幼馴染の最期
先陣切って飛びかかってきた内臓剥き出しの猪を、光り輝く神聖剣で縦に真っ二つに切り裂いた。
「散開してすべてを蹴散らすんだ! あいつらは多分……リヨンバラッドで見た暴漢たちと同じ奴らだ!」
叫びながら新たに襲ってきた敵を見た。
輪切りになった状態の巨大蛇の一部が回転しながら、身に宿す刃のような足で俺を切り刻もうとしてくる。
奴から飛び散る黒い瘴気のようなものが、強烈な腐敗臭と共に俺の身体を壊死させようと襲いかかってくる。
リヨンバラッドの暴漢とこいつらが同じような理屈で生み出されたのかどうかはわからない。ただ、確かなことは、あの暴漢たちよりも数十倍は質の悪い存在だということだった。
死んでいる人間すらアンデッドのように復活させてしまうのだから。
おそらく、暴漢と同じように奴らの体液を大量に浴びたら、同様に汚染されてしまうだろう。
「ちぃっ、面倒な!」
俺は剣刃に精霊力をかき集めて、一気に振り下ろした。
その一撃は、イリスやレンディルたちが時々放つかまいたちのような斬撃を生じさせて、前方にいた数体をまとめてぶった切っていた。
「イリス!」
左手前方に突進して戦闘を繰り広げ始めていたイリスが、元王国兵の死人たちに囲まれていた。彼女は一瞬、躊躇するような素振りを見せたものの、
「ごめんなさい」
無表情にそう呟いて、踊り狂うように縦横無尽に剣を振り回した。
その一撃で五人ほどいた敵がすべて切り裂かれて地面に倒れる。
空中に飛び散るどす黒い瘴気をまとった黒い鮮血。
それを避けるように、彼女は空中一回転して後方へと着地した。しかし、すぐさま、第二、第三の敵が襲ってくる。
輪切りとなった蛇数体が一斉に襲いかかってきた。
「こうなるとわかっていたら、バラバラになんかしなかったのにねっ」
そう叫んで、彼女は再び戦闘を開始した。
「せいっ」
右手前方でも、エルレオネが戦神もかくやというほどの猛々しい戦いを繰り広げていた。
長大な戦斧槍が振り下ろされる度に、そこに宿った炎が死獣を切り裂き、炎上させた。
突進してきたトカゲのような巨大魔獣へと槍が突き入れられる度に、勢いそのまま、ぐしゃっと、信じられないことに頭を起点に左右へと身体が真っ二つに裂けていき、やはり同じように炎上する。
イリスもエルレオネもまったく危なげなく、敵を一方的に駆逐していた。
これだったら大した問題にはならないだろうと、そう思ったときだった。
「ぃゃだぁ……」
「タスケテクレェ……フレッドォ……」
俺目がけて、よく見知った男二人が突っ込んできたのである。
「ゲール……ハワード……」
二人はもはや、人間と呼べる姿をしていなかった。
右腕、左足を失ったゲールは、そこから黒い瘴気を迸らせて、擬似的な手足を形成し、瘴気で作られた腕でボロボロに刃こぼれした聖騎士の剣を握りしめていた。
ハワードはゲール同様、目を赤く光らせ、切り裂かれた胸の傷からは瘴気が漏れ出ている。
そして、彼もまた手には長剣を握りしめていた。
「……あんなになってまで、生前持っていた俺を倒すという意識は健在だっていうのか……?」
俺の脳裏には瞬間的に、子供の頃の情景が浮かび上がっていた。
二人とも、レンディルほど付き合いは長くないが、十歳前後の頃からレンディル派を気取るようになり、奴の腰巾着となって事あるごとに俺をバカにしてきた。
ときには激しい憤りを感じることもあったが、それでも、徐々に疎遠になり始めていたイリスがその現場を見つけたときに鬼の形相で撃退してくれたから、個人的にそこまで奴らに強い恨みも殺意も抱いていなかった。
「だが……こうなってしまったらもう……」
一思いに一撃で葬ってやることが、奴らにとっては何よりの供養となるのかもしれない。
俺は覚悟を決め、腰を低くし身構えながら精霊力を充填した。そして、ただの一撃で二人まとめて葬ってやろうと、横薙ぎに剣を一閃させようとしたときだった。
「よせぇぇ! 止めろっ、フレッドォォッ。二人ともまだ生きている! 生きているんだっ。だから攻撃するなぁっ」
遠くの空から、半狂乱となったレンディルの叫びが聞こえてきた。しかし、
ザンッ。
俺は巡る感情すべてを押し殺して、一気に剣を振り抜いていた。
真っ白く輝く軌跡が長剣を振り下ろそうとしていた二人の胴体へと炸裂した。
瘴気混じりのどす黒い鮮血を撒き散らしながら、ゆっくりと胴体がずれていき、そのまま二人は真っ二つになって、絶命した。
「フレッドオオォッォォッ~~~~!」
死人や死獣となった敵のほとんどが全滅し、辺り一面が静かになり始めたその場には、レンディルの絶叫だけが木霊していた。
「なぜ殺したっ。なぜお前はあいつらを殺した! 殺す必要なんてなかったはずだっ。お前にとっても幼馴染だったはずなのに、どうしてお前は奴らを殺したっ」
ヒースに担がれた状態で大暴れしながら絶叫し続けるレンディル。
遠目から見ても、既に正気を保っているようには見えなかった。
完全に狂ってしまっている。
「坊ちゃん。この場は引きますぜ」
「ふざけるなっ。殺す! 絶対に奴を殺す! このままでは死んでいった奴らが浮かばれない! 離せ、ヒース! 俺は――」
しかし、レンディルの声は最後まで続かなかった。ヒースが手負いのレンディルへと手刀を打ち込み、気絶させてしまったからだ。
ぐったりとなったあいつを肩に担いだ状態で、ヒースは俺たちに一礼すると、
「それでは、今日のところはこの辺でおいとまさせていただきますよ。クフ。せいぜい、がんばって十二神将と遊んでくださいませ」
そう下卑た笑みを浮かべながら、北西方向へと去っていった。
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