表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠りの彼方~誰がために目覚めるか~  作者: つつじ とさか
第3章 ~あさまだきに抱かれる少女~
85/87

3.踊るは火の戯れ②-2


 アディがロフティの腕を引っ張って導いた先は、先程見つけた二階建てのレストランだった。


 「うちの娘を助けて下さってありがとうございます。お祭りの時は娘の相手をしてやれなくて……お礼にどうぞこちらでくつろいでください」


 そう見るからにシェフらしき父親が歓迎してくれた。

 まさかそんな偶然があるものなのか弥彦たちは神獣に対して言及されることもなく、二階の昇華台が見下ろせる窓際の席に案内された。悠々と昇華台を眺められる贅沢な特等席だ。


 現実では数か月もしくは一年前から予約を取らないと座ることが出来なさそうだ。思えば唐突だったというのに祭当日の宿に空き部屋があったことや、フォイエルバとアイスを買った矢先に席が空いたことなど、タイミングが良すぎることが何度もあった。本来の観光客が多く来る有名な祭りならこの席がたまたま空いているなど万が一の可能性がなくはないものの有り得ないに近い。


 幻の類なのであれば自分の都合のいいシチュエーションが続いて起きるのも変に納得がいく。


 周りを見回すと、店の中も外と同様に大盛況のようだ。子供のことに目配せが行き届かないのも仕方がないように思えてしまう。


 「お礼なのでどうぞ遠慮なく食べてくださいな」


 そう言って前菜に始まり、食べていくにつれて新しい料理が運ばれてくる。まさかコース料理を提供されているとは思わず、三品目から弥彦は焦りだした。


 「こんな豪華な料理、御相伴に与って良いんでしょうか……⁉」


 サラダはシャキシャキとした感触と甘酸っぱいドレッシングが絡まっていつの間にか食べ切った。その後のコーンスープもクリーミーながらも後味が軽やかでぺろりと平らげてしまう。そしてメインの肉料理は香草焼きのステーキで、添えられた野菜もまた旨い。互いを引き立て合い、一口ごとに彩りの変わる味覚が楽しめた。


 これでは次にどんな感動の嵐が巻き起こるのか期待してしまう。それと共にこの質は間違いなく高級レストランのそれだと素人ながらに勘ぐってしまう。きっと同じ気持ちだろうロフティがぷるぷると肩を震わせた。


 「弥彦……さっきそこで食べてる家族の会話を聞いてしまったのだけれど、さっきのシェフは村長らしいわよ……祭の主催者でもあるらしいわ……」


 「忙しくないですか⁉」


 村の管理をしつつ高級レストランを営んでいるとは――しかも今日は祭りで繁盛している。幻の村だからといって多忙が過ぎるのではないだろうか……。


 「いったいこの設定は何から反映されてるんだろう……」


 美味しいご飯で英気を養えるのは願ったりだが奇妙さが際立ってきた。

 皿の傍らで一口ずつ堪能している白夜は口回りをぺろりと舐めて言った。


 「めっちゃうめえし、腹が膨れるならいいんじゃね~?」


 食事を必要としない神獣も味覚を楽しんでいるようだ。


 「そう、だね」


 白夜の考え方も頷ける。


 「遭難する可能性も無くもないわ――手段は選んでられないわよ」


 「きゅきゅ!」


 リシェットもロフティに激しく同意のようで、小さく切り分けられた魚肉を頬張りながら強く頷いた。

 空腹で倒れる危険性がないのはありがたい。ひとまず得られるものは得ようと食べ進めた。

 柑橘系の果肉が散りばめられたゼリーを食べた後には、またアディとその両親が揃って挨拶に赴いてきた。


 「お姉ちゃん、今日はわたしたちを助けてくださってありがとございました!」


 片腕に先程ロフティが助けた人形を抱えつつ、スカートの端を持ってお辞儀するアディはさながら貴族のお嬢様の立ち居振る舞いだった。シェフであり村長であるらしい父親はコック帽を脱いで一礼する。


 「本当に助かりました。お礼にこんなことしか出来ずすみません」


 ロフティは首を横に振る。


 「いえ、こんなに振る舞っていただいて、物足りないだなんて思わないわ。むしろこんなに頂いてよかったのかしら……」


 それに対して給仕の格好をしたアディの母はにこやかに言う。


 「それは勿論です! 口に合いましたか?」


 アディの母親の問いに、弥彦は幻だということを忘れて頷いた。


 「はい、びっくりするほど美味しかったです」


 「それならなによりです」


 アディの父親は満足げな顔になる。


 「そこから昇華台がご覧になれますよね。祭りでは一番の観覧席なんですよ。これから今日の一大イベントが始まりますから、お食事後もどうぞ心ゆくまでご利用ください」


 「そ、そんなに長居してもいいんですか?」


 「ええ。それにこの子の晴れ舞台を、一番の観覧席で見ていてほしいんですよ」


 そういって父親はアディに微笑みかける。


 「晴れ舞台ってなにかしら?」


 「はい。我が村で一番美しい少女が祭りの最後の花を飾るんですよ。嬉しいことに今年は我が愛娘が選ばれましてね」


 そう自慢する父親は誇らしげで、アディも嬉しそうに頬をほんのり赤く染めた。


 「村一番ってすごいですね⁉」


 自分の経験上、町内会や学校の大会などで代表として選ばれた事はついぞなかった。代表になれること事態凄い事だと弥彦は素直に感激してしまう。


 「我々も愛娘の準備のために出発します。店は他のスタッフに任せるのでドリンクなどの注文があればスタッフにお声かけください。何杯でもサービスいたします。それでは最後までおくつろぎくださいね」


 「あの、おねえちゃん」


 「――? なにかしら?」


 アディはどこかもじもじとしている。ロフティは首を傾げつつ優しい表情で待っていると、やがてアディが上目使いで、うわずった声で言った。


 「アディのこと、よく見てくれる……?」


 緊張しているのだろうか。アディは胸に抱く人形を力強く抱いているようだ。ロフティは一瞬驚いたような顔をするが、ふっと笑みを浮かべた。


 「えぇ、もちろんよ。気を付けていってらっしゃい」


 その艶やかな髪の頭を撫でると、少女は花のような愛らしい笑顔になった。


 「うん! 絶対目を離さないでね!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ