肉壁
「ちぃっ。ホントにうじゃうじゃいるな! しつこいんだよっ」
俺は襲いかかってきたムカデのようなデカい魔獣を一刀両断にしていた。
ムカデは真っ二つになりながらも、すぐに動きを止めることなく、体液撒き散らしながら坑道内部でジタバタ暴れもがいていた。
しかし、そんな死にかけ魔獣に気を取られている余裕はない。
「文句を言っても始まらない! 片っ端からたたっ切るだけだ!」
大剣をぶん回していたデールが飛びかかってきていたデカいネズミを壁に叩き付けるように蹴散らした。
「あなた、いいこと言うじゃない!」
イリスもまた、どこか面白そうにいつものニヤけ顔を浮かべながら、サソリ型魔獣を三体同時に細切れに粉砕した。
相変わらず素晴らしい剣技だった。
「だが、あとどのくらい倒せば落ち着くんだ? これ」
「さぁな。ただ、もう大分奥まで潜ってきている。これまでに遭遇した奴らは片っ端から始末しているからそのうち殲滅できるだろう!」
「それ、目的変わってる気がするんだけどなっ」
俺とデールは互いに叫びながら、新たに湧いた魔獣をボコボコにした。
俺たちが今いる場所は、坑道の中層と呼ばれる場所だった。
この廃坑は上層、中層、下層の三つのブロックに分けて管理していたようで、入口付近の上層は基本、ずっと一本道だった。
幅も普通に五人ほどが一列に並んで歩けるような広さもあったから、足場が悪くても歩きやすかった。
ただ、穴の奥から敵が襲ってきたときはさすがに五人一列に並んで剣を振り回すようなことはできない。
だから、イリスかデールが最前衛となり、俺がその後ろで援護しながら、二人が討ち漏らした敵を背後にいるナーシャに攻撃が及ばないよう、すべて狩り取った。
殿を務めてくれていたエルレオネは背後からの敵を警戒しつつ、俺が漏らした敵を処理する役目を負ってくれた。
そんな感じでひたすら歩き続けて、ようやくここへと辿り着いたのである。
「次!」
まん丸の甲殻虫のようなデカい魔獣を、紙を切るように真っ二つにした俺は更なる敵を求めて周囲に視線を投げた。
現在のこの場所は一際開けた場所となっており、進行方向に二つの穴が口を開けている分岐部屋のような形となっていた。
そのため、戦いやすいのはいいのだが、前方二カ所の穴から通常の倍近く、敵が立て続けに襲ってくるという非常に面倒くさい状況に追い込まれていたのである。
「にしても、デールって本当に強いな。抗夫にしておくのはもったいないぐらいだ」
呟きながら、俺は右前方から特攻してきた巨大なハリネズミを蹴散らしていた。
「一応、ハンター登録もしているから、ただの抗夫ではないがな!」
デールもまた叫びながら、大剣で押し潰すようにムカデを地面に叩き付けていた。
この坑道は既に廃棄されて一年も経っているから当然、明かりなどはない。
しかし、俺が召喚した精霊や、ナーシャに持ってもらっているランタンの明かりによって、赤茶けた壁の色までくっきりとわかるほど明るかった。
「エルレオネ!」
そのとき、左の穴から溢れ出してきていた魔獣の処理に当たっていたイリスが鋭い叫びを上げた。
見ると、彼女の攻撃をかわした真っ黒いカサカサしている奴が、壁を伝って広場出口方向へと走っていったのである。
そこには、周囲をキョロキョロしているナーシャが立っていた。
「お任せください」
出口から侵入してきた魔獣に背後を突かれないようにと、ナーシャと一緒に待機していたエルレオナは短く言い、素早く動いた。
長い触覚の生えた細長い黒い甲虫が羽を広げてナーシャ目がけ飛んでいくが、それよりも早く、エルレオネが手にする戦斧槍が一閃される。
巨大な鎌を思わせる斧部分が炸裂し、デカくて気色悪い虫が地面に落ちる。
どうやら、それが最後の一匹だったようだ。
五メートル四方はありそうなその場には、足場の踏み場もないほどに魔獣たちの屍が散乱していた。
気の弱い人間であればおそらく卒倒して死骸の山の上にぶっ倒れていることだろう。
それほどに、あまり見られた光景ではなかった。
「ひとまず、これで一息つけるか……?」
「そうだな。だが、今この場所はまだ坑道の入口の方だ。この鉱山は蟻の巣のように縦横無尽に広がっているからな。それを考えるとまだまだ大量の魔獣が生息していると考えて間違いないだろう」
「つまり、今倒したのは氷山の一角ってことかよ」
淡々と聞きたくない事実を突きつけてくるデールの言葉に、俺はうんざりした。
「だけれど、別にすべての魔獣を退治する必要もないのでしょう? ていうより、私たちの目的は氷結の洞にあるわけだし」
そんなことを言いながら、イリスが死骸の隙間を飛び跳ねるようにしてナーシャの元へと近寄っていった。
「大丈夫? ナーシャ。気分は悪くない?」
「う、うん。大丈夫でしゅ……」
慈愛に満ちた優しい声を出しながら、心配そうに幼子の頭を撫でるイリス。
ナーシャは言葉とは裏腹に、あまり元気ではなさそうだった。
「無理もないよな。大人ですらこんな光景、見たくないし」
「だな。だが、今回はそれが逆に功を奏したかもしれないな」
そう言ってデールは大剣を使ってすくい上げるようにしながら、死骸を左の穴の方へと放り投げ始めた。
「ん? 何してる?」
「この鉱山を魔獣の手から取り戻したいと思っている俺たちから言わせてもらうと、本来であれば、これを機会にすべての魔獣を殲滅したいところだが、さすがに無理がある。だから今回はお前たちの目的を最優先する」
そう言いながら、黙々と死骸で穴を埋め始めた。
「なるほど。そういうことか」
「あぁ。こっちの穴は下層の鉱床へと繋がっている坑道だからな。俺たちが今から行く場所は右側だ。何しろ氷結の洞は中層にあるのだからな」
「つまり、とりあえず中層の敵だけを殲滅しながら進んでいけば、退路を確保しながら先に進めるかもしれないってことか」
「そういうことだ。だから、一時的な防御策にしかならないが、こっちを封鎖してしまえば戻ってくるまでは魔獣どもを抑えておけるだろう」
「わかった。なら、俺も手伝うよ」
俺はそう応じて、デール同様魔獣の死骸やこの広場隅に置かれていた樽の残骸などを、片っ端から穴へと積み上げていった。
そうして、すべてのゴミが撤去されてある程度綺麗になったとき、左側の坑道は悪臭を放つおぞましい物体で積み上げられた肉壁によって封鎖が完了していた。
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