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転生して未来視に目覚めた俺。追放や破滅の未来を変えようとしていたら、俺のことが好きすぎる幼馴染女王様に拉致された挙げ句、旅のお供にされてしまったんだが?  ~転生竜騎士と愛の重い逃亡剣姫  作者: 鳴神衣織
第12章 帝国編 ~断ち切られた絆と生まれる憎しみ~

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それぞれの戦い2



 【神獣とナーシャサイド】


 馬車の外から、イリスの鋭い叫びが飛んできた。



(そんなこと、言われなくたって百も承知よ)



 神獣フローズヴィトニルは狐のような耳をピクリとさせると、幼子の膝の上に座ったまま、彼女の顔を見上げた。

 黒いフードを被った小さな女の子は、突然起こった喧噪に戸惑っているようで、周囲をキョロキョロしていた。


 シロはそんな彼女を見つめながら、彼女と出会ってからこれまでにあった色々なことを思い出していた。

 シロは卵の頃からずっとナーシャの声を聞いてきた。自分のために親身になって卵を守ろうとしてくれたり、本気で愛おしそうに抱きしめてくれたりと、卵が早く孵ってくれることを心の底から祈ってくれた。


 だから、ナーシャのことだけは信じてみてもいいかなと思ったのだ。

 人間不信な上に人間嫌いだったけど、自然とナーシャのことだけは特別だと思うようになっていた。

 そうしていざ卵から孵り、現代へと蘇ることになった。


 卵から孵った直後は色々なゴタゴタや前世のことを思い出して、腸が煮えくり返って大暴れせずにはいられなかったけれど、友達になって欲しいって言ってもらえて本当は嬉しかったのだ。

 だから、最終的に色んなことがどうでもよくなって、ナーシャのお願いを聞く形で彼女の姉であるイリスと契約することも承諾した。



(本当はね、ナーシャ。あなたが教えてくれた契約特典っていうの、まったく信じてなかったのよ。でも、実際にマスターと繋がってみて、よくわかったわ。人間は今もまだ大嫌いだけど、でも、契約するとこんなにも素晴らしい力を使えるってこと。だからね、ナーシャ)



 幼子がシロの声に応えるように、彼女を見つめてくる。



(うん? どうかしましたか、シロちゃん)

(私は全力であなたを守るわ! たとえこの世界に住むすべての人間を始末してでも!)



 そう宣言したときのシロは、どことなく怖いぐらいに残虐な笑みを狼のような小顔に浮かべていた。

 だからだろう。



(それはダメでしゅ! メ!)

(ニャ! にゃぜにゃにょよっ)



 顔をちっこい手で挟み込まれて、シロはもごもご言い始める。

 しかし、ナーシャはそれでも眉をキリッとさせたまま、お説教を続けた。



(ナーシャは皆と仲良くしたいのでしゅ! みんなお友達になるでしゅ! そうしゅれば、ケンカしなくてもよくなるでしゅよ!)



 にかっと笑ってそういう彼女。

 幼いながらも懸命に絞り出した答えだったのだろう。

 シロは、それが絶対に不可能な理想論だということを身をもってよく理解していたが、



(わかったわよっ。だったら、ナーシャのために最善を尽くすわ!)

(うん~~! おねがいしましゅ!)



 笑い合う二人。そこへ、



(おいらも絶対にナーシャを守ってみせるよっ)



 黒いスライムのぽこちゃんも、弾けるような明るい声を絞り出すのだった。





 【エルレオネサイド】


 エルレオネは目の前に座ってちっこい生き物たちとわいわいやっているナーシャたちを眺めながら、周囲を警戒していた。

 このような事態になってしまう可能性も最初から考慮されていたから、別段驚いてはいない。


 どこかのタイミングで追い付かれて戦闘は避けられないだろうと思っていたから。

 しかし、よもやミュンヘルの手前で待ち伏せされているとは思ってもみなかった。しかも、なぜか帝国の衛兵までもが動いている。



(これはいったいどういうことでしょうか? まさか、皇后様が一枚噛んでいるなどということはありませんよね……?)



 皇后とはそれなりの歳月を共に過ごしてきたが、未だに何を考えているのかわからないことが多かった。



(単純に王国からの追手に兵たちが踊らされたのか、もしくは何かを予見して皇后様が動いているのか)



 ともかくだ。



「デールさん」



 エルレオネは御者台で状況の推移を見守っていた大男へと声をかけていた。

 デールは振り返るなり、眉間に皺を寄せて口を開いた。



「なんだ?」

「ここまでの道程、あなたには本当に色々なことで助けられてばかりでした。この場をお借りして、心より御礼申し上げます」



 そう言って頭を下げる彼女に、デールは渋面となる。



「礼なんかいい。それより、これはいったいどういうことなんだ? 何が起こってるっていうんだ?」

「……そうですね。さすがにこの段に至っては事情を聞かなければ納得できないことも多いでしょう。ですが、多くを語ることはできません。単純に、フレッド様方は悪い人たちに追われていて、彼らから逃げていたのですが追い付かれてしまった。そういうことにしておいてください」



 無表情に告げる彼女に、デールは諦めたかのように溜息を吐いた。



「まぁ、色々込み入った事情があるっていうのはわかっていたし、あんたがこの国のお偉いさんなのも、あの証書を見て知ってるからな。そういう意味ではやはり、国家機密に触れるんだろうけど。だが、この状況、いったいどう収めるつもりだ?」

「正直、わかりません。既に戦火の火蓋は切って落とされてしまっているようですし、私たちにできることは彼らを引かせることと、ナーシャ様を敵から死守するということだけ。ですので」



 エルレオネはそこで言葉を切り、ふっと、表情を柔らかくした。



「デールさんの役目はここまでです。今まで本当にありがとうございました。これ以上の深入りはせず、今すぐお逃げください。おそらく彼らは、デールさんに対しては攻撃をしかけてこないでしょうし、乱戦に突入する前にミュンヘルへとお逃げくださいませ」



 彼女は言いながら、金の入った袋をデールに渡して立ち上がる。



「お、おい! どこへ行く気だ?」

「私の役目はただ一つ。フレッド様たちの護衛です。馬車の外へと出て、必要とあらば敵を蹴散らします。ですので――」



 しかし、彼女の言葉は最後まで続かなかった。



「あぁ、くそ! どうしてこう、国家絡みの案件は面倒くさいもんが多いんだろうな!」

「デールさん?」

「――エルレオネさんよ。ここまで絡んでおいて、一人で逃げられるわけがないだろう? しかも、あの帝国兵、どうも動きがおかし過ぎる。もし仮に俺が一人であそこに向かったとしても、奴ら、俺のことを賊か何かと勘違いして排除しにかかるかもしれない。だったら! もう俺たちは一蓮托生だ! 最後まで付き合ってやる!」



 そう言って、ニヤッとするデールだった。

 エルレオネはそれを不思議な生き物を見るような目で見つめていたが、ふっと、溜息を吐いてから、微笑した。



「あなたもほとほと、お人好しなのですね」

「かもしれないな」

「――わかりました。でしたら、ナーシャ様のことをよろしくお願いします」

「わかった。だが、あんたはどうする?」

「私ですか?」



 エルレオネは荷台前部の幌の合間から戦場となっている草原を見渡した。前方、十メートル以上離れた場所では、フレッドが何者かと剣刃交えていた。

 右斜め前五メートル先では、周囲を取り囲まれているイリスが舞い踊るかのように、すべての敵を翻弄していた。


 ぱっと見、膠着状態となって均衡が保たれているように感じられたが、彼女の目には一点、強烈な違和感となって、何かがその場を支配しているように思えてならなかった。

 その元凶となっているのが、遙か彼方ですべてを見渡すように待機していた黒騎士だった。

 エルレオネの本能が、あいつはこの場にそぐわない異質で危険な存在であると告げていた。



「私は、あの者を排除してきます」



 そう静かに告げて、馬車から飛び出していった。

 それを眺めていたデールは、



「本当に、とんでもないことになったな……」



 一人呟いた。





 【黒騎士サイド】


 一人だけ、戦場から少し離れた場所で全体を俯瞰していた黒騎士ことヒースは、ふと、楽しげにニヤッと笑った。



「もうじきだ。もうじき、すべての盤面が整う。クフフ。アレさえこの場に顕現すれば、用意した舞台が晴れて完成するのだ。クフフ。さぁ来るがよい! 大いなる闇の向こう側より!」



 彼は恍惚とした笑みを浮かべながら両手を広げて天を仰ぎ見た。

 そこへ、



「ヒース様。お待たせいたしました」



 彼の背後へと、トカゲ型幻魔の背に乗って移動してきた別の黒騎士が近寄ってきた。

 ヒースの副官のレインだった。



「クフ、来たか」



 振り返ったヒースは、レインが連れていたおぞましい異形の者たちを視界に入れ、これ以上ないというほどの醜悪な笑みを浮かべた。



「ですが、ヒース様。本当にこいつらを使用するのですか? 下手したら、味方すら巻き込みかねませんよ?」

「うん? 何を言っている? 別に構わないではないか」

「はい?」

「遅かれ早かれ、奴らは皆死ぬのだ。アレによってな。だったら、こいつらによって死のうが生き延びようが別に構わないだろう? それに、陛下にはこの辺で退場しておいてもらった方が色々と都合がいいからな。クフフ」



 ニマニマ笑うヒースに、レインは動揺したように顔を引きつらせる。



「本当にあなたという人は……。では、この場にいる者たちすべてを生贄にすると、そうおっしゃるおつもりですか?」

「本来であればそうしたいところではあるが、奴にはまだ利用価値があるからな。クフフ。奴だけは連れ帰るつもりだよ」



 そう言って、ヒースは遠くを見つめるようにしたあと、ふと、北東の大森林へと視線を投げた。



「ところで、奴らの動向は突き止めておいたのだろうな?」

「――はい。おそらく、間もなくかと」



 それを聞き、ますますヒースは愉快そうにクスクス笑った。



「これほど濃密な闇が巻き起これば、奴とて黙ってはいられないだろう。クフフ、それまでは俺も、どこかで遊んでくるとするか」



 そこまで言って、ヒースは百メートル以上離れた場所で停車していた馬車を視界に捉え――そして、気が付いた。

 猛スピードでこちらへと肉薄してくる、長大な戦斧槍を肩に担いだ何者かの姿を。



「クフフフ。面白い! これはいい暇つぶしになりそうだ!」



 叫ぶや否や、彼もまた跳躍するように駆け出した。

 その背に、慌ててレインが声を張り上げる。



「ヒース様! こいつらはどうすればいいんですか!?」

「頃合を見計らってすべて解放しろ! お前はそのあと、一人撤退するがいい!」



 それだけを言い残し、あっという間に姿を消した。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

とても励みとなりますので、【面白い、続きが気になる】と思ってくださったら是非、『ブクマ登録』や『★★★★★』付けなどしていただけるとありがたいです。

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