシッ ビシッ ビシッ
目の前にいるオレには、彼女たちの肌に弾が当たる鈍い音が聞こえる。
飛沫とともに白い衣装が赤く染まっていく。
二人とも体が震えていた。
「やめろーーーっ!」
オレがフェンスを乗り越えようとしたそのとき……演出用のスクリーンに映像が現われた。
灰色の丸い頭部。
黒い穴が開いたような大きな目。
典型的なエイリアン顔だ。
ジジジッピーッガーッ
雑音に混じってよく聞きとれないが、語りかけているらしい。
「ワレワレハウチュウジ ア チガッ・・・」
ガチャガチャ ピーッガーッ
「キミタチノノウワ・・・」
ガガガッピーッ
カタコトの日本語が雑音で掻き消されるうえに、新曲の間奏が重なってなおさら聞き取りづらい。
「ア、ナンデマタ・・・チッ」
ガチャガチャ
しばし機材を操作する音がして間奏は聞こえなくなり、エイリアン顔の声だけが響く。
「イウトオリニシナイト ツギワチガナガレルゾ」
ガガガッ
ピーッ
ブツ。
内容がよくわからないまま音声も映像も消えた。
静寂が訪れたのも束の間、会場はパニックと化す。
ケチャップ弾を浴びたうえにミロクとイブキまで撃ち合って倒れている。
しかもエイリアン顔が「ツギワチガナガレルゾ」と脅迫する言葉を残したのだから無理もない。
「きゃー」
「ヤバイんじゃね」
「逃げろ」
出口に急ごうとして収拾がつかない。
ステージでは関係者がメンバーに駆け寄る。
オレはそんな大人たちに手帳を見せた。
「警察です。事情を聞かせてもらえますか」
まったくもってなんてこったい。
せっかくの休暇がとんだことになっちまったぜ。




